第47話 文化祭③

俺たちは女子に聞かれないように絶妙な距離を開けながら後ろについて行っていた。まぁ恋バナを聞かれる訳にはちかないのでもっと離れてもいいかも知らないが見失ったら大変なので仕方なく中途半端なこの距離、耳が良ければ聞こえそうだ。


「俺が好きなのは蒼井ってことはバレてるから一旦後でいいだろ。緋月はどうなんだ、やっぱり緋月も蒼井か?」


「蒼井さんはとても魅力的だと思うけど、僕が好きなのは奏音さんだよ。ボクっ娘で守ってあげたいと思えるんだよね」


守りたくなると言えば紅葉もだと思うがまぁ俺からしたら知り合い全員守る対象に入ると思う。


「緋月は告白したりするのか?」


「僕はね……まだいつやるかは決まってないけど今年中にしようとは思ってる」


「早めにしといた方がいいぞ、奏音は結構人気だし待っていたら誰かに取られてるかもしれないから。告白せずに後悔するよりも告白して振られた方が清々しいくてやりきった感があるでしょ? 俺だったら無理だとわかっていても告白はしてみるかな」


俺だったら断然前者だ、振られて落ち込む方が告白せずに後悔する方が良い。まぁ蒼井に告白できずにいる俺が言えたことでは無いか。


告白するのには勇気がいる、相手が自分より圧倒的に秀でている人間だとして告白するのは無謀というのは違うと思う。どんな相手だって勇気を出して告白すればその瞬間立場は同じになるんだから。


「僕は断然前者だね、いっそ告白して振られた方が清々しい。まぁ断られることはわかってるけど1回告白してようかな」


「別に断られると決まったわけじゃないだろ? 告白する前からそんなネガティブに考えるなって、失敗しても俺が慰めてやるからさ」


「両思いのやつに慰められても嬉しくないなぁ!」


ここで恋バナは終わって女子たちの中に入った。緋月は頑張って奏音の隣に立って歩いているので俺も蒼井の隣に立って歩くといってもよくあることなので別に恥ずかしいとは思わない。


俺は目線で隣にいる緋月に勇気を出せ! と伝える。


「ねぇ奏音さん、ちょっとこっちに来てくれないかな? 2人で回りたいところがあって……さ」


「んー急にどうしたのぉ? 別にいいけどねぇー。それじゃあ一旦またねぇ」


緋月は相当な勇気を出して自分から2人きりになることを切り出した。多分俺にはできないし本当に尊敬したい。


「緋月くんどうしたのかなぁ?」


「あぁ、さっき相談をうけてたんだ。緋月が居なくなったし言うけど緋月の好きな人は奏音で今から告白するつもりだと思うよ。俺もそんな勇気が欲しいよ」


「吹雪くんは誰か告白したい人でもいるの?」


「あーうん、でもしたくてもできない、俺にそんな勇気はまだないから」


本当に告白したい相手が目の前にいるって言うのに告白する勇気がなくて出来ないのは今まで生きてきた中で1番の悩みだな。



※※※



僕は奏音さんを誘うことには成功したものの……今までにないくらいに緊張してきた。


「緋月くん、ボーッとしてたら危ないよぉ? それで急に僕と2人きりになりたいだなんて、告白なのかなぁ?」


「……そ、そうだよ」


「冗談のつもりだったんだけどなぁー。これは予想外だねぇ、とりあえずここじゃ色んな人に聞かれちゃうから場所を移動しようかぁ」


僕は奏音さんと一緒に学校の屋上という告白の定番のような場所に来た。


「僕は奏音さんが白神のことを好きなことは知っている。でも僕は白神に言われたんだよ告白せずに後悔するより告白して振られた方が清々しいだろって」


「白神くんが言いそうな言葉だねぇ。僕も今日白神くんに告白しようと思ってた、だけど白神くんは蒼井さんのことが好きだから諦めかけてたけど、僕も言われたんだよ緋月くんと同じことをねぇ」


2人の置かれてる状況は同じ、自分が好きな人に好きな人がいてその人の方が自分より圧倒的に秀でていて自分の告白なんか断られると思っている状態。でもお互いに吹雪から同じ助言を貰って緋月は現在進行形だが2人とも告白しようとしていたのだ。


「僕たち似たもの同士だねぇ。僕も文化祭が終わったあとに告白するつもりなんだけどさ、それが終わってもし断られたとしたら付き合おうよ、緋月くんとは気が合いそうだしねぇ」


「モヤモヤするなぁ……。だってもし断られなかったらそういうことでしょ?」


「大丈夫だよ、僕も緋月くんと同じでOKされるなんて思っていないからねぇ。白神くんに言われた通り1回告白してみるだけだよぉ」


アドバイスを貰った相手に告白するなんて面白い話だと思う。まぁ今のこの約束も充分おかしいか、振られることが分かっていて振られたら付き合ってあげるっていうのは。


「よく考えたら僕と奏音さんが付き合って、白神と蒼井さんが付き合ったら紅葉さんだけ1人にならない?」


「それは大丈夫だと思うよぉ? だって紅葉は僕と蒼井さんじゃ絶対に取ることのできない妹的ポジションにいるからねぇ。それも同棲してた故のことだからさぁ」


白神と紅葉さんが同棲していた話なんて初めて聞いたが紅葉さんと幼なじみの奏音さんが大丈夫と言ってるなら大丈夫なのだろう。まぁ妹ポジションって彼女とかとは別の特別さがある気がするし。


「僕と緋月くんはもう付き合ったようなものだねぇ。どうせなら3人には明かさずに反応を楽しもうよ、そっちの方が面白そうだよねぇ」


「はは、白神にこのことを相談したから見たら直ぐに気づくと思うけどね。とりあえずもう戻ろうか、告白頑張ってね奏音」


「断れるってわかってるけど頑張るねぇ、緋月くん」


まだ不確定ではあるが吹雪が蒼井を好きである以上はこのカップルが成立することだろう。


───次は吹雪の番

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