48.速くて強くてカッコいい虎は男の子だった
帰り道は速かった。来る時よりもっと速いんだ。到着したお家を見て、僕はじたばたと足を動かした。下ろしてもらい、走って玄関の赤い扉の前に立つ。
首を傾げて見ているメリクに「おかえり」って声をかけた。すぐにメリクは笑って「ただいま」が帰ってくる。だから駆け寄ったら、今度は逆の位置で「ただいま」と「おかえり」をした。
待っている虎を手招きしたメリクと、いろいろな名前を考える。この虎は森のボスなんだって。ボスは一番強い人を言うの。森で一番強い虎なんだ。
いっぱい走ってくれた。ごろんと横になった虎のお腹も、お顔も、いっぱい撫でるよ。太い足もふわふわで、がっちりしてて、先端がふにふにしている。撫でる僕の頬を、べろんと舐める優しい虎なの。
ちょっとお魚の匂いがするけど。僕は平気だよ。臭いのも痛いのも慣れてるから。
「慣れちゃいけないんだが……まあ、俺の仕置きが厳しくなるだけだな」
メリクがよく分からないことを言った。怒ってるような悲しんでるみたいな気持ちが、メリクを包んでいる。だから抱きついた。僕が消せるといいな。
「ありがとう、虎の名前だがコテツとかどうだ? 強い虎っぽいだろ」
「こてちゅ……こて、つ?」
二度目でちゃんと言えた。虎の字が入ってると説明を受ける。つまり虎のカッコいい名前なの。僕はいいと思う。ちょっと呼びづらいけど、コテツは僕が呼ぶと大きく尻尾を揺らした。
「かわいいね」
「カッコイイと褒めてやってくれ。男の子だからな」
近づいてよく見たけど、違いが分からない。でも男の子なんだ。買ってきたお肉も食べてもらい、手を振って別れた。また遊びにきてね。
お家の中に入ると、にゃーはすぐに床に寝転ぶ。その脇を歩いて、ふかふかの床に座った。これは知ってるよ。お屋敷のお部屋の床にあった。
「絨毯だ」
「じゅーたん」
じっと見つめて、寝転がったついでに舐めてみた。甘くない。
「ん? どうした」
隣に座ったメリクが驚いた様子で僕を持ち上げ、口の中を確認する。少しだけ毛が入ったの。ぺっと外へ出した。
「ジュースじゃないの」
「ああ、そうだな。響きが似ていたか。甘い床じゃないんだ。次は舐めたらダメだぞ」
「うん」
じゅーたんとじゅーすは違う。舐めても甘くなかったし、口の中が毛でもそもそした。次はもうしない。
「ほら、こっちは甘い」
ジュースの話をしたので、メリクが渡してくれた。黄色いジュースだ。甘くて少しだけ酸っぱくて、でも冷たくて美味しい。床の絨毯より、ジュースの方が好き。
半分飲んで、メリクに差し出した。
「メリクも」
「一口もらうよ」
メリクは嫌だって言わなかった。僕が使ったコップだけど、口をつけて飲む。続いて、後ろを振り返った。
「にゃーも!」
「猫は飲まないからいいんだ」
「そうなの?」
猫はジュースを飲まない。知らなかった。じゃあ、にゃーは甘い果物なら食べるかな。甘いものは口の中が楽しくなって、嬉しくなって、笑顔になるから。にゃーにあげられるご飯は魚みたい。甘い魚があればいいね。
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