第44話 奏音が秘めた思い

白神くんの実家から帰ってきて僕は自分の思いに気づいてくれるのか気になって仕方がなかった。


最初は付き合うつもりなんてないって、そうみんなに言ってたけど白神くんと話して、屋上での言ったあのことを手伝ってもらって……。


今でもあの人は諦めてくれていない、もういっそ誰かと僕が付き合わないと収まらない、そう思えてきてしまうんだ。だけど付き合うのが誰でも言って訳じゃない、ただ白神くん、白神くんならフリじゃなくそのまま本当に付き合っていいと思ってる。


白神くんは優しくて、自分のことより相手のことを優先してくれる女子からしたら理想のような人。正直誰が好みかって聞いて僕って答えられた時は心臓がバクバクだった。


「恋になんて興味なかった僕がこんな思いをするなんてねぇ……。本当に責任を取って欲しいくらいだよ、まぁ負け戦なんてことはわかってるんだけどねぇ……」


白神くんのことを好きな人、それに既に想いを伝えたあとの蒼井さんがいる。それに……容姿だって、その他のどの分野でも僕は、蒼井さんに劣っているんだ。


白神くんならそんなこと関係ないって言ってくれるかな……。


「白神くんの考えは本当に読めないよ。誰が好きなのか、どんな人が好みなのかすらも分からない」


蒼井さん───でもそれだったら2人は既に付き合ってるだろうし、紅葉だとしても同棲していた時期があれば付き合っていてもおかしくは無いのに。


じゃあ白神くんは付き合う気は無い……? でもそれじゃあんなことは言わないか。


「これ以上考えても無駄だね。はぁ、口調が変わるのは治らないなぁ本当」


考えてしまうんだ、もし白神くんが蒼井さんや紅葉と付き合ってしまった時のことを。


「ダメだなぁ……これじゃただの束縛がすごい女の子だよぉ。もういいや、白神くんが僕を選ばなくても、2人のどちらかが幸せになってくれればそれでいいんだ」


これ以上このことを考えても無駄な思いをするだけだ。もうこの事を忘れようとしてた時に白神くんから連絡が……。


「本当、タイミングが悪いねぇ」


そう言いながらも嬉しくもある、だって好きになった人から連絡が来たんだ、嬉しくないわけがない。


送られてきたメッセージを読んで、僕はすぐに白神くんの家に走った。僕があんなことを頼んでせいで白神くんまで巻き込んでしまうことになるなんてねぇ……。


「待ってて、僕が何とかするからねぇ」



※※※



白神くんの家に着いた時、家の近くにいたのは当たり前だが白神くんと僕にずっと付きまとっているあの男子だった。


白神くんは冷静で何とか言葉だけで済まそうとしているが、相手は今すぐにでも手を挙げそうな勢いだ。


───怖い。


僕が今ここで二人の間に入ったとして助けられるのだろうか、逆に状況を悪化させてしまわないかが不安だ。


でもこのままだったら白神くんが殴られるかもしれない、そう考えた瞬間には僕の体は既に動いていた。


「やっと来てくれた、何回も付き合ってるから諦めてって言ってるでしょ? それとも愛想つかされたことにすら気づいてないのか?」


「俺よりお前の方がクズなんじゃないのか? 皆月さんという彼女がいながら蒼井さんや奏音まで誑かして……。一体世間はどっちの味方をするんだろうな」


「はぁ……それはお前の勘違いだ。確かに全員大事な人だ、だけどな俺は一言も付き合ってるなんて言ってないんだよ。噂は信じない方が身のためだぞ?」


僕は白神くんに抱きついているというか抱きつかされた。まぁ向こうは付き合ってると思ってるんだからこうでもしないとダメなのかなぁとは思うけど恥ずかしい。


それでも白神くんは平然と話を続けている。


「その2人にも聞いてみたらいいじゃん、答えは変わらないけどな。結局悪くなるのはお前なんだ、断られて時点で諦めろとは言わないが……付きまとうのはやめた方がいいんじゃないか? 付きまとうことをしなかったら友達にはなれたかもしれないのにな」


「っ……」


僕が来るまでずっと白神くんに正論を言われ続けていたのか、走ってどこか遠くへ行ってしまった。


これで終わりかと思ったけど白神くんが顔を赤らめていた。


「さすがに紅葉以外の人とこういうことするのは慣れてないな……。平然を装ってたつもりだけどさすがに無理だ」


「白神くんにも恥ずかしいって感情はあったんだねぇ? あの時みたいなことをよく言うから羞恥心なんてないかと思ってたよぉ」


「俺をなんだと思ってるの?」


蒼井さんと紅葉のメイド服姿を褒める時も表情ひとつ変えずに淡々と言っていたけど……それも演技だったってことなんだねぇ。


「可愛いところあるねぇ、とりあえず協力してくれてありがとう。約束通りどこかに連れて行ってあげるよ」


「はは、それはまた今度でいいよ。俺も奏音を助けれてよかった」


そんなことを言われたらより好きになってしまう。自分が負けヒロインだとわかっていても、伝えては行けない思いなんて無いはずだ。


文化祭が終わったあと、あの日と同じ屋上に白神くんを呼び出そう。思いを伝えるまで蒼井さんや紅葉に取られないように色々工夫しないと。

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