2.さようなら、邪神ちゃん
オーケーオーケー、状況を整理しよう。
まず、俺は死んだ。これは間違いない。確実に頭がかち割れて死んだはずだ。あの電車が脱線だか横転した衝撃も、人肉ミキサーの光景も、最期に感じた少しの恐怖も、全て覚えている。
それはここに居る人達も同じはずだ。現に先程の電車で見覚えのある顔がちらほら周りに浮いてる。
心なしかあの海月?の輪郭が歪んで見えるし近いのか遠いのかも分からない。
【いや〜、災難だったねみんな!まさか、列車の運行システムが
おい嘘つけ!絶対やったのお前だろ。何がたまたまだよ胡散臭い喋り方しやがって。
そもそも邪神を自称する時点でろくな奴じゃないな、うん、きっとそうに違いない。
【はいそこのくたびれたサラリーマンくん〜!さっきからめっちゃ失礼な事考えてるの分かってるからね!いいかい?僕は悪い邪神じゃないよ!良い邪神なの!】
びしりと触手をこちらに向ける邪神(自称)。
邪神(自称)なら考えくらいはそりゃ読めるよな……良い邪神って何だよ?てかくたびれたサラリーマンって俺まだ20代前半だぞお前だって失礼じゃねえか!
【とにかく、皆はもう地球じゃ死んじゃったの。でも僕は慈悲深〜い優しい邪神ちゃんだからね、地球で流行ってるんでしょ?転生!ふふん、任せてよ!なんたって僕は死と輪廻を司ってるからね!ちょちょいのちょいだよ!皆やったね!僕の世界にご招待!人生2週目、ボーナスタイムだ!】
「待ってくれ!地球に戻してはくれないのか?」
「そうよ!別に頼んでないわ!地球で生まれ変わらせてよ!」
一緒に飛ばされてきた人達が色々言ってるがこいつ相手にその頼みは無理なんじゃないかなぁ……
【え?無理だよ無理無理。だって僕地球の神じゃないし。僕がふら〜っと地球を見てる時に
うわこいつタチ悪いな。俺らを殺した上に魂を横からかっさらって来たって言ったようなもんだぞ。
最近の邪神はスリまでするのか?自分が正しい事をしてるって思い込んでるぞやっぱり神なんてろくな奴じゃないな。我らが地球の神は何してんだ。自分の所の財産かすめ取られてるんじゃねえよ!
【君たちが選べるのは二つ。このまま僕に任せて僕の世界〈エリュシオン〉に転生するか、このままここで魂をすり潰されるか。安心して!すり潰した魂はちゃんと僕が保管してエリュシオンの糧、リソースとなります!皆の役に立てるね!やった!】
【安心してよ!エリュシオンはいい所だよ!人間は地球より少ないけど、ちゃんと文化圏を構築している。海も山も沢山の命で溢れているし、なんと、剣と魔法の世界だ!スキルだってある!みんな好きだよね?知ってる知ってる!】
【僕の目的は、すごーーーく簡単に言うとエリュシオンの発展だ。とても発展している地球が羨ましくて、ちょっと君たちを借りてきちゃった♪】
選択肢は無いに等しいしお前借りても返す気ねえだろ!
さっき連れてきたって言ってたもんな!!
人間が少ないってことは開拓が進んでいないし生活圏を出ると魔物だか動物だかがうようよ居るって事だろ?最悪じゃねえか!
【もう!皆一斉に文句言わないで!つべこべ言わずにエリュシオンに来てよ!大丈夫、ちゃんとギフトと祝福あげるから!言語理解にー、各々に合った魔法適性を一属性、あとは何がいいかなぁ、使いやすいのだと魔眼辺りかな!】
【ステータスやレベルを数値化して見れるようにしておくよ。チュートリアルも付けちゃう!どう?大サービスだよ??】
スルーする事に決めたのか、邪神(自称)は俺達の声に反応しなくなった。
わーいさすが邪神様太っ腹〜……ってなるか馬鹿!邪神から貰う魔眼とか一番要らねえよ怖いわ!
【じゃあ、みんなサインしてサイン!こういうのやってみたかったんだよね〜契約!エリュシオンの人達は僕を喚んでも話だけで契約してくれないからさぁ、楽しみだなぁ!】
そう言うと、俺達の目の前に羽根ペンと何だこれ、革……じゃないな、これ羊皮紙か、初めて見た。
えーっと、なになに……大まかにはさっき言った通りだな。付与されるスキルとかが書かれている。隅々まで見とかないとこいつの事だ、なんかやばい事でも書いてあるんだろうが、まぁ、やばい事が書いてあっても契約しなきゃ魂がすり潰されるんだろ?見るだけ無駄だな。実質拒絶不可の強制契約だ。何が書いてあっても署名するしかない。さらさら〜っと、はいオーケー。
書き終えると、くるくるとひとりでに丸まって邪神(自称)の元に羊皮紙が集まっていく。
【はーい、ありがとうね皆!こんなに沢山の契約者が出来て僕は嬉しいよ〜♪エリュシオンをどうか楽しんでね!あ、怖気付いてサインしてくれなかった人達!残念だよ、すごく残念だ。エリュシオンは楽しいのになぁ、人の好意は素直に受け取っておいた方がいいよ?愚かだなぁ。非常に愚かだ。次があれば魂にしっかり刻んでおくんだな。ま、その魂も僕がすり潰しちゃうんだけどね。】
いきなり、今までの明るく胡散臭い喋りから一転、地の底から響くような(ここ地面ないけど)声を出したかと思ったら、周りに浮いてる人達の約1割……20人から30人ってところか?見えないが何か強い力によって潰されたり、捻られたり、塵にされていた。こっわ!
【――さて、それじゃあ順次送っていこうかな?僕は皆が何を見せてくれるのかが楽しみだ。その知識を使って改革を起こすもよし、夢半ばに倒れるも良し、孤高の強者として放浪するも良し、はたまた協力して自分の村や町、国を作るのもよし!……まぁ、そんなめんどくさい事ができるならだけど。】
【いいかい、エリュシオンは最高だ!なんたって僕が創ったんだからね!二度目の生を有意義なものにしてくれたまえ!ただ、僕は見るだけだ。手出しは基本的にしない。君達が足掻き、苦しみ、そして乗り越え生き抜く様を僕に見せて欲しい。どうか、どうか僕を楽しませておくれ。可愛い我が子達よ。】
どこか優しげな声で、邪神はそう言った。一体何をさせたいんだこいつ。要するに、好きに生きろってことだろ?あと俺達はお前の子供じゃねえ。まぁ、魔眼は何があるかわからんから控えるとして、魔法適性の方は使えるだろう。自衛できる程度に鍛えて細々と家でも建ててスローライフするかね。
【近くに転生したい人が居るなら今のうちにくっついておくことを推奨するよ!なんたって協力は大事だからね!基本的に周囲に危険が無い安全な場所に転生させてあげるけど、僕も万能じゃない。
あ、これはだめだ。やばい。嫌な予感しかしない。周りをざっと見渡し、黒谷さんを発見。すぐさま近寄る。他にもいくつかグループができてるみたいだな。とりあえずは大丈夫だろう。
「黒谷さん、協力しよう!嫌な予感がする。あいつはやばい。流石邪神だな!ろくな事にならない気しかしない!」
「きゃ!入間くん!?……私と二人がいいんですか?入間くんが一緒なら心強いです!ええ、とても!」
「自棄になってるだけだから気にしないで。いいか、転生したら近くにいるはずだからまずは合流を目指そう。全てはそこからだ。簡単に死んでたまるか。」
「はい、分かりました!どこにいても必ず見つけ出します!二人で生き延びましょう!ええ、二人で、必ず……」
そう言って俺の服の裾を強く掴む。
乗り気な分には助かるな。ともあれ、最低限の装備があればいいが――
【じゃ!行ってらっしゃい!言い忘れてたけど、何に転生させるかは選べないからね、元々のエリュシオンの魂で輪廻サイクル回してるから多分皆人外スタートだよ!早速で悪いけど転生ガチャ頑張ってね!運が良ければそのまま人として転生できるだろうけどその他だったらレベル上げれば進化できるから皆頑張って亜人を目指して!出来ればその上もね!では愛しい我が子達!さようならー!君達の活躍を期待しているよ!】
「「「「「えっっっ?」」」」」
触手をふりふりする邪神(自称)
待て、今なんて言った??転生先は選べない?
待て待て待て!!そんな大事な事、説明し忘れる訳が無いよな!お前輪廻司ってるんじゃないの!?くそっ!やりやがったなさすが邪神!きたない!転生って言うなら普通人間に転生出来ると思うだろ!ああもう、最高のスタートだなおい!!!
そして、再び視界は暗転した
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