69.お断りします(シュハザSIDE)
師弟というより、主従関係の方が近い。神々の地位を決めるのは神格だった。同列なら愛し子の有無、発生した年月で並び変える。私の序列はさほど高くないが、低くもなかった。ただ主に仰いだ神は絶対神三柱のアドラメリク様だ。
圧倒的な能力と強さを誇る彼だが、不思議と今まで愛し子はいなかった。こればかりは神格も年月も関係ない。愛し子だけは運だった。三つの世界を管理しながら、滅びるまで愛し子に会えなかった神もいる。逆にひとつしか世界を管理しない若い神が、愛し子を迎えた話もあった。
五つの世界を管理しながら、痛みや苦しみを散らす愛し子なしで耐えたメリク様に、ようやく愛し子が現れた。手違いがあり他の世界に生まれたが、無事に巡り合える。その祝いに駆け付けたばかりだというのに、この騒動は何なのか。
「シュハザ、協力してくれ」
「冗談でしょう。お断りいたします」
真っ赤な髪と瞳が特徴的な男神リザベルは、メリク様と同列の絶対神だった。神々の中でも三つ以上の世界を管理するのは片手に余る。それほど稀有な存在だった。愛し子がいないのも同じだ。ここで、メリク様が愛し子を迎えれば、絶対神の中でリザベルだけが愛し子なしになる。
その辺の思惑が見え見えの駆け引きを仕掛けるほど、彼は追い詰められているのだろう。忠実なるメリクの剣と呼ばれる私に話を持ち掛ける辺り、愚かすぎますが。半分呆れながら返した。
「なぜ私が協力すると思うのです? 私はメリクの剣ですよ」
「メリクの狂犬よりマシだろ」
正確には忠犬ですが、そう呼ばれるゼルクは厄介ですね。話を持ち掛けた段階で、いきなり問答無用の攻撃を仕掛けられるはずだ。盾であると自称するルミエル、あの子の防御力は高い。サフィは大人しそうだが、情報収集に掛けては一流だった。常にメリクをサポートし続け、他の神々の弱みを握って操る魔女だ。
アドラメリクは元々が邪神、改心したとはいえ他者と己の身内の線引きは厳しかった。その彼に従う存在である私に、メリクを裏切れと? 冗談だろう、そんなことをすれば消される。いや、消されないとしても裏切る気はなかった。
「さっさと消えてください」
表面上は丁寧に取り繕う。だがこれ以上余計な発言をされたら、リザベルに攻撃を仕掛けるほど腹が立っていた。よりによって、この私にメリクを裏切るよう声をかけるなど。侮辱するにもほどがある。
「愛し子さえ……いなければ」
無意識なのか、リザベルから漏れた呟きに嫌な予感がした。慌ててメリクに事情を伝える。ここしばらく大人しかったが、元は荒ぶる神として有名な彼のこと……すぐに行動を起こすだろう。ゼルクにも声をかけておこうか。ゼルクが派手に動き回れば、私が影でリザベルに手を下す際の隠れ蓑になるか。
垣間見ただけの黒髪の愛し子――あの子だけがメリクの内面に干渉できる。本気で動けば、他の神々など容易に潰せる邪神を、大人しくさせる天使を失うわけにいきません。己にそう言い訳し、介入する理由を作った。
流れる銀髪を指先でかき上げ、私はうっそりと笑う。久しぶりの神狩りですね。
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