わたしの幼馴染はモフモフ王国の王子様!
ゆいレギナ
第1話 いつもの日常…だったのに!
「みゃあ(おなかすいたよー)」
自販機のそばで寝そべっていた猫が、そう鳴いた気がした。
わたし、
こうして動物の気持ちがなんとなくわかるのだ。
「今日はねー、ビスケットを持ってきているよ!」
わたしはランドセルを下ろして、こっそり入れていた個包装を開けた。もちろん、学校にお菓子を持っていくなんて本当はいけないことだ。だけど……毎朝こうして、猫や犬と会ってしまうことが多いんだもの。見て見ぬふりなんてできないよ~。
わたしが開けたビスケットを、猫さんが美味しそうに食べてくれている。
あ~、かわいいな。うちでも動物を飼えたらいいのだけど、ペット厳禁のマンションに住んでいるのだ。家でも好きなだけモフモフ毛並みを撫でられたら楽しいだろうにな。
「慌てないで、ゆっくりお食べ」
猫の眉間を親指でゆっくり撫でていた時だった。
猫が慌てて逃げていく。わたしを覆う影に振り返ると、そこには見覚えのある男の子がいた。
「おい、遅刻するぞ」
ぶっきらぼうに声をかけてきたのは、幼馴染の
でも……実は来牙くんがとても優しい人なこと、私は知っているの。
だって本当に怖い人だったら、今も『遅刻する』なんて注意をしてくれないでしょ?
だから、わたしはにっこり笑う。
「それは来牙くんも一緒じゃーん」
「もうガキじゃねーんだから、名前で呼ぶんじゃねーよ」
「でも来牙くんは来牙くんじゃん? わたしのことも昔みたいに『くるみちゃん』って呼んでよ。おまえ、とかじゃなくってさ」
「だから――」
その時だった。
キーンコーンカーンコーン。
いけない、本当に遅刻しちゃう!
うちの学校の予鈴のチャイムである。五分後には教室に先生が来ちゃうから……走ってギリギリ間に合うかどうかだ!
「ほら、急ぐぞ!」
言うより早く、来牙くんが私の手を掴んで走り出す。
わたしの胸がドキリと爆ぜた。来牙くんだったら、一人で走れば余裕で間に合うのに。
「…………好き……」
それは、誰にも聞こえないくらいの小さな声。
すぐ隣の道路では車がビュンビュン走っているから、わたしの気持ちが来牙くんに聴こえるはずはない――そう思っていたのに。
「ばっ……!」
顔を真っ赤にした来牙くんが、バッと私の手を振りほどく。
その勢いに乗って、私の身体が横へふわっと飛ばされそうになった。
「あっ」
トラックが目の前に迫っている。
ブーッとクラクションが聞こえるけれど、とろい私はとっさに動けなくて。
「くそっ!」
ガバッと私は誰かに抱きしめられた。来牙くんだ。
そんな、ダメ! 来牙くんまで轢かれちゃったら、わたし……⁉
すると来牙くんの身体が黄緑色に光る。それが眩しくて、思わず目を瞑ってしまえば。
吸い込む空気が、どこかみずみずしい。
目を開ければ、木々の緑がいっぱい飛び込んできた。
ここは……森の中……?
あれ、わたしは住宅街の道路にいたんじゃなくって?
しかも背負っていたはずのランドセルもなくなってしまっていた。
だけど、すぐそばにはちゃんと来牙くんがいる。
それだけで、わたしはホッと胸を撫で下ろした。。
「来牙くんが無事でよかった……」
「ばかっ、そんなこと言っている場合か⁉」
「ばかはどっちかな! わたしを助けようとして、来牙くんまで何かあったらどうするの⁉」
「助けないなんて選択肢あるかよ!」
そんな言い争いは、しばらく続いて。
二人とも息切れするまで、わたしも来牙くんも引かなかった。
はあはあ息を整えながら、わたしはふと気づいたことを口にする。
「来牙くん、眼鏡どうしたの?」
「あ? ……あぁ、落としたんじゃね?」
ぼりぼりとうつむき気味に頭を掻く来牙くんの顔を、わたしは覗き込んだ。
「すごくかっこいいね」
「はあ……⁉」
だって、前々から知ってはいたけど、切れ長の目も大きいし、鼻もスッと通っているし、すごく綺麗な顔をしている。だけど、よく見たら目の中がキラキラしているような?
思わずわたしがさらに覗き込めば、「寄るなー!」と相変わらず顔を真っ赤にしながら来牙くんが叫んだ時……カサカサと木陰から音がする。
二人同時に顔を向ければ、そこには数えきれないほどの狼の群れ。
どうしよう、このままじゃ狼に食べられちゃう⁉
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