散歩

 我々は何もないーー本当に何もない道を歩いていた。

 両端に誰かの家があって、僕ら以外の誰も車もいなくて、少し強めの風が吹いているような、そんなところ。

 といっても、昨日もここにきたのだが。

「……暑い」彼女は急に立ち止まり、とてもフラットな表情で僕に言った。

「先に行こうと言い出したのはどこの誰だよ…もうすぐ公園に着くから、そこでジュースでも買うか」

「うん」彼女は力無くうなずいた。「そうしたい」

 公園に着いたあと、我々は昨日と同じベンチに座り、それから買ってきたサイダーを飲んだ。パチパチという音が口の中で弾け、我々はこの暑さから一時的にあるにせよ解放された。

 窓の外から見たのと同じ、絵の具で塗り潰されたような空を、僕は何も考えずに見る。

 頭をすっからかんにして、

 見える世界を透明にして。やがて僕もその一部となる。


 僕と彼女はとある安いイタリア料理店へ行った。そこでミートソースパスタとチーズドリア、そして二人分のボウルサラダを頼んだ。彼女はテーブルの上に置いてあるナプキンで手をよくふき、僕は料理がくるまでに水を二杯飲んだ。安い店のくせに、見た目はしっかりとしている。モダンな球型の電灯はオレンジ色に光っているし、アルバイトらしきウェイターも、手際はどこかぎこちなかったが、それでも服装はしっかりとしている。

「遅いね、何かあったのかな」窓の外を見ながら、彼女はただ呟いた。

「そんなもんだよ、人は多いしね……まぁ待ってたらくるよ」そして僕は全然関係ない窓際のサラリーマンを見た。「たぶん」

 およそ十分後ほどに、その料理はウェイターの爽やかな笑顔と共に運ばれてきた。

 僕は無言でパスタを口に運び、彼女も無言でドリアをスプーンですくっていた。そして最終的にサラダだけが、ポツンと取り残されたピリオドみたいにテーブルの上に残された。

 彼女はドリアを食べたあと、そのままソファーにもたれて眠ってしまったので、僕は仕方なく二人分のサラダを食べ、その後はすることもないまま、ただ彼女の顔を見ていた。こう見るとやはり彼女は可愛い顔をしている。

短くされた黒髪が、規則的に上下へ揺れている。まだ年は開いていないが、たぶん僕と同じくらいだろう。二十二歳。僕らはもう大人になった。ただ昔の名残がそこに残っているだけだ。別にどうとも思わない。そのうち、彼女の顔を見ていて僕は不思議な気持ちになった。別にそれ自体がおかしい訳じゃない。彼女の顔は確かに可愛いほうだ。小さくて愛嬌がある。少なくとも人を不快にはさせないと思う。

 どんな気分かと言われても、全く分からない。別に恋とか愛とか、そのような類いでもない。

ただどこか頭に引っ掛かるというだけで。

「ほら起きろ、帰るぞ」

 しかし起きる兆候は全く見られない。「おい、早く起きろ、早くしないと置いていくぞ」

そうすると彼女はムクッと体を立て、ゴシゴシと目を擦った。そして辺りを見渡し、その視線はちょうど僕のところで止まった。「もしかして、寝てた?」

「バッチリ寝てたね」

「どのくらい?」

「三十分ほど」

 彼女はホッと胸をなでおろし、そして両手を僕の前に差し出した。僕が訳も分からずにいると、彼女はひっぱって、と言った。てのかかるやつだ。僕は一度ため息をついた、そして彼女を頑張って起き上がらせて、勘定を払ってから店の外に出た。

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