陰キャに転生した魔王は現実世界で無双する
海道一人
第1話:魔王転生する
どうやら俺は転生したらしい。
目の前で人間がこちらを見下ろしている。
何故人間如きが魔王であるこの俺を見下ろしているのか、それは俺が人間に転生したからに他ならない。
俺の名はバルザファル、人間には魔王バルザファルと恐れられていた最強の魔族だ。
魔界を制覇した俺を恐れた人間は勇者と守護女神を送り込んできた。
勇者と言っても所詮は人間、魔王であるこの俺に敵うはずもなかったのだが奴についている守護女神が厄介だった。
愛と叡智の女神エレンシア、この世界の森羅万象に精通したこの女神はあらゆる魔法を防ぎ、女神の強力な支援を得た勇者は勇猛果敢に俺を攻め立ててきた。
激しい戦いではあったが、それでも魔王であるこの俺が負けるわけはなかった。
しかし勝利を確信したその瞬間、女神エレンシアが究極魔法
魂を次元の狭間へと封印する究極の封印魔法……のはずだったが何故か俺の魂は異世界へと転移していた。
しかもあろうことか人間の肉体の中へだ。
つまり俺は異世界の人間に転生したということになる。
転生と言っても幼児として生まれ落ちたわけではなく、一度死んだ人間の肉体に魂だけが入り込んだらしい。
何故そんなことを知っているかと言うと意識が戻った途端に肉体に残っていた知識と記憶が流れ込んできたからだ。
その記憶によるとこの肉体の元持ち主の名前は
川で溺れて魂が抜け落ちたところに俺の魂が入り込み、こうして息を吹き返したというわけだ。
そして俺を見下ろしている人間は俺の両親であることも森田 衛人の記憶を通して理解していた。
森田 衛人の知識がここは病院で俺はそのベッドに寝ているのだと告げている。
「衛人、無事か?無事なんだな?私たちがわかるか?」
「ああ、本当に良かった……なんで川なんかに……」
両親―父である
どうやら2人は自分の息子はとうに死んでいて、今は俺が成り代わっていることに気付いていないらしい。
そんな2人に僅かな憐憫の情を覚えることはあったがそれ以上の感情はなかった。
結局のところこの2人は俺にとって全く他人、それどころか種族すら違うのだから。
やがて両親は看護師に促されるままに病室を出ていった。
どうやら俺は検査のために数日間入院する必要があるらしい。
しかし病室に1人残されたおかげで今の状況をゆっくり考える時間ができた。
まず日本と呼ばれる異世界の人間に転生したこと、これは理解した。
そして転生したのは森田 衛人という少年であること、これも理解した。
しかし日本がどういう国なのか、そして元の世界に戻る方法があるのか、それはわからない。
森田 衛人の記憶を紐解けば日本という国に関してはある程度分かるが所詮は17歳の少年、自分の身の回りのこと以外は勉学やニュースなどの伝聞でしか知りえていないようだ。
つまりこの国の現在の政治機構、経済状況、治安といった大局的な事柄は一切わからないと言ってもいい。
「とりあえずは慎重に動く必要がありそうだな」
考えるのは先にしてまずは自分の体を把握することにした。
腕を伸ばして手を広げ、次に握る。
足を上げて上下に動かす。
どうやら五体に異常はないようだ。
次にベッドから立ち上がってみる。
この森田 衛人という男、この国の平均的な17歳としても痩せ気味のようで腕も足も頼りない細さだ。
軽くジャンプしてみただけでフラフラする。
「なんだこの枯れ木みたいな腕と足は。あの親はしっかり食べさせているのか?」
新しく得た体に色々と不満はあるが、とにかく体が無事に動くだけでも良しとしよう。
それよりもまずは大事なことを確かめなくてはいけない。
それは魔法の存在だ。
かつての世界で魔王と呼ばれていた以上、魔法が使えるか使えないかは己の存在意義に関わってくる問題だ。
衛人の記憶によるとこの世界にも魔法という概念はあるらしい。
しかしそれは小説などにしか登場しない架空のものと考えられているようだ。
それがどうにも信じらなかった。
何故ならこの世界にも魔力の根源である魔素が存在しているのだから。
魔法は魂が魔素と感応することで発現する。
この世界の人間は魔法が使えないということは魂に魔素と感応する機構がないのか、あるいは科学と呼ばれる知識に魔法が駆逐されたのか、あるいはその両方なのかそれはわからないがまずは確認するしかないだろう。
右手を軽く前に出して周囲に流れる魔素に意識を移す。
意識と同調したのを確認したら魔素を右の手のひらの上に凝縮して炎をイメージする。
右手が熱を帯びたかと思うと空中に炎が出現した。
「よし!」
思わずガッツポーズ(この世界ではこう呼んでいるらしい)と共に歓声を上げていた。
体感的に魔王だった頃と比べて1/100かそれ以下の力しか出ていない感じではあるが少なくともこの世界でも魔法を使えることは確認できた。
それだけも大きな収穫だ。
俺は
「魔法が使えるのさえわかれば問題はない。この力さえあればどうとでもなるからな」
さしあたっての懸念はこれでほぼ解決できた。
残るはあと1つ……
「おい」
俺は部屋の空中に向かって話しかけた。
「いつまでも泣き声をたてるな。気が散るだろうが」
別に気が触れたわけじゃない。
意識を取り戻した時から脳内に泣き声が響いているからだ。
その声は今も途切れることがなく、むしろ大きくなるばかりだ。
(……こ、これが……泣かずにいられますか……な、なんで……なんでこんなことに)
しゃくりあげながら姿なき声が反論してくる。
その言葉に思わずため息が漏れる。
「なんでって……全てはお前が蒔いた種だろうが、女神エレンシア」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます