第13話

「やってしまった。私はまた……」

 放課後のほとんど人のいない保健室の隅で木村は頭を抱えていた。

「わかっていたことでしょう?」

 鈴木は呆れている。

「私は彼女二人を会わせてしまった。あの子たちはもう愛を、真っ直ぐな愛を受け取ることができない。また、こちら側に彼女たちを連れてきてしまった」

「それはあなたのせいじゃないよ」

 鈴木が木村を後ろから抱きしめた。

「いつも言ってるでしょう? あなたが止めようとしても運命は変えられない。彼女たちがそれを求めたなら、私たちは見守って、ときどき傷の手当をすることぐらいしかできない。無力なのよ、私たちは」

 どこか悲しげに鈴木は語った。

「まぁ、それでも私の反対を押し切り、約束を破ったあなたには“お仕置き”するわよ」

「よろしくお願いします」

 木村は歪んだ笑顔を鈴木に向けた。


 あのあともう一日休んでから私は授業に復帰した。

 最初の数日の放課後は休んでいた分の埋め合わせで終わった。その後はほとんど誰とも話すことなく帰宅している。

 過去の私なら奈々さんあたりと話していただろうが、今はそんな気持ちにならない。私が話したいのは杏一人だ。

 だがその杏とは放課後なかなか一緒に帰れない。放課後は何やら忙しいらしい。休み時間は普通に話せるが一人で帰るのは寂しい。

 ああ、杏は何をしているのだろう。


「やっと帰ったか」

 杏は今「Play room C」の前の廊下にいた。佳子が帰ったかを確認するために。

 「Play room C」は佳子と使ったBよりもさらに暗く、その上狭い部屋だ。彼女は扉を開き、室内へ足を踏み入れる。中にはおびえた様子の奈々の彼女、柚子がいた。

「準備はできてる?」

 杏の問いに柚子はこっくりとうなずく。

「じゃあ"Play"を始めますよ」

「"立って"」「"いい子"」「"座って"」「"偉い"」

 感情のない声で淡々と出される命令。どちらも精神的に満足することはない。ただただ杏がDomの力を制御するための練習である。

 柚子は従わないと秘密をバラすと脅され従っているだけである。練習は二時間ほど続いた。帰り際に柚子は問う。

「秘密、バラさないですよね?」

「大丈夫。あなたが首を絞められるのが好きな変態と周りに言いふらすことはまだないよ」

ニコニコと笑いながら告げる杏に柚子は従うことしかできない。

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