成長の灯
翌日夜、仲間内だけで集まる息子のために開かれる初めての小さな誕生日会。
ケーキのロウソクに灯される炎を不思議そうに見つめる大きな瞳に、それに手を伸ばし掴もうとする亮二。
「こーら亮二、これは危ないよ。あっちぃからな。」
それでも手を伸ばす息子を抱きテーブルを離れる修二。
ケーキには明るく灯る炎が一つ。
これは息子が懸命に生きた一年間の成長の証でもあった。
予定よりも二ヶ月早く誕生した亮二。
呼吸器や消化器官の問題もクリアし、一歳手前にして妹ができた。
「修二くんもすっかりパパやってるのね。」
「もう一年経つからな。あっという間に三人の父親になっちまったもんだ。利佳ちゃんももうすぐだろ?いよいよだな。」
こんな日が来ることを誰が予想できただろうか。
あの、自由気ままな生活を送っていたかつての二人の男女が父と母になった。
宅配の寿司や食事、ケーキもあっという間になくなり、元々赤ちゃんが苦手だった利佳子も一度亮二の世話を引き受けてから小さい子に対する不安は小さくなったようだ。
彼女の出産も近い。
きっと役に立つ快感だっただろう。
…
日本滞在最終日。
修二はドイツへのフライト前に里美と娘たちのいる病院へ向かった。
「体調はどうだ?やっぱり出血多かったみたいだな。でも、前みたいに大事にならなくて安心したよ。」
「血が減ったからかしらね…起き上がるとフラフラするもの。…今日、亮二は?」
「ムリするな、起きなくていいから。亮二は今日、歩美ちゃんが見てくれている。昨日は皆んなが祝ってくれたからな。」
ベッドで横になったまま、やはり気になるのは家に残してきた息子のこと。
「そう、もうすぐあの子も一歳か…亮二に会いたかったな。けど、あとちょっとで帰るし。今日はもう、このまま空港行くの?」
「まぁな。こいつらに次会う時はもうすっかり大きくなってると思うと、悲しいもんだ。それより亮二、あいつ人見知りあるよな。」
「誰に?修二くんに?」
「利佳ちゃんに。抱っこされるの嫌がってたよ。」
「あら、利佳子は大丈夫だと思ったけど?確かにたまにしか会ってないものね。仕方ないんじゃない?パパ見知りじゃなくて良かったわね。」
修二は苦笑いをしたが、ここから数ヶ月、再び家族から離れてしまえばきっと父親の存在など忘れられてしまう。
そんな寂しさも受け入れて、再びのドイツへ渡る日を迎えた。
「あと一時間もしたら空港に向かわないと。最後に二人を抱いておこうかな。」
「お願いだからたまには帰ってきてよね?ちゃんと無事に頼むわよ。」
双子が管理されているNICUへ里美と向かうと、修二は目を細めて微笑んだ。
予定日よりも早い急な陣痛と出産により誕生直後よりNICUに入ったが、その後についてそれは逞しく成長を見せ、予想よりも身体に悪い箇所は見られていない。
ただ、双子という事もあり体重が病院内の基準に満たず、詳しい検査をしながら暫くの入院が決定していた。
「なるべく努力はするよ。で、こっちは誰かな?」
「今抱いてるのが優梨ちゃん。分からないで見てるの?」
「愛梨ちゃんは最初に産まれた方の子か?いやぁ、まずいな…わからないもんだ。」
「優梨ちゃんは後に産まれた子ね。」
新生児であることや一卵性の双子ゆえ、そっくりではあるがやはり多少の違いはある。
出生届を修二がこの後提出してから出国することになっていたが、長女と次女で名前を間違えて提出されてしまってはたまったもんじゃ無い。
「ちょっと、間違えないで提出してきてよね、本当大丈夫?長女の愛梨、次女の優梨だからね。本当間違えだけはやめてよね?声も若干違うし…なんだろ、わかる?何となく違うのよ。」
「優梨。お兄ちゃんと愛梨ちゃんと、仲良くするんだぞ?この子もこっち、抱かせてもらえますか?」
看護師が修二の空いた腕に愛梨を入れる。
「この二人の色々な顔、見たかったもんだ。桃瀬と一緒に三人を育てたかった…」
「修二くんだって父親でしょう。離れてたって、ちゃんとパパお願いね。」
「そうだな。じゃ、そろそろ行くか…ごめんな色々と。」
「ううん、本当なら出産だって一人だったんだもん。一緒に暮らしてなくたって、親なのは変わらないわよ。会えてよかった。」
二人を見つめる修二が滞在できる時間はあと僅か。
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