59.お兄さんが増えたよ
街に着いて、すぐにお兄さんが合流した。年上のルミエルは女の子だから、お姉さんなの。男の人で年上はお兄さんなんだよ。メリクのお友達かも。
「へぇ、ボスって面食いだったんすね」
しゃがんで、僕と同じ高さで話をしてくれる。意味は全部分かんないけど、嫌な人じゃなかった。
「俺はゼルクだ。お嬢ちゃんの名前は?」
お嬢ちゃんって誰? 首を傾げたら、こっそりとメリクが教えてくれた。僕のことだった。ルミエルが「あんた、その口の悪さ直しなさいよ」と文句を言う。お友達なのかな。
「イルだよ」
ルミエルは僕のお友達だから、そのお友達もお友達? 答えた途端に、お兄さんはにっこり笑った。周囲のお姉さんがきゃーと声をあげる。
「イルちゃんね。可愛いから、これをあげる」
お花みたいな赤いお菓子をくれた。棒に刺さってて、硬い。指で摘んで口に近づけたら、ルミエルが食べ方の見本を見せてくれる。棒ごと口に入れて飴を舐めるの。このお菓子はゆっくり溶ける飴だった。
「ありがとう、ゼルク」
お名前を交換したら、出来るだけお名前で呼ぶ。せっかく教えてくれたのに、呼ばないのは寂しいよ。僕もお名前で呼んで欲しいもん。
「ボスにはもったいない」
「さっきから生意気だな、ゼルク。少しばかり反省するか?」
「すんません、何でもないっす」
メリクが低い声を出すと、ゼルクが慌てる。意味が分からなくても面白い。くすくす笑いながら、ルミエルと飴を舐めた。歩きながら舐めると、転んだ時に危ないんだって。メリクが僕を抱き上げるけど、ルミエルはそのまま歩いてる。
「ルミエルはいいの?」
「ああ、そうだな。ゼルクが抱っこしてくれるさ」
「え? あ、はい」
嫌そうな顔でゼルクが抱っこすると、ルミエルが足を突っ張って距離を取った。
「なかよくないの?」
「いいや、仲良しだ。そうだな?」
「……はぁ、仲良しだ」
「イルちゃんが思うより仲良しなのよ。蹴飛ばしたくなるくらい仲良し」
ルミエルは仲良しだと蹴るの? 首を傾げたけど、僕のことは蹴らないと笑った。僕と違う種類の仲良しなのかな。二人で慌てる姿を見ると、仲良しっぽい。
笑いながらお店を見て、いくつかご飯の材料を買った。メリクに抱きついてきょろきょろする僕は、何度も見かける人に気づく。さっきゼルクと話した時もいたし、お買い物した時もいた。今も着いてくるね。
「ん? 気にしなくていいぞ」
「うん」
メリクが言うなら安心だ。きっと同じお店に寄ったんだね。ジュースも新しく買ってもらった。食べ終えた飴の棒を、メリクは指先で遊んでいる。くるくると回しながら、何だか楽しそう。
「それ、僕もできる?」
「覚えるか? あまりいい手癖じゃないが」
試してみたけど、僕の指は短くて無理みたい。大人にならないと出来ないことがいっぱいだね。大人になるのが楽しみになった。
お洋服も見たけど、今日は買わないの。だっていっぱいあるもん。まだ着てないお洋服もあるし、擦り切れたり穴が空いたりしてないから。そう話したら、なぜかルミエルが泣き出した。ゼルクも頭を撫でてくれる。
みんな、お洋服に穴が空くと悲しいのは同じだね。
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