非リアから追放され、可愛い四姉妹とのドキドキハラハラな共同生活。ハーレムのようで、ざまあしかないんだけど

ぴこたんすたー

第一部 三重咲姉妹争奪編

第1章 自宅に女四人が揃ってもハーレムじゃない法則

第1話 情けないざまあな末路だな……。

 両親が離婚した。

 まだ僕が小学生の頃だ。

 お互いの価値観が合わない理由をよそに本当は大人の関係に疲れてしまっただろう。

 しばらくして二人は別れ、一人っ子の僕は父親の手によって引き取られた。


 両親が不仲になる原因に気付いたのは中学の思春期の頃だったが、僕は何も知らないふりを装っていた。

 その離婚が発端で女性恐怖症になり、高校に入っても女の子との出会いを避けていたんだ。


 ──後に父親の転勤で住み慣れた都会を離れ、僕は高校三年という時期にも関わらず、山と田園に囲まれた田舎の中高校、桐生院筑紫ヶ丘きりゅういんつくしがおか学園に編入することになった。


 この高校でなら、辛い過去は忘れて、何もかもうまくいき、難しい勉強もやっていけるかな。

 初夏の暑さでパンクした脳みそを冷やすため、学ランの第一ボタンを外し、涼しいそよ風を手でおくる。

 すると、紺のセーラー服に胸元に緑のリボンをつけた女の子から声をかけられた。


「──志貴野しきのくん、どうしたの? めっちゃしんどそうな顔して?」

「あっ……秋星あきほか。いや、ちょっと昨日暑くてさ、あまり寝付けなかったって言うか……ここも暑いし……ブツブツ」

「あー、言えてる。もうエアコン入れて欲しいよねー」


 三年C組、樹節志貴野きせつしきのというフルネームな僕はクラスメイトの秋星から突っ込まれて大きく体を縮めた。


 ヤベエ、女子に免疫がないから些細なことで心も体も動揺してしまう。

 黒い髪で目元まで伸ばしてるさまから、こちらの気持ちを悟られないよう、最新の注意を払わないと。


 それにしても、向こうが意識してなくても近くに寄られるといい香りだな。

 顔も美少女だし、高校では珍しいセーラー服も色っぽいし、色々とヤベエ……。


「……何のシャンプー使っているの?」

「えっ、今なんて?」

「あががばー!?」


 しまった!?

 つい、いつもの心の声が漏れてしまった。

 もし聞かれていたら、僕は明日から変態の烙印を押され、学校中のみんなから後ろ指を指されるんだ。


 こんな狭い田舎での噂なんて明後日には学校どころか、町全体に広まってる。


 やーねー、樹節家のお子さん、女の子のシャンプーの香りくらいで参っちゃうくらいのウブさんなんですってー。

 高校生にもなって、それなんてキモッ‼


「……はい、ご指名ですとか言われて変態道中まっしぐらで」

「まっしぐらってあの時代劇ネタ? 確かに面白いよねーw」

「のがあああー!? 僕ってヤツはー‼」


 今度は正真正銘、マイクテストのように声を拾われてしまった。 

 僕は昔から思っていることを思わず口に出してしまうタイプだ。

 えっと、その時代劇も知らないし、お笑いかアニメしか観ないし、どう共感していいのやら。

 とりあえず、いいねを押せばいいのかな?

(めっちゃ動揺)


「──ねえ、秋星。もうHR終わったんでしょ? いい加減帰ろうよ?」

「あっ、美冬みふゆごめんね。ちょっと待たせちゃったね」

「何、またそんな陰キャオタクの相手してるの? 同じオタク病に感染しちゃうよ?」

夏希なつきはそれでもいいけどなー!」


 僕の机の周囲に可愛い女の子が三人も!?

 ヤベエ、変に意識していたら、煩悩がわき出て止まりそうにない!!


「ぼんのうって何のことかなー? おバカな夏希にも分かりやすく説明してー!」

「止めなさい、夏希。男の子にも色々と事情があるのよ」

「本当、資源の無駄遣いよね」


 この三人は学年やクラスはバラバラだけど、れっきとした三重咲みえさきという名字の姉妹だ。


 茶髪の腰まであるロングヘアの秋星が長女、銀色のサイドテールな美冬が次女、ショートカットで青い空のような髪の夏希が三女。

 おまけに名前も顔も知らないが、中学の四女もいるらしく、可愛い美少女姉妹として、町中でも、学校内でも注目の的だ。


「じゃあね、志貴野くん」

「あー、だからアイツ、ガチでキモいから話しかけんな!」


 陽気で気さくに接してくる秋星とは違い、美冬は僕に対して非常に冷たい。


 まあ、それが普通の感覚なんだけどな。

 学校では友達いないし、ゲームが友達だし。


 あー、こんな根暗だから、誰も話しかけて来ないんだよな。

 小学生の頃は誰でも気にせず、会話に馴染めたし、友達も沢山いた。


 いつからだろう、人と距離を置いて、友達の輪から外れ、陰キャの道に進んだのは……。

 考えるほどに頭痛が激しくなる……。


「いいじゃん、誰と会話しようと私の勝手じゃん」

「バカ、それで勘違いされてストーカーされてみ。困るのは秋星自身だからね?」

「そん時は夏希が守ってあげるー‼」


 夏希が秋星の前に飛び出して、絆創膏だらけの拳を前に構える。

 夏希め、強くなりたい一心で身体に自身に刻みを入れたのか。

 

 武道家の話ではよくあるある。

 この心理は格闘ゲームの影響からだけどね……。


「あー、夏希、その指! またコソコソと料理してたのね」

「いえいえ、秋星お嬢。これは卵焼きというモンスターに向け、包丁いう伝説の刀で焼きをいれた名誉の負傷であり!」

「何で卵焼きを焼く最中に包丁いるのよ‼ それで焦げた食器が大量にあったのね。洗い物をする身にもなってよ?」

「ウケる。自分で暴露してるしw」


 何だ、 ただの料理の怪我か。

 格闘派の夏希のイメージ、一瞬でフライパンを持った家庭的になった。

 ヤベエ、制服の上にアニマルエプロンなんて、何かこみ上げてくるもんがあるな。

 ちなみに胃液じゃないよ。


「──おーい、志貴野。俺たちも帰ろうぜ」


 僕の後ろ側からゴツい男の声がした。

 数少ない親友の勝竜賢司しょうりゅうけんじだ。


 名前からして、あのゲームの必殺技を思い浮かべるが、親はゲームが好きなわけではなく、たまたま知り合いの子供がお腹が大きな時に、その技を口に出してはしゃいだ姿からピンときて、この名前を付けたとか。

 本人は毎度ゲーマーから弄られていい迷惑だと白い歯を見せながら笑っていたけど……。


「まあ、相手が女の子なら弄られてもいいけどな。お近づきになるチャンスだしな」

「賢司は相変わらずだね」

「そうか? 現役の高校生は遊んでなんぼの世界だぜ?」


 金髪のロン毛を指で靡かせながら涼しげな顔して自慢のイケメンスマイルを披露すると、教室の出入り口から賢司を見つめていた女の子たちが『キャー!』と言いながら、うっとりしてる。


 賢司のファンらしいけど、何でそこで奇声を上げるのか(僕にはそう聞こえた)がよく理解できない。

 イケメンなら何言ってもそれで済むのかな?


「お前も行ってみるか?」


 賢司の耳元からの囁きに僕の全身が鋼に変わる。

 いいのか、僕らはまだ未成年だよ?


「……何だ、ゲーセンの割引券かよ」


 その券を見せられ、床にひざをついて大きく落ち込んだ。

 だって色っぽい女性のポールダンサーを想像してたのに全然違ったから。


「何だとは何だ?」


 賢司がニヤニヤしながら、僕の顔色を伺ってくる。

 僕は女じゃないし、男通しで見つめ合いとかキモいよ。


「ははーん、またもや変な想像に胸を踊らせていたか?」

「し、してないよ!?」

「そっか? いつものように口に出てたぜ?」

「マジかよ!?」


 また声に出してたのか。

 迂闊に変なことは思えないな。

 幸い、例の三人の姉妹は下校した後だった。


 ふー、聞かれなくて良かったぁぁぁー‼


「あははっ、冗談だぜ。本気にするなって!」

「もう、僕帰る」

「ちょっ、お前!?」


 僕は賢司のデリカシーのなさにキレて、黒い皮の学生鞄を腕に抱え、一人教室を抜けた。

 後ろから賢司の呼び止める声が聞こえたけど、腹が立ってたんでスルーだ。


「おい、だから待てって‼」

「知るか、ボケナス!」


 この際、オタンコナスでも棒に刺した焼きナスビでも何でもいい。

 昨日の友は今日から敵だ。


「だから、前見ねえと危ねえってー‼」

「何だって?」


『ガツン!!』


「ふぐっ!?」


 賢司の声がする中、僕の顔に柔らかいものが当たる。

 クッションのわりには弾力があるような、ないような?


「きゃっ!?」

「おあぁぁあー!?」


 誰かの悲鳴を耳にしたが、その柔らかい衝撃をまともに受けた僕は反動で廊下の床に後頭部をぶつけ、廊下のど真ん中で気を失った……。


 情けないざまあな末路だな……。


 ──オタクとして、人間としての負け組な人生を歩んできたこの時の僕は何も理解できてなかった。

 いかに女の子との出会いがないオタクでも、どんな所にきっかけが転がってるか分からないと……。



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