第30話 危機を目の前に

「まったく……人が話しているときに攻撃してくるのは無粋かね、君」


 見切られたことで男性は急ぎ距離をとると心現術イマジンの詠唱を始めた。


「しかし君の付けているその指輪、破滅的でなかなかいいデザインだね。こうしたら面白いモノが生まれそうかね」


 男の様子を余裕の笑みで眺めつつ、ダ・ヴィンチはニヤリと笑う。


 その顔を見て、男性は不穏なものを感じとったのか、自身の中指に視線を落とすと、指輪に真っ黒な絵の具が塗られてるのに気づいた。直後、


「うわっ! なっ、なんだこれ!?」


 絵の具が黒い光を放ち風船のように膨らむと、目の前に男性と同じ姿をした男が現れた。


「ドッペルゲンガー!?」


 リクはその正体を、男性の姿を映しとった空想妖魔ファンビルだと見抜くが、助けようにも距離のせいで間に合わず。


「うっ……うわあああああああああああ!!」


 慌てて離脱しようとする男性の腕を、ドッペルゲンガーはニヤリと笑いながら右手で掴むと、左腕を鋭利な刃物へと変化させ一気に突き刺し、男性の背中から黒い刃を覗かせた。


「──ッ!? アキラ!」


 仲間だろうか、男性が刺された姿を見て、巫女風の黒髪女性が悲痛な声を上げ、急ぎ男性に飛び寄っていく。


「早く抜け! SPが無くなっちまうぞ!」


 〝あのままではヤバい〟と、リクが大声で警告を発する。


 SPは、幽霊の生命力を数値化したものだ。


 青いバーで表示され、普通は一撃受けるごとにバーが減っていくが、攻撃を受け続けている間は継続的にダメージを負ってしまう。


 そしてSPがゼロになったら……


 切迫した事態に、男性は必死に相手の腕を引き抜こうと足掻くが、よほど力が強いのかドッペルゲンガーは少しも離れず、むしろ刃をより深く突き刺していく。


「アキラから離れて!」


 仲間の女性が手にした短刀を振り下ろし救出を試みる。しかしドッペルゲンガーは自分がダメージを負うのも厭わず、体で攻撃を受け止めた。


「お願い、離れて! 離れてよ!!」


 仲間を奪い返そうと、女性は何度も短刀で空想妖魔ファンビルを切り刻むが、相手は男性の代わりに気味の悪い笑みを女性に返した。


「くそっ、レベル差がありすぎるのか。ユイト!」

「わかってる」


 手詰まりになっている二人を助けようと、リクの指示に従いユイトが両手を前へ突き出す。

 すると、ドッペルゲンガーは何かに引っ張られるように、後ろへグンッと弾き飛ばされると近くのビルにぶつかった。


「アキラ!」

「ちくしょう……」


 ユイトの念動力によって助けられた男性は、女性と一緒に地面に下りて刺されていた胸の辺りを押さえる。

 相手が遠くにいてSPがどれくらい残っているかリクにはわからなかったが、なんとかこれ以上のダメージは防ぐことができた。


「よし、ギリギリ間に合っ……」


 安心して両手を下ろしたユイトの言葉がふいに途切れる。


「おいっ嘘だろ!?」

「えっ? いや、やめて! 止まってよ!」


 その視線の先で、足元から男性の石化が始まった。


「畜生、遅かったか」


 自分の指示出しが遅れたことをリクは歯噛む。だが無常にも、石化は止まることを知らないように進行していく。


「そうだこれで……くそっ駄目だ。嫌だ! お願いだ、誰か助けてくれ!」

「リバイブ! ……ねえなんで止まらないのよ! アキラ! アキラ!!」


 なんとかしようと二人は回復アイテムを使ったり、回復の心現術イマジンを発動させたりしてみるが、男性の体は胸辺りまで硬くなっていき。


「誰か助……け……」


 やがて口まで閉ざされると、一気に頭頂部まで石となり動かなくなった。


「アキラ……」


 石像と化した仲間を前に、女性は膝をつく。その姿は、愛する人を失った絶望に苛まれているように見えた。


「──危ない!」


 そこに体勢を戻したドッペルゲンガーが迫り、女性の頭に向かって剣先を伸ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る