【完結】暴虎外伝

知己

序章

 ————その老人は男に語り掛ける。

 

『……この先の道は文字通り、あなたの人生の分かれ道になっております』

 

 老人は右側の道を指し示す。

 

『右の道を進むと、あなたは残りの人生を平穏無事に送ることが出来ます。ただし、それは永遠の凪をくが如き航海です。一切の嵐も無い代わりに、一切の感動や喜びも無い、無味無臭とも言える人生となりましょう』

 

 続いて、老人は左側の道を指し示し、

 

『左の道を進めば、あなたは大切なものを失います。あなた自身の身体からだを損なうこともあるやも知れません。しかし、その代わりにあなたはかけがえの無いものを手に入れ、その乾いた心は満たされることでしょう』

 

 ここまで話すと、老人は道のかたわらへと身を避けた。

 

『……さあ、引き返すことは叶いません。苦しみも喜びも無い穏やかな人生か、大切な何かを失う代わりに大切な何かを手に入れる激動の人生か。お好きな方へ進みなされ』

 

 老人の問い掛けに男はしばしの沈黙の後、口を開く。

 

『……俺は————』

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