98.予言の解釈が間違っていた(ゼルクSIDE)

 崩壊が始まって、最後に生まれたボスの愛し子が原因だと騒がれた。深く考えずに残された予言に縋る。リザベルとフラウロス、二柱の絶対神が滅びたのもあの子のせいだって?


 冗談だろ。あの子は愛されたくて泣いていただけだ。ボスが伸ばした救いの手を掴み、幸せそうに笑うようになった。ただの幼子をいい年齢の神々が取り囲んで、脅して命を奪おうってのか! 腹立たしさが先に立ったが、まさかの現象が起きた。


 世界を創るには、神々の創造の力と選択が必要だ。練り上げた構想を現実にするため、精霊の力が絶対条件だった。その精霊が一気に数を減らしたのだ。それどころか消滅寸前まで消えてしまう。


 現存する世界が崩壊している今、精霊は余っているはずだ。彼らは消費されるエネルギーではなく、力を貸しながら自らもその世界で生きていくのだから。拠り所となる世界が消えた精霊は、新しい世界を探す。神々が世界を創造するにあたり、これは大原則だった。


 精霊が消えたことで混乱した神々が押しかけたと知り、慌てて追いかけた。アドラメリク――いまは唯一の絶対神であり、圧倒的な差を見せつける神格の持ち主だ。簡単に傷つけられるわけがない。駆けつけた先で、ボスの周囲に精霊が溢れていた。


「なんだ、これ」


 精霊は消えたのではなく、ここに集結していたのか。そう誤解するほど、多くの精霊が光を放つ。眩しくて直視できないほど、精霊達は光を振りまいた。その中央で、ボスの愛し子がにこりと笑う。


 目を凝らす先で、その指先が動くたびに精霊が生まれた。予言の意味がようやく理解できた。あれは世界が崩壊するから、原因となる愛し子を殺して変革を止めろと言ったんじゃない。まるで逆だった。


 世界の崩壊が始まる。そのきっかけとなった愛し子が、崩壊の先に新しい創造を行う。それこそが変革だ。そう告げていたのだ。何も知らず詰め寄った神々は、幼子に恭順を誓って精霊に許しを乞うた。


 勘違いして騒いだが反省した者、そもそも不安で集まっただけの者。精霊達は徐々に許した神の元へ降りた。精霊の数は、その世界で増やすものだ。だが最初の精霊は必ず譲り受けなければならない。


 原則を守り、イルは精霊を拘束しなかった。いや、そんな俗な感情自体持っていないのだろう。精霊が行きたいなら見送り、残りたいなら受け入れる。あの子はそういう子どもだった。


「これでも不吉だと?」


 俺の愛し子だ、そう宣言したボスは怒っていた。声をかけた神が怯えるのも当然だ。誰より大切な愛し子に冤罪をふっかけ、殺そうとした連中に愛想よく応じる神はいない。


 苛烈なボスのことだ。きっとズタズタに引き裂くだろう、そう思ったのに。


「なかよく、して」


 幼子は彼らの罪を許した。当然のように願い、叶えられないなんて想像したこともない。ボスに愛され真っ直ぐに顔を上げるイルは、精霊を惜しみなく与え続けた。


 神なのに、上位の存在を信じたくなる。純粋で慈悲深く、誰かを傷つけることを嫌う。きっとイルのような存在だろう、と。


「あのね」


 お腹空いた。現実的な呟きでお腹を撫でる幼子に、ぷっと吹き出す。堪えようとしても止まらなかった。そんな俺にも精霊が近づいて、一緒に行こうと誘う。先に世界へ転送した上で、ボスの愛し子に付き合った。


 サフィはともかく、ルミエルの飯は怖くて食えねぇ。俺が作った方がまだマシだろ。出された食事を嬉しそうに食べる愛し子から、幸せだと溢れ出る言葉と感情が身に沁みる。


 ああ、早く俺も愛し子が欲しい。俺だけの愛し子が……。

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