50.好きじゃないがいっぱいで、嫌い
「うわぁ、猫っ可愛がりしてるな」
突然聞こえた声に顔をあげる。立った僕の頭くらいの高さに、知らない人がいた。ぷかぷか浮いてる。座った格好なのに、変なの。
「誰?」
「誰だと思う?」
僕が聞いたのに、聞き返されるのは嫌だな。胸がもやもやする。さっきの僕の質問を聞かなかったみたいな感じ。メリクは絶対しない。にゃーだって、話せないけど……話せてもしないと思う。
だから、この人は好きじゃない。嫌いって言うほど知らないけど、好きになれないよ。むっと唇を尖らせて横を向いた。もう話したくないんだ。
「過保護すぎて、躾もしてないなんて……それに監視もゆるい」
くすくす笑いながら、目の前の人は意味が分からない言葉を話す。好きじゃないがいっぱい重なって、嫌いになった。近くにいるとムカムカするから、立ち上がって歩き出す。
家の方ににゃーが見えた。こっちへ走ってくる。家が見える距離から離れてはダメ、メリクはそう言ってた。だから見える場所で、花を見ていたんだけど。にゃーに駆け寄ろうとした僕は、後ろから嫌いな人に掴まれた。
「やだぁ! メリク、にゃー」
叫んだ途端、僕はひゅっとした。お腹の真ん中あたりで、何かが飛び上がったの。持ち上げられた高さから、地面が近づく。当たると痛いかな。丸まろうとしたけど、その前に見慣れた毛皮が滑り込んだ。
ぽよん……そんな感じで、僕はにゃーの背中にしがみつく。
「あり……と……っ」
ちゃんとお礼を言いたいのに、鼻が詰まって声が出ない。にゃーは大急ぎで家に向かって走った。僕はしがみつくだけで手いっぱい。赤い扉を開けたにゃーが僕を乗せたまま入って、後ろで勝手に閉まった。
ずずっと鼻を啜る。
「あ! メリ、ク……っ」
まだ目から出る水も鼻のズルズルも止まらないけど、扉へ走ったらにゃーが邪魔した。通れないようにされたので、出てはダメなのかな。すっごく嫌いな人がいたから?
にゃーが窓へ近づいて、とんとんと叩いた。椅子はないけど、にゃーが背中に乗せてくれる。窓の外を見ると、さっきの嫌な人が倒れていた。目の前でメリクが何か言ってる。大きな声だけど、よく聞こえないや。
メリクは大丈夫かな。痛いことや嫌なことされていないといい。酷いことされると、ずっと胸が苦しくなるの。だから……メリクがなるくらいなら、僕が代わりになるよ。
ぱっとメリクが振り返って、手を振った。大丈夫みたいだ。嬉しくなって僕も手を振り返した。いっぱい振って、にゃーの背中から降りる。
安心したら、おトイレ行きたくなった。にゃーが付き添ってくれて、おトイレに入った。自分でできるよ。スカートをめくって……履いてるのを下に。それから台に登ってお座りする。
その間に、にゃーは部屋に戻ってしまった。全部終わると、僕はきちんと拭いてパンツを履く。スカートも戻した。急いでお部屋に走ったら、メリクがいる。
嫌なことされなかった? 駆け寄った僕を抱っこして、頬を擦り寄せる。だから僕も同じようにした。こうすると温かいし、家族って思うの。頬を寄せるの、大好きだよ。
「俺より、イルが嫌なことされただろ。気分悪くないか? 二度とアイツは来ないからな」
話すメリクの声を聞きながら、窓の外の景色を眺める。さっきの嫌いな人が、他の人に連れられて消えてしまった。ぱっと消えたんだ。驚いたけど、もう来ないと聞いてほっとする。
「危険がないようにするから、また家の外で遊ぼうな」
「うん」
危なくないって、メリクが言うならお外で遊ぶよ。知らない花や虫がいて、時々ひらひら飛ぶ羽がいて。あと精霊もいるから。僕は家の外も好き。もう一度外を見たけれど、誰もいなかった。
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