第20話 邪神の国

ーー 邪神の国デオルダン国王


デオルダン国王に入ると驚いたことに差別され貶めされているのは獣人だけではないということに気づいたことだ。

精霊種と呼ばれるエルフやドワーフなどは元より、ヒューマンでもデオルダン国王以外の者については、差別的な扱いを受ける様なのだ。


「これでは王都に行くことすら儘ならぬかもしれないわ。」

と呟く私に、獣人の1人が

「ご心配なく、ここに人数分のデオルダン国王市民証がございます。これで大手を振って王都まで行けますよ。」

と教えてくれた、意外と頭を使う獣人も居るのだと獣人に対する意識を変える私だった。


デオルダン国王内の庶民の生活は、とても辛そうな状態だった。

その辛さを他の種族や他国の民を貶めるこちで解消している様だった。

「ここまで人の心を壊すには、流石邪神というところか。」

という私に言葉に皆が頷く。

「無辜の子供らに被害が出ぬ様、子供達を保護する者と騒ぎを起こす者に分れよう。そして子供達には十分な食料を与えてね。」

と指示をして私達は王都に入る前に二手に分かれた。



ー デオルダン国王の前



「1万の兵がたった200の獣人に蹂躙されたと言うのか?」

王の厳しい声に命からがら帰還した兵士に1人が

「はい真信じられぬ強さで、騎士団長についても生死不明です。」

と答えた瞬間、首が飛んだ。

「この様な報告を聞く気は無い、今後一切不要じゃ。直ちに獣人国を殲滅して獣王の首を我が目に持って来い!」

と言うと王は自室に引き込んだ。


その場にいたもの誰も声を出すこともなく黙って嵐が過ぎるのを待っていた様だった。

「宰相殿如何しますか?」

軍を束ねる将軍が尋ねる

「言うのお言葉の様に、最大級の戦力で獣人国を攻め滅ぼすしかなかろう。」

と答えた。

「では準備をして整い次第出撃いたします。」

と言い残すと将軍は部屋を出て行った。

「ふーっ。」大きく息を吐いた宰相は、空を見上げる様に上を向くと何かを呟き部屋を立ち去った。



ー デオルダン国王王都にて


「上手く潜り込めたのはいいがどういう風に混乱させる?」

「火をつけるのが一番簡単だけど・・困るのは平民ばかりだよね。」

「うん〜ん。兵士たちの食料や飲み水に痺れ薬なんかを仕込むのはどう?」

と私が提案すると

「それはいいアイデアだと思いますが・・何処で仕掛けますか?」

スメルの意見はもっともだが、そこで私は果実を取り出す。

「コレはね認識阻害の魔法スキルの実だよ、コレを食べてコッソリやれば見つからずにやれると思うの。」

と答えると皆納得。すぐに果実を食べた後、体に馴染むまで薬の素材を採取しに森に向かった。

薬師のスキルでかなり色々な薬を作ることができた私達は手分けして兵舎に忍び込み薬を混入することにした。


その頃デオルダン国王軍兵舎では獣人王国への侵攻の準備がキューピッチで行われていた。


「侵攻軍の食糧は何処に運べばいいんだ?」

兵站を行う兵士に商人が持ち込んだ食糧の馬車を運び込んだ兵士が尋ねる。

「それなら31番と書かれた倉庫に入れてくれ、明日朝には積み込むので馬車ごと馬を外して置いてくれよ。」

「分かった。」

という会話をすぐそばで女神の五指のメンバーが聞いていたが、その場の兵士は誰も気づかない。

『この認識阻害すごい効き目だな。』

『ええそうね、誰も気づかないからおかしな気分だわ。』

『おい早く仕事を済ませるぞ、次は司令官クラスの食糧庫を狙うぞ。』

そんな会話をしながら5人は食料や飲み水に薬を混入させて行く。



ー 侵攻軍司令部待機室


「今回の総大将は将軍がされるのですね。」

「ああそうだ、国王様がかなり苛立たれているからな。失敗は許されない、皆心してことに当たってくれ。」

総大将の将軍がそういうと、指揮官達が各々の天幕に引き下がる。

「明日には出撃か」

何か心に引っ掛かるものはあるものの、将軍は気持ちを引きしてて自室に戻った。


その姿をそばで見ていた6つの目、そうセシル達だ。

「ご主人、今のうちに司令官クラスを倒しておけば解決するのでは?」

タロウがそう呟く

「いいえそれはダメです、次の人に変わるだけで決め手になりません。この小箱を馬車の荷物に紛れさせてください。」

と2人に指示するとクロが

「これは?」

と聞く

「コレはね、時限魔法と爆裂魔法を合わせた魔道具が入っているの、コレを私の魔力で起爆させるのよ。誰もいないのに勝手に襲われて荷物を失うの、怖くなるのに違いないわ。」

と私は少しばかり悪い顔を見せた。



ー デオルダン国王軍出陣


10万という大軍が移動するのだ、出発だけでもかなり時間がかかる。

指揮官達はそれぞれの隊の中央付近に将軍はかなり後方に陣取り移動している。

ここから獣王の国まではこの速度では15〜20日かかるだろう。


5日目、早朝に荷馬車が10台吹き飛んだ。

近くに野営していた兵士も巻き込まれた様だ、怪我人も少なく無い数だ。

しかし犯人らしき者の姿は誰も見ていない。


6日目ごろから兵隊達が身体の不調を訴え出した。

食料が傷んでいたのかと思い指揮官達は

「傷んだ物は口にするな」

と指示を与えていたが、昼過ぎ頃から指揮官達にも体調不良者が現れ始めた。

「なんだと!症状は色々あるが同じ食事をした者が同時に不調を訴えているだと。不審な者は見ていないのか?」

「はい将軍閣下、怪しいものを始め食糧庫に近づく者すらいなかった様です。」

「それなら出発前にか?出来るだけ吟味して調理する様指示せよ。」

と命じると思案顔になっていた。


8日目、体調不良の兵士がほぼ半数に至った、コレでは行軍は不可能である。

将軍は兵士をここで二つに分けることにした、一つは体調に問題ない部隊を引き連れこのまま侵攻する。

残りは体調を整えてから再出発することさらに危険性のない食料を用意し直すことと。


9日目以降は行軍速度は上がったものの、時より昼夜を問わず荷馬車が爆発するのだ。

爆発により荷がダメになる付近の者が怪我する、夜気が気でなく寝られない。

こんな日が5日ほど続くと、兵士たちは士気が下がり体調を崩し出す。

その頃私達は認識阻害の魔法を使いまた薬を投げ込み出したのだ。


15日目、獣人王国を目の前にしてとうとう兵士たちは前に進むことができなくなった。


「これは不味い、後続の兵はまだ来ないのか?」

将軍が尋ねるが良い答えは返っていない。

「こんな時に獣人に攻撃されでもすればひとたまりもないぞ!見張りは十分に出しておけ。」

と指示するとすぐに

「獣人軍の目撃情報です!約1000人の獣人が国境付近に現れたとの報告です。」

「越境する様子はどうだ?」

「それについては今のところ不明とのことです。」

「分かった逐一報告するように伝えよ。」

『こんな時になんて間が悪い。』将軍は頭を抱えたくなった。



ー 国境の獣人軍 side



「伝令からの報告です。使徒様の予言の通り敵デオルダン国王軍は数をかなり減らして到着の模様。その士気低く体調不良が見られるとの報告です。」

「分かった引き続き見張れと伝えよ。」

現獣王のタイガーは、物足りなさを感じていた。

「何故使徒様はあれほど強いのにこの様な手を使うのか?俺にはさっぱり理解できん!」

とぼやくと補佐役の獣人が

「獣王様、使徒様方は邪神を倒しに来られたのであって、女神の子供らを殺しに来たのではないのですよ。アイツらは我々を差別し苦しめようとしますが、使徒様は等しく助けているだけでしょう。しかしその思いが通じないものには神の怒りの如きの裁きを下すそうです。」

ととりなす言葉に

「それは分かっているのだ、しかし・・いや良い。」

と言葉を飲み込んだ。


これから先、獣人王国とデオルダン国王が戦うのは避けられないのだから。

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