24.熊に乗って海へ来たよ
甘いお水はジュースで、頂戴と言ったら出すよとメリクは笑った。でもあまり言えない。だって、僕は嫌われてて迷惑で邪魔な奴だから。お屋敷の人が皆でそう言ってた。僕がいるからいけない、僕がいるから不幸だ。僕がいたら完璧じゃない。意味は分からないけど、たくさん聞いた。
メリクは僕が前のお屋敷の事を思い出すと、泣きそうな顔になる。どうしたのって尋ねたら、強く抱き締めて頭を撫でてくれた。今の僕は汚れていないから、メリクに
「イルは綺麗で可愛いよ。嫌なことは忘れて海へ行こう。楽しいことで頭をいっぱいにしような」
海は大きくて塩味の水がいっぱいある場所だったね。そこへ遊びに行くみたい。後ろの方はよく分からないけど、メリクが楽しそうだから僕も嬉しい。一緒に手を繋いで街を出て森に入る。にゃーが鳴くと、大きな大きなにゃーが来た。茶色くて大きい。
「これは猫じゃなくて熊だ」
「くま……」
にゃーとは違う種類で、動物なの。僕、動物とお花の違いを教えてもらって驚いた。自分で歩いて行けるかどうか……考えたことなかった。僕も歩いているから動物かも。
茶色だけど顔に黒も入ってる。大きくて毛皮がぼすぼすしていた。中は柔らかいのに、外は硬い毛がいっぱい。光が当たると光って綺麗だった。その熊の上に乗って、後ろからメリクに支えてもらう。
「運んでくれるか?」
熊は頭を揺らすと、一気に走り出した。凄く速いの! びゅーんって景色が後ろへ飛んでって、木も避けて走れるんだ。たくさん走ったところで、川を見つけて休憩になった。川は水が横に流れてる場所だよ。手を入れると冷たかった。こないだの湖という水は流れていなかったかな。
メリクに後ろから腰を押さえてもらって、前に傾いてお水で手を洗う。それから言われた通り、革の袋にお水を入れた。僕とメリクはそこから飲む。
隣で水を飲む熊は直接口を付けた。真似しようとしたら、にゃーが目の前でうろうろする。すぐにメリクが説明してくれた。
「イルはまだ子どもだから危ない。にゃーは心配したんだよ」
「うん、ありがとう」
にゃーとメリクの両方にお礼を言った。僕のことを心配されるのは嬉しい。大事にされている気がするから。
にゃーも川から直接お水を飲んで、また熊の上に乗った。さっきはにゃーも走ってたけど、今度は乗って行くみたい。小さいから疲れたのかな。僕の前ににゃーを乗せて、後ろはメリク。熊は元気に走り出した。
森の木はどんどん後ろへ消えて、突然森がなくなった。見えるのは、大きな青色……お空より濃い色で、お魚みたいな匂いがする。
「ああ、潮の香りと呼ぶんだぞ」
塩の香り? 塩っぱい水だから、塩が入ってるんだね。熊はここでお別れだって。たくさん走ってくれてありがとう。
「ありがとう、くま」
「熊は名前じゃないが、まあいいか。たくさん走ってくれた礼だ」
荷物を隠す秘密の穴からお魚を出したメリクが渡すと、熊は大喜びで噛んだ。そのまま森へ帰っていく。
「さあ、海を楽しむぞ」
メリクの声が楽しそうで、僕もわくわくした。どのくらい塩が入った水なんだろう。美味しいといいな!
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