第5話 友人とライバル?

 現在の時刻は一ニ時。昼食どきだ。


 学院には本館、西館、東館の三棟とそれらの裏側にあるグラウンドを挟んでニ棟の建物があり、学院の本館で試験を受けていた受験生達は食堂がある西館へと向かっていた。

 もちろん、ぞろぞろと歩く受験生の中にウィルとラナックもいる。


「よぉ! ラナック、ウィ……お前どうしたんだよ‼︎」


 全体的にツンツンと逆立っている灰色の髪の男性が二人を見て反応していた。彼の名前はゼル・レイッサ。両耳に黒リングのピアスをしており、バギージーンズに黒パーカーを着用しているヤンキー味がある男だ。

 また、この三人は同じ塾に二年間通っており、そこで交流を重ねていたのだ。


「何をそんなに慌ててんの?」

「だって、お前その格好おかしいだろ! 前々から只者じゃないと思ってたけど、ついにここまで来ちまったか」


 ゼルはウィルを指差して狼狽うろたえていた。なお、当の本人はパンイチ姿に慣れたのか平然としている。


「ふっ、何を言ってる。ウィルグレンは元々おかしいじゃないか」

「それもそうだな」


 ラナックの言葉にすぐ答えるゼル。


「いや、ちょっと待ってよ。人前で動じなくなっただけで外ではちゃんと服を着たいと思ってるさ」

「当たり前だろ!」

「まぁ、私は気にしないけどね」

「気にしろよ」


 ニ人にツッコミを入れるツンツン頭の男。彼は意外と常識人であった。


「で、その格好で食堂入るつもりか?」

「そんなわけないだろ。西館の一階に確か購買部があったはずだからそこで着るものを買ってくるよ。正直、あるとは思えないけど」

 

 ウィルは二人を先に西館ニ階の食堂に行かせて購買部へと向かった。

 彼は購買部の中をぐるりと周る。


(筆記道具……食べ物……電卓にノート、ベルト。おっ! 作業着がある! いやでも高過ぎる)


 歩きながら目ぼしいものを探し。


「こっ、これだ‼︎」


 買えなくはない値段かつパンイチ姿は隠せる物を見つけたのであった。


――西館二階の食堂。幾つかある長机の端の方にて。


「確かに数学もやばかったけどなー化学の方がやばかったな」

「正直、パンねるのに忙しかったから手応えはないね」

「お前ほんと何しに来たんだよ」


 などとゼルとラナックがやり取りしてると。


「席取ってくれてありがとう。二人とももう食べてる感じ?」


 ウィルは二人に近づいて言う、白衣を身に纏って。


「ああ、俺達はラーメンを……ぶっ! 変態じゃねぇか!」


 ゼルは顔を上げてウィルを見ると吹き出しそうになりながら言う。


「さっきよりマシなはずだと思うけど」

「まぁ、私達はその中身を知ってるからね。タチが悪いのさ。それに白衣の下から生足が出てるのもおかしい」


 ウィルは「なるほど」とラナックの言葉に同意し、


「とりあえず、ご飯頼んでくるよ」


 食べ物を注文しに行った。


 食堂のカウンター越しに調理室があり、幾人もの調理員が忙しく働いていた。ウィルはとりあえずカウンターの前で作られてる列に並ぶと。背後から彼に話し掛ける者がいた。

 

「ごめんあそばせませ。ウィルグラン・ガードレッド」

「うわっ……クルーナ・ルーデリカ」


ウィルは話し掛けてきた人物を視界に入れるとたじろいでいた。


「結構な挨拶ね。とにかく今回は負けないわよ! 勝負しなさい」


 彼女は旧三大名家と呼ばれるルーデリカ家の次期当主。この旧三大名家というのはかつて魔法が存在していた時代に著名な魔法使いを輩出していた三つの名家のことである。魔法が使えなくなった今では名ばかりの家だが未だに威光と権力が健在している。


 また、クルーナは銀眼銀髪のロングヘアで髪型は下ろした髪を二つ結びにしておさげにしており、小顔で黒を基調とした可愛らしいワンピースを着ていた。更に黒ニーソを履いているのが分かる。


「まだ、イチャモンつけてくるのか」

「イチャモン違うわよ! ルーデリカ家次期当主として命ずるわ! 入学試験の点数で勝負なさい」


 彼女はウィル達の通ってた塾で常にトップの成績を収めていた。しかし、受験前に行われた最後のテストではウィルが一位の成績を取っており、それについて根に持っている状態であった。


§


五話まで読んでいただきありがとうございます。


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