第49話 文化祭⑤

昨日は俺達が午前に動いていたので今回は逆で俺たちが午後に働く番である。昨日は準備時間も含めての午前だったのでそんなに長く感じなかったが今回は午後からなので仕事時間は増えるだろう。


「まぁ分かってはいたけどオムライスの注文を絶対にしたい奴がいるから、それで言い合いになる前に俺が呼ばれるよなぁ」


オムライスがないことにキレた1人の生徒がいたので俺が呼び戻された。まぁ俺が調理係に戻るだけで収まることなので断るつもりは無いがもう少し文化祭を楽しんで居たかった。


ここで働いた分午後に回らせてくれるかもしれないが1人だとので普通につまらない。義姉さんがどうかは分からないけど自分の友達と回っていることだろう。


「委員長ー、元から蒼井も調理係に入れたらダメだったの? 昨日も途中から二人でやってたし。蒼井は4人でまわってるけどさ、午後になったら多分昨日と同じく蒼井と二人でやることになるけど?」


「蒼井さんが料理上手いなんて知らなかったし、元々メイドにするっていう声が多かったからねー。まぁ午後からは2人でしてもいいよ」


とりあえず俺が呼び出された原因であるあの生徒は他のところへ行ったがまたああいう生徒が来るか分からないので俺もしばらく居続けることにした。俺からしたらこの友達が誰一人いないこの空間は結構居心地が悪い、話したことがあるのは委員長だけだ。


しばらくオムライスを作り続けて少しの休憩時間に奏音から連絡が来ているのに気づいて見てみたが『付き合ってください』の一言が俺の目に入った。


『急にどうしたんだ、一応振りはずだったんじゃないの?』


『そうだけど、一緒に過ごしてくうちに白神くんの色んなところに惹かれちゃってねぇ。本当なら文化祭が終わったあとにするつもりだったけど早めにしといた方がいいと思ったんだよねぇ』


『そうなんだ、嬉しい言葉だけど返事はNo、俺には好きな人がいるんだ。それに俺と居たら危険だよ?』


『大丈夫』


『言葉だけならどうとでも言えるよね』


俺と一緒にいたらこれから先、面倒なことに巻き込まれるのは間違いないし、奏音が傷つく可能性だってあるしそもそもとして一緒にいられなくなるかもしれないんだから。


『まぁその答えはだいたい予想出来たけどねぇ。だから告白はここまでにしておいて、問題が解決したし前言ってたお礼をしたいんだけどいつが空いてる?』


『断られたのに切り替えすごいね……。それは置いておいて、俺の予定は白紙だよ』


その後は奏音と一緒に出かける日を決めて、仕事を再開した。



※※※



僕はトイレに行くと言って人気のない場所までやってきた。


「あはは……やっぱり振られちゃうよねぇ、わかってたことだけど……実際振られると結構虚しいんだねぇ」


こんな感じだったら緋月くんが可哀想だから切り替えをしないといけない、あの提案をしたのは僕なんだから落ち込んでたらダメだねぇ。おかしな話だとは思う、でも僕があの提案をしたのは告白が失敗した後に慰めてくれる人が欲しかったのかもしれない。


慰め役を緋月くんに押し付けるのは自分勝手かもしれないけど緋月くんなら慰めてくれるだろうし、気も合う。僕はそれも含めて告白が失敗したら緋月くんと付き合う、そんな約束をしたのかもしれない。


「やっぱりダメだったんだね」


「っ! なんだ緋月くんか驚かさないでよぉ。その通り僕は失敗した、だけど告白しないでいるよりはマシだった。それでこれで正式に付き合うことになったねぇ」


「それはそうだけど、付き合ったとしても告白して直ぐに別の人と付き合ったなんて奏音の印象が悪くなるからしばらくは友達として振る舞うからね」


まぁ自分の好きだった人に告白してすぐに別の人の彼女になったなんて絶対に印象が悪くなるだろうねぇ。それを考えたら仕方ないことなのかもしれないけどやっぱりカップル見たく振舞って見たい気持ちはある。


告白したことは白神くんと緋月くんにしか知られてないし、白神くんなら他の誰かにバラすようなこともないし今僕がここで『さっきのことは全て忘れてね』と送って送信を取り消ししたら全てが終わる話かもしれない。


『白神くん、さっきのことは全部忘れてね。感じは悪いかもしれないけど僕は緋月くんと付き合う事になったんだぁ』


『そうなんだ、緋月は告白出来なかったって言ってたけど……。なるほど奏音が俺に告白するから緋月は告白してないって言ったのか、まぁ俺は感じは悪いとは思わないし2人が付き合ったなら素直におめでとうって言っておくよ』


やっぱり白神くんは優しいなぁ、普通なら怒られてもおかしくないことを僕はしているのに祝福してくれるなんてね。


「白神は自分のことより他人の方が大事だと思ってるからね。素直に祝福してくれてるんだよ」


「普通なら最低な事だと思うんだけどなぁ、やっぱり白神くんはよく分からないや。向こうも告白成功するといいねぇ」


白神くんが言っていた好きな人は絶対に蒼井さんだし、蒼井さんが好きな人も白神くんだ。両片思いの状態で2人のどちらが先に告白するか分からないが白神くんは自分からしたそうだ。


「まぁとりあえず戻ろうか、もうすぐ午後だからさ。白神は午前からやってるらしいけど」


「うわぁ可哀想だねぇ。まともに回れたの昨日の午後だけじゃん」


僕たちふたりが戻ると、白神くんは「おめでとう」と僕たちにしか聞こえない声で言った。


「良かったな緋月、成功して。緋月の好きな奏音から告白されて俺は焦ったけど、2人が付き合えたなら結果的には良かっただろ?」


「ごめんねぇ、変なことして」


「大丈夫だって、俺はどうも思わないからさ。次は俺の番かなぁ……」


白神くんは蒼井さんのことを見つめながらそう呟いた。

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