第29話 白神吹雪の最高で最悪な過去③
俺は生みの親の姿を見たことがない、物心着いた頃には路地裏で過ごしていた。
もうすぐ時雨家との関係を絶つという時に俺の母親を名乗る女性が俺の元へやってきた。
「義弟様、どうされます?」
「俺のお母さんは白神詩さんだから。ただ、時雨家に迷惑をかける訳にはいかないからね。俺がちゃんと話をしてくるよ」
「私たちは影から見守っておきますね」
「そうしてくれると助かる」
応接室に向かえば確かに俺と同じ銀髪の女性がいた。とりあえず色々問い詰めたいことがある。
「久しぶりね、やっと見つけた……」
「はぁ、俺は貴方様のことはご存知ないですけどね。まぁ俺が幼い頃からに路地裏で生活してることを考えたら知ってるわけないですが」
「そうね、幼い頃にいなくなって……警察に聞いても見当たらないって言うから。でもここで再会できて本当に良かった」
話にならない、さっきからこの人の発言にはおかしいことが多すぎるのだ。俺の名前は言わないし、俺は警察に引き渡されて引き取り手が見当たらなかったからこそ時雨家に居るのに警察に聞いても見当たらないわけがないのだ。
ただ、銀髪は本物だろう。たとえこの人が本当に俺の母親だとして俺を捨てた上に名前さえ覚えてないような人のところに帰るつもりは無い。
そもそもとして俺はもうすぐ一人暮らしを始める予定だし捨てたのに手のひらを返して俺を連れ戻しに来るのはどういうことだろう。
「一応書類を一緒に書いて親権がもう移ってしまってるので。貴方様が俺の本当の母親だったとしても手遅れだと思いますけど」
「そんなの関係ないわよ、私の実の子どもよ?」
救いようも無いほど自分勝手である。捨てたのはそっちで警察に俺が送り届けられた時に迎えに来なかったのに何を言っているんだ。
俺がまだ小学生とかだったら親は必要だろうが俺はもう高校生だ、自分の意思で物事を決めれるぐらいには成長している。
この人が俺に興味が無いことは既に分かりきっているがもう少し泳がせておくとしよう。この会話はずっと録音しているだから。
「あなたが居なくなってからずっと探し回ってたのよ。警察にも友達にも頼って……」
「墓穴を掘っていくのを見たかったけどもういいか。通報してもいいけど、捕まるのはどっちなんだろうね?」
俺を拾ってくれた当主さんは残念なことに亡くなってしまったので誘拐どうこうで通報しようにもこの世にいないので通報しようがない、それにこの人はさっきとんでもない暴論を言っていたので捕まるのは絶対に向こう側だろう。
「もういいわ、どうなっても知らないわよ?」
それだけ言ってこの人は帰っていったがだいたいやることなんてネットに時雨家の悪口を書くことだろう。
「本当に義弟様はこの選択でいいんですね?」
「まぁあの人が来た時から決めてたことだし。この場には俺しかいないし当主はいない、悪口を書くとしても俺の悪口しか書けないんだよ。俺は時雨家を抜けて白神さんの養子として生活していけば時雨家に影響は出ないでしょ?」
「別れは告げなくていいのですか?」
「いいよ……ちゃんと見送られたら帰ってきたくなっちゃうからね。義姉さんがいない間に俺はさっさとこの場から去るよ。また会う日があればよろしく」
俺はそう言って時雨家を出てお母さんが契約してくれた家へと向かう。その道の途中で俺と似たような人を見つけた。
それが俺と紅葉の出会いだった。
「どうしたの?」
「……」
この子は喋ろうとはしない、小さな女の子で小学生高学年くらいだろうか? 俺が言えたことじゃないがそんな子供がこんなところに一人でいるなんてどういうことだろう。
「君の都合は知らないけど、こんなところにいたら体調も崩すし……何より悪い人も来るね。無理やり連れてくつもりは無いけどさ俺は新居に行ってる途中なんだけど君も来る?」
俺の方が明らかに体格がでかいので傍から見たら俺がこの子に何かをしようとしてるようにしか見えないとは思うが放っておくわけにもいかない。
「君に信用してもらわなくていい、とりあえずここにいるのは危険だから俺の家まで着いてきてくれない? じゃあ護身用になんか渡せば着いてきてくれるかな、さすがに今は持ってないけど」
俺は後ろを振り向かずにそのまま家に向かったが幸いあの子は着いてきてくれた。
とりあえず家の中に入れて、1つの部屋を自由に使っていいと言っておいた。
「んじゃ、これ護身用の武器ね。信用できるようになるまで持ってていいし、俺のことを刺してもいいからね。あ、致命傷のとこはやめてね?」
「……恐怖心はないの?」
「ないね、ちょっと異常な生活してたら恐怖心なんてなくなるでしょ」
この子が初めて話してくれたことの喜びを隠しながらこの子と会話を続ける。
「君はなんであんなところにいたの?」
「親から逃げてきた……」
「おっけ、それ以上話さなくていいよ。そっちが良ければ俺の家で匿うからさ」
親から逃げてきたなんて余程親がヤバいことをしているのだろう。こんな幼い子に何かをするなんて腐りきってる。
「信用できるまで名前は教えなくていいからさ。俺は吹雪、まぁこれから過ごしていこうね? 他の人よりは君の気持ちは理解できるから」
それからこの子と一緒に過ごすようになって、知ったことだが俺と年は同じらしい。高一にしては小さくないかと思ったがそれはそれで可愛いだろう。
「……吹雪はさ、私と一緒にいて迷惑じゃない?」
「迷惑なんて思わないさ、もはや妹みたいに思ってるけど?」
「ん……」
一人暮らしの寂しさを紛らわせてくれるんだ歓迎しない理由がないだろう。義姉さんの連絡先も消してしまったし……。
───はぁ、義姉さんには申し訳ないことしたなぁ。
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