(三)

 実験の正確な説明をされて、そして装置の設定が始まった。口の中に機材が入れられて、上手く合うように調整がされていった。丁寧に慎重に作業が進められて、確かに時間がかかった。

「唾液腺だとか、気をつけないと危険なんです」

マルが謝るように言った。僕は口をあんぐりと開けてそれを聞くだけで、頷くこともしなかった。正しくは、できなかった。設定完了までは動かないように言われていたのだ。

 準備が終わり、いよいよ実験が始まる。口が塞がれて、声を出すことはできなくなっていた。

「大丈夫ですか。首を動かしてください」

マルの言葉に首を縦に振る。

「はーい。じゃあ始めまーす」

手元に四つのボタンがある。それぞれ味覚の種類に対応していて、与えられた感覚のボタンを押し、装置が上手く働いているかを確認する、そういう実験らしい。

 事前の説明でフカ博士は、

「塩味、酸味、甘味、苦味で、それぞれ強さを変えてやるんだけど、我慢できるかな」

と言っていた。酸味が怖いような気もしたが、それよりも興味が勝っていたので、

「大丈夫です」

と答えた。一番良い刺激は興味なのかもしれない、とそんなくだらないことを思った。

 そして、途中強い酸味にも耐え、なんとか実験は終わった。

「最後までありがとうございました。外しますね」

彼らはここで装置を外さない予定だったということだろう。確かにこれならいちいち着脱しない方が賢明だと思った。それが完了して漸く、僕は久しぶりに喋ることができるようになった。

「これ、凄いな。凄すぎる」

「そうですよね、凄いですよね。成功して良かったです」

マルの声には勢いがあって、喜びの感情が伝わってきた。フカ博士も満足そうに笑みを浮かべていた。

「ありがとうね。まあ疲れただろうから、ゆっくりしなさい」

僕はそれに素直に従い、椅子に座って水を飲んだ。すると、いつの間にか意識が落ちていた。

 次に気がついた時、ベンチに座っていた。僕は困惑しながらもここがどこであるかを確認すると、駅の北口であった。

 腹が減っていた。

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