100.大好きが溢れてキスしたの
僕が精霊を生んでるって言われた。たぶん、違うと思うの。皆、何かを怖がって隠れたんだよ。僕が呼んだから来てくれたの。精霊はとっても優しい。
「その辺の認識は自由でいいが、イルのお陰で皆が助かった。ありがとうな」
お礼を言われるのは好き。頭を撫でてもらうのも大好き。メリクが喜んでくれるのは、もっと好きだった。
僕はずっと要らない、汚い、嫌いな存在だったの。お父さんもお母さんも分からないし、僕を大切にしてくれたのは精霊とにゃー……じゃなくて、シアラだけだった。
メリクは僕を迎えに来てくれて、大好きだと笑った。汚い僕を抱っこして、いい匂いの泡で洗って、たくさんご飯もくれたの。すごく嬉しかった。
あの頃より、今の方がずっと好きが大きい。メリクと一緒にいられるなら、僕は少しくらい痛いのも苦しいのも我慢できるよ。そのくらい大好きなの。
「それもありがとう。俺も大好きだ、イル」
手を伸ばして抱きついた。嫌われた僕と同じ黒い髪で、同じ金色の目。でもすごく綺麗で優しい人だ。僕はメリクもメリクのお友達も大好き。シアラもずっといてほしい。
「ずっとか……」
うーんとメリクが考える。ダメなのかな。こてりと首を傾けた僕に、メリクは困ったような顔をした。
「俺はイルと二人っきりがいいが、まだイルは子どもだから分からないか」
大人になると二人がいいの? いっぱい好きな人がいたら、その分だけ幸せがいっぱいじゃないのかな。
「イルを困らせないで!」
「メリク様、まだ三歳ですよ? そういったお話は早すぎます」
ルミエルとシュハザに言われ、メリクは肩をすくめた。なんか残念だなって気持ちが伝わって、ぎゅっとした腕を引き寄せる。ちょうどこっちを向いたメリクの頬に、唇がぶつかった。
「っ! イルの! キス?!」
すごく喜んでる。キスして喜ぶのなら、もっとしよう。鼻も頬も首もいっぱい唇をくっつける。その度に、メリクがたくさん喜んだ。
「その辺で。イル様、メリク様を甘やかしてはいけません」
「どうして?」
「襲われますよ」
襲われる……噛んだり蹴ったりするとか? それはないです、たぶんとシュハザが首を横に振った。じゃあ、痛くないからいいや。
メリクに抱っこされたまま、シュハザの手にも唇をつけた。顔は届かないんだもん。そうしたら、メリクが泣きそう。なんで? ダメだったの? 分からなくて僕は怖くなり、鼻を啜った。
「ちょ! イルちゃんを泣かすなら私がもらうわよ」
サフィが僕を抱っこしようとして、メリクに手をぺちっとされた。ゼルクが「俺も」って言ったけど、何もしてないのに遠くへ飛んでっちゃう。近づけないと怒るルミエル。シュハザは手を大切そうに抱っこしていた。
「イル、絶対に他のやつにキスはするな。顔だけじゃなくて、手もダメだ」
「どうして?」
シュハザの時と同じ質問をしたら、メリクは「とにかくダメ」と繰り返した。すごく悪いことみたい。次は聞いてからにするね。
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