『旅立ちの杯(二)』
掌門の
「ん……?」
永蓮の墓の前に見知った顔が見え、成虎は手を上げた。
「よう」
「…………」
酒壺を持った
「
「
「そうかい。しっかり稽古つけてやりな」
「成虎、お前も弟子を取ってみたらどうだ?」
「ああ? 急になんでえ?」
「弟子を持つと逆に教わることも多い。必ずお前自身の成長にもなる」
「そいつぁなによりだが、俺ぁまだ
成虎は南の方角へ顔を向けた。
「今の俺にゃあ、やらなけりゃあいけねえことがある」
「……行くのか?」
「ああ、南で妖怪が暴れてる
笑って答えると成虎は墓の前に
「出発する前に
「そうするだろうと思って待っていた」
将角は懐から杯を三つ取り出し酒を注いでいく。一つを墓前に供えると、一つを成虎へ向けた。
「お前の幸運を祈る杯だ。受けてくれるか?」
「オイオイ、誰に向かって言ってんだい?」
成虎は杯を受け取ると、何かを思い出したように笑った。
「————そういやあ、おめえと初めて会った時も
「……そうだったな。あの時は邪魔が入ったが、あのまま続けていれば俺が勝っていただろうな」
「抜かしやがれ。おめえあの時、
「そんなことはない。お前こそ眼がトロンとしていたぞ」
思い出話に花を咲かせた二人は顔を見合わせ笑い合う。
「————おめえとツルんでた時は面白かったなあ。デケエ狐の妖怪を協力してぶっ倒したり、彩族のオッサンと朝まで飲み明かしたりよう」
「そうだな……」
一瞬、寂しそうに眼を伏せた将角は意を決したように杯を掲げた。
「武術ではお前に
「ああ、俺の懐にゃあデカ過ぎる称号だ。是非そうしてくれや、将角」
応えるように成虎が杯を掲げると、二人は交互に口上を述べる。
「ヤンチャな
「もう一人の
『————乾杯‼︎』
二人は同時に杯を干すと、勢いよく地面に投げつけ割り合った。正式な契りは交わしていなかったものの、二人は互いを義兄弟と捉えていたのである。
口元を拭った成虎は永蓮の墓へ顔を向ける。
(……それじゃあ行ってくるぜ、周姉さん)
それきり成虎は声を掛けることも振り返ることもなく、まるで散歩にでも行くような足取りで去っていってしまった。
「————周師妹、天からアイツを見守っていてくれ」
去りゆく義弟を眼で追うこともなく、将角は天を仰ぎ見た。
————桃源郷を出た成虎はようやく振り返った。
(……ここに来た時の俺は図体ばかりデケエだけの
桃源郷で過ごした日々は十年にも満たないものだったが、様々な経験を経て武術の腕だけでなく、
(————見てやがれ、生まれ変わった
不敵な笑みを浮かべた成虎は、馬の腹を蹴って颯爽と駆け出した。
———— 第十章に続く ————
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