第6話 毎日サンタの『プレゼント配達』

「へ? 違うの?」


 その言葉に、こくり、と頷くと、白いおヒゲが、もふ、と揺れる。


「えっ、どの辺が違うの? あっ、月曜日とか? 月曜に買って、月曜にお届けってこと?」


 そうだよね、食べ物の可能性もあるし、と一人で納得し、うんうんと首を振っていると――、


「それもちょっと違うっていうか」


 と、アドじいは首を傾げる。


「プレゼントは、当日、わからないんだ。だから先に用意しておけないんだよ」

「……はい? え? だって、何か色々調べるんでしょ? そこで欲しいものがわかるんじゃないの? だってサンタからのプレゼントって普通、サプライズじゃん。会っちゃ駄目でしょ!」

「大丈夫、姿は見せないから」

「え? ええ?」


 ちょっともー、正直わけがわからないんだけど?!

 じゃあ何のために色々調べるの? それでプレゼントを選ぶってことじゃないの? それなのにプレゼントは当日本人に会わないとわからないとか言うし、でも姿は見せないし? 


「ノンノ、落ち着いて落ち着いて。あのね、さっき言った、部活とか家族構成を調べる、なんていうのは、その人のことをよく知ることがとても大事だとウッキが思ってるからなんだ。だってウッキは毎週、初めて会う人にプレゼントを配達するわけじゃない? 一度も会ったことのない、全く知らない人に」

「たしかにそうだね」

「ウッキはね、たしかに『仕事で』プレゼントを届けているんだけど、そうじゃなくて、なんていうのかな、もっと心の通ったプレゼントにしたいんだ。大切な人に贈る時みたいにね。その人にはウッキ達の姿は見えないし、そこまで伝わらないかもしれないから、ただの自己満足なんだけど」


 そんなことを言って、恥ずかしそうに、えへへと笑う。本当に『なんとなく』だけど、なんかわかる気がする。その人とはたしかにその場限りなんだけど、少しでも近づきたい、みたいな。


「それでね、何が欲しいかを見るための道具があるから、それを使ってプレゼントを探るんだ。だけど、ある程度近づかないと見えなくってね」


 ほら、ウッキ、もう老眼だから、と言って、ふぉっふぉと笑う。便利なサンタ道具でも老眼はどうにもならないの!?


「で、欲しいものが見えたら、このルミ君にお願いするの。ルミ君に、っていうか、『ESC毎日サンタ』の本社に、だね」

「すると、どうなるの?」

「ここから、出てくるんだよ」


 と言って、ルミ君のお腹を、とんとん、と突く。


「出てくる?! 結構小さいよ?! 大きいものだったらどうするの?」

「大丈夫大丈夫。どんなものでも出てくるから!」

「な、ならいいけど……」


 どうやらこの『毎日サンタ』ってやつは、私が想像していた『サンタクロース』とはだいぶ違うみたい。


 でもまぁ、一応わかった。仕組みはわかった。とにかく当日、本人に会って、欲しいものを(これもなんか変な表現だけど)、それで、あとはこのルミ君にお願いすればいいらしい。うん、まぁ不思議ではあるけど、そんな難しいことでもなさそう。

 

 こうなると気になるのは『売り上げ』だ。それと、それがどうやったらアップするのか、っていう。


 だけど、私がいきなりそんなこと聞いたらアドじいびっくりしないかな?


 そう思って、モゴモゴしていると、アドじいは、ふっさふさのおヒゲの前で、分厚い手をぱん、と鳴らした。


「というわけで、明後日から練習をしてみようか」

「……へ? 練習?」

「そう! サンタの仕事を手伝うためには、研修ってことで、配達の練習をしないといけないんだ。ウッキの孫ちゃんでも特別扱いはできないからね」

「なるほど。でもここは月曜日営業所なのに、他の日に配達してもいいの?」

「大丈夫! 島内に、研修用のシミュレーション施設があるんだよ」

「そんなのあるんだ」

「ふっふ~、あるんだよぉ」


 アドじいは、ルミ君の胴体についている三つのボタンの一番下を長押しした。ピー、という音が鳴って、まんまる目玉が赤く光る。


「よし、研修モードにタイマーをセットしたからね、これで明後日のお昼にここから紙が出てくるから、明後日いっぱい使って色々調べてごらん。それで、明々後日しあさっての土曜に配達シミュレーションだよ」


 おー! と拳を振り上げるのに釣られて、私もそれにならった。良かった、アドじいすごく楽しそう。この調子ならきっと、今年いっぱいでここを閉めるとか、サンタ辞めちゃうとか、考え直してくれるよね!?



 それで、いよいよ研修スタートの金曜日。


「さぁ、いよいよだぞ。しっかりやれよ。大丈夫、俺がついてる」


 と、何やら私より緊張しているようなレラが、私の両肩をがしっとつかむ。そんなに心配しなくても大丈夫だってば。だって配達は明日でしょ? 今日は何か色々調べるだけの日だもん。


「レラ心配しすぎ。だぁーいじょうぶ、私にはこの『ルミ君』がついてる!」


 じゃじゃーん! とアドじいから借りたルミウッコの『ルミ君(研修モード)』を高々と掲げる。ちなみにこれは私専用のやつだ。私専用の、というか、予備のやつらしい。


 アドじいは言ってたのだ。


「とにかく、一から十までこのルミ君が教えてくれるからね。ルミ君の指示通りにやれば大丈夫。どうしてもわからない時は、右の眉毛を押して。ウッキに繋がるから」


 と。


 という言葉からもわかる通り、アドじい先輩サンタがぴったり隣についてくれるというわけではないみたい。他の営業所のことはわからないけど、基本的にサンタは人手不足なのだ。つきっきりで研修していたら、他の仕事ができないのである。というわけで、研修中の私の相棒は、このルミウッコの『ルミ君』と、それからトナカイ達だ。

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