21.牛を見て森の湖でご飯を食べた
お部屋を出て、まず食べ物を買う。にゃーは足元をついてくるけど、誰かに踏まれたりしないかな。心配になって何度も振り返った。にゃーは上手に人を避けて、僕の横を歩く。大丈夫みたい。
道に並んだお店でご飯を買った。袋に入れてもらったご飯を持つメリクが、使ってない方の手を差し出す。そっと触れたら、ぎゅっと握った。軽く手を揺らしながら歩いて、途中でこっそりご飯を片付けた。こないだの黒い穴に入れたの。
僕を抱っこしたメリクは、楽しそう。だから僕も嬉しい。人の家が少なくなる方へ向かって、どんどん進む。大きなにゃーがいる!
「あれは猫じゃなくて、牛だな」
「うし……」
首にカランカランと音が出る飾りをつけて、白と黒の模様だった。一緒に森へ向かうにゃーは、白と黒と茶色。色が足りないから名前が違うのかも。大きさも全然違うし。
「宿の部屋で、ミルクを飲んだだろ」
「うん」
ほんのり甘くて美味しかった。甘いのはお菓子や果物の味で、飴も同じ。口の中でいろんな味がするから、教えてもらったの。食べたことなかったけど、甘いのは好きだよ。もらった飴もすぐ食べちゃった。
「飴はまた今度な」
くしゃりと髪を撫でられる。今度は次ってこと。今じゃないの。甘いのがまたもらえるのは、すごく楽しみだった。
「あの牛からミルクを貰うんだ」
「うし、やさしいの?」
飲んだ僕は嬉しかったし、美味しかったから。牛は優しいのかも。
「そうだな。どちらかといえば温厚だから、優しいかも知れない」
難しいけど、牛は優しいんだね。ゆったり動いて、口がもぐもぐ動いている。手を振ったら、首を揺らしてカランと音が鳴った。そっか、手を地面につけてるから、手を振れないんだね。僕は気にしないよ。
この辺は低い草がいっぱい生えてる。地面が草の色だった。時々、花が咲いている。誰かのお庭なのかも。
「歩いてみるか?」
「うん」
メリクと手を繋いで、ゆっくり進んだ。自分で歩くと見える高さが違う。しばらくすると足が重くなった。すぐにメリクが抱っこして、木がいっぱい並んでいる場所に入って行った。
木がいっぱいあると森。覚えた言葉を繰り返して、忘れないようにする。ここは森で、お日様が見えなかった。木の葉っぱがいっぱいで、少ししか光が来ないの。でも僕の周りには、きらきらした光がいっぱい。
「精霊達だ。みんな、イルを大好きで一緒にいる」
「僕もだいすき」
光がきらきらしながら回る。嬉しそうに見えるよ。メリクは精霊の光とも話が出来るみたい。僕も早く話せるようになりたいな。
「ほら、湖が見えてきたぞ」
指差された方向に、大きな水があった。地面いっぱいに、すごくたくさん。ここでご飯を食べると聞いて、下ろしてもらった。メリクを引っ張りながら近づいた水は、光って綺麗だった。
にゃー。体が小さいのに歩いてきたにゃーが、僕と水の間に入る。押し戻そうとするから、不思議で座った。
「にゃーは、イルが落ちる心配をしているんだ」
「おちる?」
心配は分かる。でも落ちるはどこへ、どうやって? 大きく首を傾げたら、ぐらりと倒れそうになった。慌てたメリクが後ろから支え、前でにゃーが僕を押してくる。
ありがとうは嬉しい時の言葉。この場合も使っていいのかな。水に濡れなくて嬉しいから、使っちゃおう。
「ありがとう」
「ああ、もう少し離れたところで休もう」
手を洗ってから、水と離れた大きな木の下に座る。こっそり隠したご飯を取り出して、僕とメリク、にゃーは一緒に食べ始めた。いっぱい歩いたから、お腹空いたの。手も服も汚れちゃったけど、メリクは叩いたりしなかった。
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