第14話 岐路の紋章
「俺の前にあの画面が出たのも運命だと思う。リーダーになれる器かどうかはわかんねぇけど、自分の道は自分で決めたい。覚悟もできてる」
選択肢によって運命が変わるとウルマは言った。リーダーになるということは、三人の運命も責任も背負う覚悟が必要だ。
「皆はどうするの?」
あとは仲間の意向を確認するだけと、ウルマは三人の顔を見つめる。
最終判断は〝岐路の紋章〟を刻印したリーダーに一任される。自分の運命を人に任せるというのは、普通なら強い不安や葛藤もあるだろう。
しかしほとんど間を置かず、最初に口を開いたのはアオイだった。
「リク先輩になら、私の運命預けられます。今までずっと先輩のこと見てきました。優しくて頼りがいがあって、自分の意思で物事をしっかりと選んでいける人です。だからこそ、私は先輩にリーダーになって欲しいです」
熱を帯びた想いをアオイは口にする。その姿は、一途な感情を寄せているように見えた。
「まるで告白しているみたいね」
「えっ、そっ、そんなことはっ」
微笑ましそうに見守るウルマに、アオイは一気に顔を赤く染めた。
「それを聞けて、リク君は嬉しいと思うわよ」
慌てふためく姿に、ウルマはフフッと笑いながらフォローを入れる。するとアオイは恥ずかしそうにしながら、上目遣いでリクの表情を窺った。
「アオイ、ありがとな。期待に応えられるようにちゃんとやるつもりだ。でも迷うことがあったら、アオイの意見もちゃんと聞かせてくれよな」
「は、はいっ」
期待を寄せてくれた後輩に、リクは優しい笑みを向ける。それを見て、アオイはさらに頬を赤くして両手で顔を覆った。
「私もリクがリーダーでいいわよ。考えるより体動かすほうが性に合ってるし、リーダーって柄じゃないもの」
「確かに、ミカに任せたらあっという間にピンチに陥りそうだもんね」
「ちょっと、どういう意味よ」
ジト目で睨むミカに、ユイトは悪戯っぽく口の端を上げた。
「そういうユイトはどうなのよ?」
「俺も同じかな。人を引っ張っていくっていうより、リーダーを支えるほうが好きだし」
「あー、ユイトってどちらかと言うと参謀って感じよね。味方には優しいけど、敵は笑顔で背中から刺しそうなタイプだし」
「良かったね、味方で」
「ちょっと、敵になったユイトを想像しちゃったじゃない!」
ニコッと笑うユイトに、ミカはブルッと体を震わせる。冗談混じりではあるが、本音半分、気遣い半分といったところだろう。
「皆ありがとな。俺達の柄じゃないかもしんねぇけど、家族のため友達のため、一緒に世界を救おうぜ」
そう言いながら拳を突き出すと、リクのまるで漫画の始まりのようなセリフに、
「私が一番柄じゃないですけど、皆で元の世界を取り戻しましょう」
「楽しそうよね。まぁ私達の場合、好き勝手暴れるってほうが似合ってるけど」
「退屈はしなさそうだね。俺も勇者リクについていくよ」
三人は苦笑しつつも、笑顔で拳を突き合わせた。
「全員の意見は揃ったみたいね。それじゃあリク君、左手を出してくれる?」
刻印の準備をするのか、ウルマに促されリクは左手を差し出す。
「痛みはないからリラックスしていてね」
緊張を感じとったのか、ウルマは自身の手のひらでリクの左手を上下に挟みながら微笑む。そして大きく息を吐き頷くリクの顔を見てから、静かに目を閉じて言葉を紡いだ。
「──我 運命の導き手 ウルマの名のもとに 彼の者に 岐路の証を与えん」
低く響くような声を四人が固唾を飲んで聞く。
すると短い言葉が終わってすぐにウルマの手が優しい光を帯び、呼応するようにリクの左手も淡い光を放った。
「刻印が終わったわ。これでリク君が四人パーティーのリーダーよ」
光が消えたのを確認しウルマがそっと手を離すと、隠れていた手の甲が露わになる。
「これが〝岐路の紋章〟」
そこには、文字にも絵にも見える、不思議な形の黒い紋様が刻印されていた。
「〝岐路の紋章〟がある限り、リク君には様々なクエストが発生する。けれど発生条件も内容も、達成難易度すら千差万別で、必ず鍵クエストが受けられるという保証もないわ」
いつどこで何が起きるかわからない。それこそ初手で達成不可能なレベルのクエストが発生することも考えられる。
「それでも、リク君達ならきっと大きな偉業を成してくれる。私はそう信じているわ」
そう言って微笑むウルマが幸運の女神のように見えて、リクの心には自信が湧いてきた。
「おう。絶対にその期待に応えるぜ。この〝岐路の紋章〟に誓ってな」
左手の甲を見せ、ウルマだけでなく仲間にも告げるように、リクは力強い声で宣誓する。
その瞳にはもう、迷いも恐れもなかった。
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