花は愛でるもの、恋は秘するもの

黒本聖南

第1話

 好きよ、好き。貴女が好きよ。


 目でならいくらだって言える。口の代わりに伝えてもらいたいくらいなのに、金山甘梨かなやまあまりが気付いてくれたことは一度もない。

「あいつら何なんでしょうね。そこら辺歩いてる奴らは蹴らない限り飛ばないのに、ベランダに来る奴らは窓開けた瞬間に飛ぶんですよ? 早いって。いや正直、近寄んなフン落とすな巣作んなって思いますけど、一応今の所は必要だからゆっくりしてけよクソ鳥って感じ……あ、すいません」

「何が?」

「クソ鳥は品がなかったですね」

「そうね、嫌な鳥とか害鳥の方がいいかもしれない」

「嫌な鳥! 嫌な鳥にします!」

 何がそんなに嬉しいのか、その後彼女は何度も「嫌な鳥」と連呼した。

 話題もずっとベランダに来てしまう鳩の話。一応彼女は何もしていない。気付いた時にはベランダがフンだらけになっていたのだと。

 可哀想になってきて、良さそうな業者さんをいくつか調べて教えてあげた。

「私なんかの為にありがとうございます佳乃子かのこさん!」

「……別に。嫌な鳥に困らされて、貴女が好きな写真に集中できないのは良くないから」

「佳乃子さん優しい! 好きです!」

「……」

 吐息を溢して顔を背ける。可愛げなんてありはしない。

 私は二十八歳で、彼女は二十四歳。

 年上の女を、そもそもそんな目で見ないか。

 そういう目でも、きっと。


 いつも通りに待ち合わせ、いつものカフェのテラス席、いつも通りにお喋りを楽しみ、日が沈んだらお別れ。


 別の店で夕食を一緒にすることもあるけれど、この日はそうしなかった。

 訊き忘れてたんですけど佳乃子さん、なんて帰り際、彼女に言われた。

「この前の人はどうでした?」

「……あぁ」

 数日前、私は初対面の男とデートをし、そのことを彼女にも伝えている。

 けっこう、かなり、記憶に残っている男。

「また、会うことになったわ」

「……」

「甘梨?」

「あ、そうなんですね珍しい! いつも一回しか会わないのに! そんなに素敵な人だったんですか!」

「……」

 何て、言うべきか。

 彼女から目を逸らさないで、考えて、考えて。

「──そうね」

 こう言ったら、何か、変わる?

 私が男と、二回も会う意味を、どう捉えてくれるの?

 じっと、好きよと、じっと、貴女が好きよと、視線に込める。

「──おめでとうございます、佳乃子さん!」

 その後、どんな話をしたかはよく覚えてない。


 そしてこれが、一番最後に記憶に残る、甘梨の姿だった。


 メールを送っても返事が来ない。

 二回ほど電話しても出てくれない。

 忙しいのね、忙しいのよと、誤魔化して日々を過ごし── 一月後。

 ポストに一通、真っ白な洋封筒が入っていた。

 差出人は、金山甘梨。

 私はもちろん、その場で封を開けた。

 中には、

「……え?」

 中には、

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