悪役令嬢の乗っ取り

nekomaru

第1話 不運な出会い

それはとあるおとぎ話のような物語。悪役令嬢は王子様と結ばれるための悪事を働き、失敗に終わり平民出身のマリアと王子は結ばれ、悪役令嬢のミランダは、国外追放どころか恐ろしい計画を企んでいた首謀者のため、処刑された。その計画とは、王子と結婚して国家権力を手に入れ王子を毒殺して世界征服をしようとしていたのだ。計画の協力者は全て処刑され、最後に計画の首謀者ミランダは、国家反逆罪で処刑された。これは運が良かったのか、気づかなければミランダの策謀で国は乗っ取られていたであろう。

ミランダは処刑されたが、彼女の欲望があの世に行くことなくさまよっていた。反省の気持ちはみじんもなく中世ヨーロッパのような町々を彷徨っていた。

彼女が道々をうろうろしていても、人々はまったく気にしていないのか、見えていない。彼女は幽霊だからだ。幽霊ならだれでも見えるわけではないし、ましてや、こんな町のど真ん中に貴族風の服装をした女性がいれば目を引くはずだが、誰も気が付かない。

しばらくさまよっていると、路地裏の日の当たらない道に一人の少女が座り込んでいた。ぼろぼろの布切れを着ている一人の少女はお腹がすいて元気を落としていた。

ミランダは興味を示さず通り過ぎようとした。その時、その少女がミランダに話しかけてきたのだ。

「助けて…」

ミランダは少女の見ている方向に目をやるが誰もいない。そして気づいた。この少女は自分が見えていると。

少女は必死にミランダに物乞いをする。しかし、彼女は悪女。助けるはずもない。ミランダは思った。

(なに?この生き物は?私が見えるとはいえ、汚らわしい。消えてほしいのだけど。)

触るなと言うような顔でにらむが、ミランダは悪だくみを思いつく。

口角を吊り上げ誰かを利用しようとする目は、恐ろしいものだ。

ミランダは少女に話しかける。

「ねえ、名前なんて言うの?」

ミランダの問いに少女は答える。

「レイチェル…。」

ミランダは嘘の優しい表情を見せレイチェルに安心感を与える。

「そう…レイチェル…。ねえレイチェル、わたし、いい提案があるんだけど。」

ミランダの言葉にレイチェルは首をかしげる。

「お腹いっぱい食べられるよぉ?わたしの言うことを聞けたらだけど。」

レイチェルは少し戸惑うがミランダの優しい表情を見てうなずいてしまう。

ミランダの嘘の優しい表情に安堵したレイチェルは素直にミランダの言葉に返事をしてしまった。

ミランダはレイチェルについてくるように言う。

「ついてきなさい。」

疑いもしないレイチェルはミランダについていきさらに人気のないところに連れてこられた。

そして、しばらく歩くと、大きなお屋敷があった。

しかし、入ってみると人気がない。

レイチェルはミランダに問いかける。

「ねえ、ほかの人は?」

ミランダはレイチェルに優しく笑みを見せ

「みんな忙しいの。」

と答える。

それから、部屋に案内されレイチェルはミランダの様子を見る。

「ここで待ってなさい。」

ミランダはレイチェルにそういうと部屋から出ようとする。

レイチェルは待ってと言わんばかりに袖をつかもうとするが…。

レイチェルの手はすり抜ける。

レイチェルは自分の手を見るなり首をかしげる。

ミランダは邪悪に笑う。

「ふふっ…ふふふふ…。」

レイチェルはミランダに純粋に聞く。

「ねえ、なにが起こったの?」

レイチェルは不思議がるが、ミランダはレイチェルに取引を持ち込む。

「ねえレイチェル。このテーブルにあるお菓子、食べたい?」

レイチェルは素直に答える。

「うん、食べたい!」

ミランダはレイチェルに言う。

「じゃあ、お姉さんの言うこと何でも聞く?」

ミランダの取引に疑いも見せないレイチェルは返事をする。

「うん!」

ミランダは笑みを浮かべ、

「さあ、食べなさい。」

とレイチェルにテーブルの上にあるお菓子を食べさせる。レイチェルはそのお菓子をおいしそうに食べる。

「レイチェル、そこにかけている首飾りだけど、ほしかったらあげるよ?」

「ほんと!?わぁああい!」

レイチェルは怪しい首飾りを手に取る。

「それを首にかけてみて?」

「うん!」

レイチェルはその赤く禍々しい宝玉の付いた首飾りを首にかける。するとそれを見たミランダは怪しい笑みを浮かべる。

「ねえねえ、これ何の石なの?」

「それはね、代々受け継ぐわたしの一族が保険のために作ったものよ」

「ほぉけぇん?」

「そう。その石は普通の石じゃないの。もしものことが起きた時のためのね」

「?」

「その石が赤いのはなぜだと思う?」

「おしえて!」

「力を守りたい者の血が入っているからよ」

「ちぃ?」

「ねえ、レイチェル。取引のこと覚えてる?」

レイチェルはミランダの顔を見て笑みを浮かべ答える。

「お姉ちゃんの言うこと何でも聞く!」

ミランダは笑みを浮かべ、レイチェルを抱きしめた。

「えへへ……。」

レイチェルは嬉しくて笑顔を見せる。ミランダはレイチェルに言う。

「ねえ、レイチェル。わたし困ったことがあってね…。一つお願いしたいのよ。」

ミランダの頼みにレイチェルは素直に答えてしまう。

「いいよ!なんでも言って!」

ミランダはレイチェルに衝撃的なことを言う。

「あなたの体をちょうだい。」

レイチェルは最初理解できなかったが、青ざめてミランダから逃げようとする。

「嫌だ……。来ないで……。お願いだから……。」

しかし、金縛りのように動けない。「いやああああ…!!」

悲鳴を上げようにも声が出ない。

「あら?あなたには拒否権はないのよ?それにこれは取引よ?悪い話じゃないでしょ?あなたはお菓子をもらった。次は…。私があなたの体をもらう番よ!」

レイチェルは助けを求める。

「いやだ!!助けて…!!!」

ミランダはレイチェルの首にかけている首飾りの赤い石に触れる。その首飾りの赤い石は禍々しく小さく光る。

するとレイチェルに何かの衝撃がドクンっと走る。

レイチェルは首飾りの石に目をやると、その赤い石はレイチェルの胸の中に溶けていく。

レイチェルは抵抗するがミランダの魂が徐々に自分の体にゆっくりと入り、まじわろうとしている。

ミランダはレイチェルの体に自分の魂を入れ、乗っ取るつもりだ。

「うふふ……。さあ、わたしと一つになりなさい。」

ミランダはそう言うが、すぐには乗っ取らずゆっくりとレイチェルの体に入り込もうとする。

「ああ…つながった…」

泣き叫ぶ少女は、自分の下半身がミランダと同化している。同化している部分は脈を打ち、混ざっていく。

ミランダは興奮する。

「ああ……!いいわ!この平民の血が流れてる汚らしい体の感覚……!最高だわ……!」

レイチェルは涙を流し苦しそうにしていた。

ミランダはレイチェルをもてあそび、さらに追い詰める。

「いやぁ…!なに…この感情…黒くて悪い何かが…いや…!」

レイチェルの心拍数は跳ね上がりドクン、ドクンと血液が体を回る。

ミランダはレイチェルの体の主導権の半分を奪い体を触り始める。

「ああ…!汚い平民の血が私の中を流れている…!高貴なわたしがこの平民の体に…!これが生の実感…!! 」

邪悪な令嬢の魂はレイチェルになじませようとする。

「さあ、レイチェル。わたしの知識と性格、代々伝わるヴィクトリアの血とわたしの魔力を受け入れなさい。我が一族に伝わる転生の儀式にて、あなたのクズのような肉の塊を高貴な力で作り変えてあげる!そして生まれ変わるの!」

レイチェルはカラダをのけぞらせ顔は上を向き、きれいな首筋を見せる。レイチェルの胸から首まで汗が浮き出てレイチェルは苦しそうにする。

「安心して。あなたは死なない。わたしと一緒に生き続けるの。あなたの体で。わたしとあなたの意識が混ざり、あたかもアタシ自身であるようにふるまえるわ。」

レイチェルは拒み苦しむ。しかし、それはミランダがレイチェルの魂と完全にまじわるため、また長い間霊魂としてさまよっていた遊びもできない苦しみを今ここでしっかり晴らそうとしているのか。ゆっくりと時間をかけて遊ぶ。

レイチェルの口調はどんどん変化していく。

「ワタクシは、レイチェル…!わたしはレイチェル…!…ああ…!」

レイチェルは口の主導権も奪われかけ、涙を流す。

「うふふふ……ふふふ……。」

ミランダはこれでも飽き足らずまだまだレイチェルを苦しめる。

レイチェルの意識は薄れていく。

「やめて……!助けてぇ……!痛い……!苦しい……!嫌だぁ……!誰か……!ああ……!あああっ!」

レイチェルが意識を失いかけるが、それを許さないとミランダが邪魔する。

「ダメよレイチェル。まだ抗いなさい。すぐに終わったらおもしろくないわ。あなたの意識はそのまま。私と混ざり合うの! 」

レイチェルの顔の半分は、あの美しきミランダ令嬢の顔に見えるくらい浸食は始まり、レイチェルのカラダがミランダの霊魂の魔力の形に合わさるようにレイチェルの肉体は変化を始めていた。

ミランダは自室で悶える。

(ダメ……!抑えきれない……!)

「ああ……!欲しい……!力がほしい……!ああ……!んぅぅぅぅぅぅ!」

ミランダは自分の体を慰め始める。

「ああ……、気持ちいい……。」

「ふぅあ……ああ……」

レイチェルは肉体が変化していく。無垢な顔つきから妖艶に変わっていった。

レイチェルの顔は徐々にミランダの顔に近づく。いや、どちらかというと妖艶な感じにレイチェルの顔はミランダの顔の特徴をしっかり受け継ぐ。

「ぐ…ぁぁ………」

レイチェルの精神が徐々にミランダになりつつある。

レイチェルはだんだん自分の意思がミランダと同化していき、ミランダの魂と混ざっていくのを感じる。

ミランダの人格とレイチェルの人格は完全に混じり合い、もはやどちらが自分の意志なのかわからないほどにミランダの魂はレイチェルの体になじんでいく。

「ああ……!いいわ……!これよ……!これが欲しかったの…!生身の人間の体……!はぁ……!」

レイチェルはミランダそのものになった。

「ああ……素晴らしい……、生まれ変わった気分よ。これが貴族の力…。おじいさまの言ったとおりだわ!一族は完全に滅びないように他人のカラダでも復活できるようにひっそりと研究していたのね!」

「さっそく、この体で遊びますか。幽霊の人生なんてもういらない。ああ……!楽しいわ……!」

ミランダはレイチェルの体を乗っ取った。そして、自分の体を触りながら、楽しむ。

「うふふ……、レイチェル…やっとあなたになれました。」

ミランダの魂はレイチェルの体に宿った。

「うふふ……。これで、わたくしはミランダ……。いえ、レイチェルです。」

レイチェルは、自分の体を抱きしめた。

レイチェルの人格はミランダの邪悪な人格と交わりあい、もうミランダがレイチェルの体を乗っ取ったといっても過言ではない状態になっていた。

「ああ……!これからはずっと一人の人間として生きていけるのね!嬉しい……!」

レイチェルだったものは歓喜の声を上げる。

「ああ!感じる!まるで元から私のカラダであったかのように!わたしの肉体が変化している…!」

レイチェルは鏡を見て興奮する。レイチェルは鏡を見つめる。

その美女は鏡を見て満足げな笑みを浮かべる。

「フフッ。なかなかいい女になったじゃない。わたしの顔に似てるわ。」

ミランダの魂はレイチェルの体になじんでいき、その快感に酔っている。

「うふふ……。本当にわたし……。いえ、ミランダは美しいわ……。」

レイチェルはミランダとして自分の体を確かめる。

レイチェルは自分の胸に手を当て揉んでみる。

「んっ……。」

レイチェルの胸は小さく、ミランダの胸に比べるとかなり小さいが、それでも十分な大きさがあった。

「ああ、私の胸、なんて小さいのでしょう。ですが大丈夫です。この胸もすべて私のモノです」

「ああ……。こんなに美しい体が手に入るなんて!神様ありがとう!」

レイチェルは手を頬にあて、鏡を見て感謝する。

「ああ……。なんて美しいの。これが私……。」

レイチェルはしばらく鏡にうつった自分に見とれていた。

ミランダはレイチェルの体で快楽に浸りながら高笑いする。

「アハハハ!なんてすばらしいの!これで貴族になれる!お父様もきっと褒めてくれる!そして、邪魔なあいつらを消す!」

レイチェルは自分の体がミランダに乗っ取られ交わったことを感じた。ミランダはレイチェルの体になじんだことを覚えた。

「平民の血が流れる醜い女から、高貴な地位を持つ美しい存在に……。」

レイチェルは精神も肉体もミランダに完全に取り込まれた。

「ミランダ再生物語の…始まりね。」ミランダはレイチェルの体を使い、レイチェルのふりをして、成り上がりを目論む!

人のいない元ミランダ貴族の屋敷で、一人の少女がシャワーを浴びていた。その少女はレイチェル。この世界では急速な資本主義の発展により、中世のような世界観だが、技術はかなり発展している。もっとも、この生活を味わえるのは貴族だけだ。

温かいシャワーを浴び、長い髪を洗い鏡を見る。その鏡にはピンク色のきれいな髪と透き通るような美しい緑色の瞳が映っていた。

白い肌はピンク系の色味を綺麗に演出し、柔らかい雰囲気をただよわせる。

「ふぅ~ん。もともといい顔立ちはしていて良かったわ。ブサイクならいやだし、この子みたいな子に出会って良かったわ。それに。」

レイチェルは鏡を見ながらいやらしい笑みを浮かべる。

「わたしと融合して少しは私の面影もある。うつくしいわぁ、わたし。」

彼女は自分の顔を触り確かめる。

「ああ……。それにしても、こんな子がいてよかった。こんなにもきれいな肌が。唇が薄いのと、胸が小さいのは……。ま、後でなんとかなるわ。」

レイチェルは体を洗おうとするが、そこで手が止まる。

「あら?おかしいわね?私の体に、傷があるわ?」

レイチェルは不思議そうな表情をする。

「おかしいわねぇ……。確かに、わたしの体に傷はないはず……。」

レイチェルは記憶を探ると、それはレイチェルが親に暴力を振られていた記憶がある。

レイチェルは舌打ちをして愚痴を言う。

「チッ、傷ものか。でもよかった。顔じゃなくて。貴族の女性の顔に傷があるとまずいしね。」

レイチェルはシャワーを終え、服を着て部屋に入る。

(まずは手始めに…。平民の地位からの復帰よ…。)

レイチェルはとある貴族の使用人になり、貴族の地位に戻ろうと企む。

没落貴族や悪事に身を染めて落ちた貴族は、他の貴族の使用人として仕え、当主から認めてもらえれば貴族に復帰できるという仕組みがある。

しかし、ここで一つの問題がある。

「この子は平民だし…元貴族なら手っ取り早かったけど。他にこの子以外に乗っ取れる貴族はいないし。」

レイチェルはミランダの邪悪な知識をフル活用して考える。レイチェルの脳にはなかった邪悪な知識がレイチェルの脳に刻まれる。

「んはっ。」

レイチェルはつい、頭の新しい刺激で甘い声を出してしまう。

「いけないわ。今は貴族になりあがることを考えないと……。」

レイチェルは少し考え、そして、口角を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべる。

ミランダ改めた名をレイチェルは、ミランダ家の貴族の家系を調べなおし、生き残りの年の近い少女の名を見つける。

「そうよ。確かあの子、わたしが権力争いの元になると思って、人知らずの川に沈めた。」

(あの小動物のようにおびえたあの表情。思い出しただけでも興奮する…。)

「はぁっ…はあ…。ダメよレイチェル。興奮しちゃ。イケナイ子。」

レイチェルは頭を振り邪念を払う。

「でも、あの時の表情が忘れられない……。もう一度見たい……。」

レイチェルは再び悪いことを思いつき、ニヤリと笑う。

「そうだわ。あの子を殺せばいいんだわ。あの子が死んだら、私が殺したってバレない。…いや、もう殺したんだっけ。」

(殺した子の名前もレイチェル。奇妙な偶然ね。あの子の死は親元には伝わってないし、私(ミランダ)が預かっていることになっている。)

レイチェルは両手を頬に当て、邪悪に笑う。

(わたしがあのレイチェルになればいいんだわ。ちょうど両親は死んでるし怪しまれることはない。それに。)

レイチェルは自分の顔を鏡で見る。

「わたしの魂の影響を受けているのかしら?わたしの面影があるし。さて…。」レイチェルは服を脱ぎ捨て、全裸になって鏡の前に立つ。

「んっ……はぁ……。いいわ。やっぱり、わたしの顔はかわいい……。」

レイチェルは体をくねらせながら、鏡に映る自分の体を見る。

「ああ……。もっと美しくなりたい……。もっときれいになりたい……。もっと、もっと……。」

レイチェルは自分の体を撫でまわし、快楽に浸りながらつぶやく。

そして、レイチェルは、数日前に死んだミランダの妹のレイチェルという同名の住んでいた部屋を開けて、クローゼットの服を選ぶ。

「これなんかどう?この前、妹が買ったばかりのドレス。」

レイチェルはその真っ白なドレスを着て鏡を見る。

「うん。似合うわ。」

レイチェルは鏡の前でくるりと回る。

「んふふふふ……。これで、私も貴族になれるわね。」

「今日から、わたしがレイチェルよ…」

レイチェルは自分の体を愛でながら、これからの計画を練った。

死んだレイチェルに成りすまし、レイチェルの住んでいたお屋敷に向かう。

そして、レイチェルは、ころした家族の屋敷に到着する。

馬車から降りるとこちらに気づいたのかそのお屋敷の使用人とレイチェルの叔父がお迎えに来た。

「おお、レイチェル!帰ってきたか!大変だったな。ミランダのろくでもない計画に巻き込まれ大変だったろ?」

「え、えぇ……。まあ。」

「間違いなくレイチェルだ。あの恥さらしのミランダにも受け継がれた美しき祖先のヴィットリアの面影が。」

「ほら、今日は疲れただろ?ゆっくり休め。」

「はい……。ありがとうございます……。」

レイチェルは叔父に連れられて部屋に向かった。

「ふふふ。バカな男ね……。私の正体も知らないなんて。」

レイチェルは叔父に連れられ部屋に向かう途中、内心ほくそ笑む。

「ふふふ……。」

「どうした?何か面白いことでもあったのか?」

「いえ……。なんでもありませんわ……。」

「そうか……。」

(奇妙な偶然、運命の出会い。神様はわたくしについてくださっているわぁ。)

レイチェルは自分の部屋で、いや殺したここの貴族のレイチェルの部屋でくつろぐ。「ふぅ~……。やっぱり、自分の部屋が一番落ち着くわぁ~……。」

レイチェルはベッドに飛び込む。

「うぅ~……。最高ぉ~……。」

レイチェルは目を閉じ、まどろみ始める。

「ああ……。このまま寝てしまいたい……。」

レイチェルは眠気に襲われウトウトし始め眠りに落ちる。

それから、次の朝良い目ざめに起きたレイチェルは、計画を実行する。

「叔父様。お願いがあるのですが……。」

「なんだ?」

「このお屋敷で雇っていただけませんか。」

と食事をしている叔父に話しかける。

計画は順調。孫娘を気に入っていた叔父はすんなりと受け入れた。

「かまわんぞ。お前でよければな。」

そして、自分の地位を利用して、使用人でありながらろくに仕事をせず、楽な使用人生活を満喫する。

そして、ついに。レイチェルは叔父の許可により、貴族の地位に戻ることを許される。もっとも当のレイチェルは本人ではないが。

そして、叔父の助けにより、両親のいないレイチェルだが、新たな使用人とその貴族のレイチェルとその両親の土地を手に入れたのだ。これで、貴族の地位に返り咲くことができた。

そして、レイチェルは貴族の地位から国家権力を手に入れようと考える。

振り返ればミランダのいやレイチェルの悪事は恐ろしいもの。

権力争いの元になる従姉妹のレイチェルを殺害して、国家権力の乗っ取りに失敗し処刑され、霊魂となりさまよっている時に平民の従姉妹と同じ名のレイチェルの体を乗っ取り融合して、貴族にかえりみようとして、今それを成功してしまったのだ!そう、今のレイチェルこそ、ミランダ改め、レイチェルなのだ。

「ここからがスタートね。」

レイチェルは、ミランダに乗っ取られる前の純粋な瞳と表情を失い、ミランダによるその美貌と、その狡猾さと、その度重なる悪行と、その冷酷さが合わさり、さらに美しくなる。

かつてのレイチェルとは思えないほど別人になっていた。

ミランダの悪意がにじみ出た鋭い目つきとレイチェルの優しい目つきが上手に混ざりその貴族の一家にとって自慢の美人娘と言っても過言ではなかった。しかし、その美しき花には恐ろしい毒針があった。

レイチェルは貴族生活を満喫していると、ある情報が耳に届く。

それは、ここ近く広まっていた人気分野でも知られている異世界転生モノと似たような事だ。

ある異世界から人間を召喚し使役するという話。転生モノなら主人公は召喚されて自由の身となり異世界旅を始めるのが主流だが、運が悪かったであろうこの悪令嬢のレイチェルに目を付けられる。

レイチェルは興味深そうにする。

「ふぅうん…異世界人ね。おもしろそう。私のペットにしてみるのもいいかも。」

こうして、レイチェルは異世界人を召喚するための準備に取り掛かる。

「まずは召喚陣を用意しないとね……。」

レイチェルは魔法が得意な家系であり、魔術に長けている。

早速、魔法を使い、レイチェルの部屋に大きな魔方陣を描き始めた。

「ふんふーん♪」

鼻歌を歌いながら、上機嫌で描き続ける。

「よし、完成!」

レイチェルは満足げに微笑む。

「後は、これを起動させるだけでいいはず……。」

レイチェルは呪文を唱え、術式を発動させた。

すると、目の前に見たことのない文字で書かれた魔方陣が現れる。

「召喚に応えよ。我が眷属に成り下がる運命にある人よ!」

そして、魔方陣が光り輝く。

召喚に現れたのはどこにでもいそうな一般男性だ。しかも作業服を着ているというより着せられているような痩せた男性だ。

「あれ?ここはどこだ!?オレは秘密警察に誘拐されて徴兵されて…確か…〇イツ軍に…うわ…!うわぁあああああ!」

男は悲鳴を上げ、思い出すのも嫌になりそうに苦しみ頭を抱え膝をつく。

レイチェルは面白そうに男を見る。

「あら?大丈夫かしら?」

「あ、あなたは誰ですか?それに、なんで俺はこんなところにいるんだ?ここはスターリングラードじゃないのか?」

「ふふ。私は、ヴィットリア家のレイチェル・フォン・ヴィットリア。」

「ヴィットリア家?なんだ?すごいのか!?オレは制限された教育しか受けてないからわからねぇ!」

「ん?…?まあいいわ。あなたは助かったのよ。理不尽なかわいそうな生き方をしたあなたは、再び生きるチャンスを手に入れたのよ。」

「どういうことだ……。」

「ふふ……。」

レイチェルは 美しく艶やかで上品な女性から立ち上る色気のような、しっとりとした潤いと甘い香りを含み、優しく匂い立つ、色とりどりの華やかなお花のような,、男性を惑わすようなあやしい美しさ で妖艶(ようえん)な笑みを浮かべ、男の耳元で囁く。

「あなたは、私のために働くの。」

「えっ……。」

「拒否権はないわ。」

「そ、そんな……。」

「死にたかったら死なせてあげる。」

「ああ…異世界行ってもおんなじかよ…。うう…。」

そして男はレイチェルにこき使われ使用人の日々を送る。

「あら?どうしたの?」

「レイチェルさま…わたし、風邪をひいてるみたいで…。」

「そう。もう使い物にならないわ。自由にしてあげる。」

「へ?」

この男の名はロボタ。元の世界では、とある連邦のペナールバタリオンと呼ばれる懲罰兵として自分の罪を自身の血か敵兵の血で償うために戦場へ送り出されたのだが、今は令嬢の使用人として日々清掃や水やりをしている。しかしある日風邪をひいてしまい、令嬢から切り捨ての宣告をされる。それは城の下水道で一生を遂げろというものだ。

この世界の下水道は中世の構造を少し残しており排泄物やいらない食べ物のカスをまとめて捨てるところで、水路は城の下に通っており、貧困層の人間が定期的にきれいにしなければいけない場所だ。

「さようなら。」

レイチェルの別れの言葉の後、ロボタは闇深い下水路と呼ばれる奈落の底に墜とされてしまった。

「あああああああ…!」

こうしてロボタはどこに行ってもどこに召喚されても、冷酷な独裁者に出会ってしまうのだった。

ロボタの主役の話でないため、ロボタの話は別途で。

そして、レイチェルはまた新たに異世界人を召喚しようとしていた。

次に召喚されたのは茶髪の青年だ。

「ここは?異世界?やったー!女神さまの約束で転生できたんだ!今からオレはハッピーフラワーな生活を送れるのかな?」

レイチェルは、浮かれている青年に近づき、耳元につぶやく。

「残念だけど、あなたは、わたしのおもちゃよ?」

「え?」

それから青年はレイチェルに仕えて眷属の日々を送っていた。

そして、レイチェル令嬢の権力乗っ取り計画に利用される。

彼の名はひがみゆうた。日本生まれで海外の言葉を勉強して、主に翻訳や通訳の仕事の手伝いをしていた。彼の父は帝国軍人で、戦時中、息子は敵国の情報を伝えるスパイ活動を行っていた。

しかし、連合軍の砲撃に巻き込まれ死亡した。と思われたが女神にあなたは選ばれたのだとか詐欺まがいの説明を受け、今レイチェルの召喚に異世界に呼び出されたのだ。

「さあ、ユウタァ。あなたはこれから、王子さまの屋敷に忍び込んで殺しなさい。」

そして、ゆうたは、レイチェルの指示通り王子の屋敷に忍び込むが、暗殺を失敗。拷問にかけられレイチェルの支持だと吐いてしまう。

レイチェルまたの名をミランダは、二度めの牢屋に入れられる。しかし、レイチェルにはまだ手があった。

そして、数日がたちレイチェルの潔白が証明され、レイチェルは牢の扉を開けてもらう。

そこには王子暗殺の失敗で捕まったユウタがいた。

牢の扉が開き、いい格好をした貴族のレイチェルは、ユウタに近づき、ユウタの前に立つ。そして地面にひれ伏すユウタを見る。

「まったく、手間取らせてくれたわね!」

レイチェルは、ユウタの頭を踏みつける。

「平民の分際が!身の程をわきまえろ!」

ユウタの頭を何度も踏みつける。

「あ、あなただって…もともと…。」

ユウタは反論しようとするが、レイチェルの威圧で何も言えない。

「はあ?わたしを見なさいボンクラ。わたしはあなたと違うのよ?」

レイチェルの攻撃に苦しむユウタ。

「うわぁっ!ああ…。」

「コイツをゴミに捨てなさい。」

「待ってください。うわぁあああ…!」

「異世界人は使い捨てにはちょうどいいわ。元の世界でも使い捨てとか悲しい運命です事。」

それから、ユウタはより賢くなりレイチェルを捕まえて苦しめようと考える。

それから月日が流れ。

レイチェルはベットで寝ていた。

「うぅん…ふかふかのベッド…ここは…?」

見知らぬ部屋とベットでレイチェルは困惑していた。

そこに女性の声が聞こえる。振り向くとそこには霊体のミランダがいた。いや、レイチェルと長く一つになっていたのか、魂の形は、今のレイチェルにそっくりだ。

「おはよう。良く寝た?」

レイチェルは、きょとんとしていたが、すぐにミランダにされたことを思い出しベットの上で恐怖により動かなくなる。

(この小動物のようにひれ伏す表情。イイ!)

ミランダはレイチェルの表情を見て興奮する。

レイチェルは鏡に映るミランダを見てミランダのいる方向に振り向く。しかし。

振り向いた先にミランダは存在しない。

レイチェルは動揺する。

すると、ミランダが語りかける。

「そう、今、私とあなたは精神的にも一つになりかけている。もう私は前みたいに空を飛べないの。でも問題ないわ。」

ミランダは悪意に満ちた表情でレイチェルに語る。

「あなたの体があるのだから。」

そしてミランダは、楽しもうと再びレイチェルで遊ぶ。

「いいわこの感覚。まるでなめらかなシルクを通すような感じ。」

レイチェルの腕に自分の腕を通すように霊体のミランダはレイチェルの体に入る。

そしてミランダはレイチェルの腕を操りレイチェルの胸を掴む。

「うぅん。最初は水と油のように混ざりにくかったけど。今じゃすんなりと入るわ。まるでパズルの元々一つのピースであるかのように。」

「お願い…やめて…。」

「それじゃあ最後は、アタマの中!」

ミランダはレイチェルの手で顔を掴み、マスクをかぶるように入り込む。

「いやああああああ!!!!!」

レイチェルは苦し紛れに涙をこぼし、下卑た笑みと泣きそうな表情を見せる。

「ああ!その表情!ゾクゾクしてくるわ!もっと見せて!あなたに私の全部をあげるから!」

「ひぐっ…!あぐっ…!」

そして、レイチェルの意識は再びミランダの意識とまざった。

しばらく沈黙し目を開けると、レイチェルはゆっくりと目を開け、こぼれる涙を指で拭き取りニヤリっと口角を吊り上げる。

「…フッ。」

レイチェルは笑いながら呟く。

「……これが、絶望の味ね。でも問題ない。わたしはあなたのそばにいるでしょう…永遠に…」

レイチェルは自分の指先を色っぽく舐めた。

自分の体を堪能していると頭にレイチェルの記憶が流れる。

「意識していないのに。きっとわたしの魂とこの子の魂が混ざって境目がなくなりかけているんだわ。」

レイチェルはレイチェルの記憶を堪能する。

「ううん。優しさね…。ペッ!反吐が出るわ。」

それから、レイチェルは再び悪行に走る。

(わたしの性格のせいかしら。この子の脳みそからドーパミンがあふれて気持ちいい!)

レイチェルの焦点は上を向き口角を吊り上げきれいな歯を見せ下見た笑みを浮かべていた。

相変わらずの反省色を見せないミランダ、今の名をレイチェルは悪事を繰り返す。

「上流階級の人間は忙しいの。」

それからレイチェルは、城の中でユウタを探したが見当たらなかった。

「……アイツがいないとつまらないわ…」

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