逢魔時パーキングエリア
タカサギ狸夜
ドッペル・アパート
会社の忘年会を終え、自宅アパートに戻り自室である207号室へ入る。
少し飲み足りないので、ビールでも飲もうかと冷蔵庫に手をかけた。すると、奥から小さく音が漏れているのが耳に入った。
しまった、出かける前に消し忘れていたか。おそらくテレビの音だろう。缶ビールのプルトップを持ち上げながら、リビングへ足を踏み入れる。
その刹那。
「誰だ!」
酔いなど忘れるほどの衝撃で背筋が凍りつき、思わず大声をあげてしまう。
持っていた缶ビールは転がり、中身は床を這っている。
私の予想通り、テレビは点いたままだった。
ただ一つ違ったのは、それを鑑賞している正体不明の男がいたこと。
それは私の声に反応して、こちらを振り返る。
一瞬、なにがなんだか分からなかった。
理解が追いついた瞬間。いや、理解してしまうことが恐ろしくて。
私は大声をあげながら、部屋を飛び出した。
振り向いたあの人影、その容姿は紛れもなく私だった。
私がここにいるのに、私が、私の部屋でテレビを鑑賞していたのだ。
縋るように隣の部屋のドアを叩く。
普段付き合いがないのに、深夜なのに。そんなことを気にしている余裕などない。
「お願いします! 警察を呼んでください!」
ドカドカと乱暴にドアを叩き続ける。警察で合っているのかは分からないが、この異常な現象に他の解決策を見出せない。
「頼む! 出てきてくれ!」
このままだと、部屋に居た私が部屋の外に出てきてしまうかもしれない。
そうなればパニックは必至だ。
「こんな夜中になんですか? もう。飲み会帰りで疲れているのに」
待ち望んでいたドアが開き、隙間から住人が顔を覗かせる。
「……嘘だ! だ、誰か! 助けてくれ!」
もう無理だ、正気を保っていられない。
こちらを覗き込んだその姿もまた、私だったからだ。
「なんだ? こんな夜中に」
「うるさいな、どうかしたんですか?」
抜けた腰を引きずりながら、這ってでも逃走しようとする私の行く先。道中の部屋からも、次から次へと私が現れる。
そんな、馬鹿な。
フロア丸々、私が住んでいるとでもいうのか。
「頼む! 誰か! 誰でもいいから助けてくれ! ……いや、私以外の、誰か!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます