第11話 理玖君の『欲しいモノ』
「おい、見えたか?」
私が静かになったからだろう、レラが問いかけてくる。その言葉に、こくん、と
「それで? 何だったの?」
と、ワッカが聞いてきた。待ちきれない、といった雰囲気だ。フミも「早く教えてください」とそわそわしている。
「うん、あのね」
そう口を開いたけど、本当にあれで合ってたのかな、と私は自信がない。
「おい、もったいぶんな。何だったんだよ」
まごついていると、レラに肩を
「あ、あの積み木を高くきれいに積みたいって」
恐る恐る言う。
もしかしたら、メガネの使い方を間違えたのかもしれない。
ちら、と三人を見ると、何やらぽかんとした顔をしている。
やっぱりそうだ! めっちゃ呆れてる! こいつ何言ってんだ、って顔してる!
何よぉ、ルミ君の言うこと聞いてりゃ大丈夫なんて嘘じゃん! それ以前の問題だよ! 私、プレゼント見る才能ないのかも! プレゼント見る才能って何!?
「やっぱ見間違いかも! もっかい見てみる!」
くるりと回れ右をして、窓枠に手をかけ、「レラ、もっかい! もっかい持ち上げて!」と小声で催促すると、レラの手は私の両脇ではなく、ぽん、と頭の上に乗った。
「落ち着けチビ」
「だって! あんなのプレゼントなわけないもん! 私きっと見間違えたんだもん! あと、チビじゃない! とっ、届かないけど!」
「届かないならチビだろ。ていうか、見間違いなわけない。ちゃんとそのメガネで見たんだから。あと、少し声抑えろ」
「だって、積み木だよ!? そんなわけ――むぐっ!?」
必死にそう話していると、急に口を押さえられた。今度は何!? と噛みつこうとしたところで、頭の上の窓が開く。
「誰かいるの?」
たぶん理玖君のお母さんだろう、窓から身を乗り出して辺りを見回している。見つかっちゃった!? と思わず身をすくめてから、私達の姿は見えていないことを思い出す。
変ねぇ、と呟いて窓が閉まり、私はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「……びっくりしたぁ」
「だから落ち着けって言ったんだ」
レラもその場に腰を落として、深く深くため息をつく。ワッカとフミがまぁまぁと言いながら、私の頭をなでてくれた。
「花ちゃん、びっくりしたよね」
「うん、まさか窓が開くなんて」
「それもそうだけど、プレゼントがさ」
「え、あ、うん」
「レディ、あれは間違いなんかじゃありませんよ」
「そうなの?」
「そうです。あれくらいの年の子にはよくあることですし、それに――」
「大人でも案外そういうのばっかりだったりするからね?」
「そうなの!?」
またしてもちょっと大きめの声が出てしまい、「お前はまた!」とレラに
「あのなぁ、よく考えてみろって。対象者は、自分がサンタのプレゼントに当たったなんて知らないんだぞ? 四六時中、あれが欲しいこれが欲しいって、頭の中に欲しい物を思い浮かべてると思うか?」
「言われてみれば」
「それよりは、『あー、もっと寝てたいなー』とか、『そろそろ髪型変えたいなぁ』とかさぁ」
「『買ったばかりのゲームしたいなぁ』とか『ケーキを思いっきり食べたいなぁ』とか、そういうのが大半だと思いません?」
「た、たしかに」
「もちろん中には『宝くじを当てて大金持ちになりたい』とか『家の庭から石油が出てこないかな』っていうのもあったけどね」
「言われてみれば、前にそんなのがあったって昨日レラに聞いたかも」
そう言うと、「ハァ? 昨日の夜って何?」、「
「ま、そこは後でじーっくり問いつめるとして、まずは仕事仕事」
とワッカが言うと、それが合図にでもなっていたのか、三人はすっくと立ち上がった。そして、私に向かって手を差し出す。
「頑張ろ、花ちゃん。理玖君にプレゼントを渡さなくちゃ」
「ルミに聞いてみろ。ぴったりの道具を出してくれるぞ」
「お手をどうぞ、レディ」
三人の手に支えられて、立ち上がる。
「わかった!」
言われてみればたしかにそうだ。私は、プレゼントといえば、やっぱり形のあるものイメージしてしまうけど、それにしたって一日中欲しい欲しいと考えているわけではない。このメガネは、その時に思っている『欲しいモノ』を見るためのものなのだ。
そんなの時間が経てば変わっちゃうって? そうかもしれないけど、一度は『欲しい』と思ったものだし、それに、もらう側はまさかそれがもらえるとは思っていないのである。多少ズレても問題ないんだろう。
ただ、あんまりズレすぎると良くないとは思う。もしかして、売り上げの『良し悪し』ってそこに関係あるんじゃないかな、っていうのが私の予想だ。
「ルミ君、お願いします」
祈りを込めて、ルミ君の背中にプレゼントを入力する。積み木を高くきれいに積みたい。それが理玖君の『いま欲しいもの』なのだ。
『プレゼントを、確認しまシタ。最適な道具ヲ、支給しマス』
ルミ君のまんまる目玉がチカチカと点滅し、ピピッと鳴った。カチ、と音がして、その道具は十秒も経たずにお腹のドアから出てきた。どこからどう見ても、おもちゃの――マジックハンドだ。先っちょに小さな手がついてて、持ち手のところをぎゅっと握ると、その手が開いたり閉じたりするやつ。
「えっ、これ……?」
「おっ、やっぱりこれが出たか」
「『かゆいところにハンド』だね」
「まぁ、これでしょうね」
「これ、『かゆいところにハンド』っていうの? 名前ダサッ」
持ち手をカシャカシャと握ると、それに合わせて先っちょに付いてる手がグーパーする。嘘でしょ、これ? ていうか、名前! かゆいところに使うやつなの? それって『孫の手』って言わない?
「さぁ、ここからだぞ、チビ。気合い入れろ」
「う、うん。でも待って。ほんとにこれ? これで何するわけ?」
「理玖君の欲しいものは何でしたっけ?」
「あ、あの積み木を高く積むこと」
「そうだね。でもほら、理玖君はまだ丁寧に積むことができないんだよ。積み木を真上に乗せられてないんだ。だからだんだんバランスが悪くなっていって――」
「ぐらり、がしゃーん、と」
「それはわかるけど……。えっ、それで私がこれで何をするわけ?」
まさかと思うけど、私がこれでお手伝いする、とかじゃないよね?!
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