第19話 皆月和葉と紅葉は話し合う
土曜日。
俺は先に蒼井と紅葉の父親を家に呼んで紅葉は俺しか今の家を知らないので必然的に俺が連れてくることになった。
「吹雪くん、本当に大丈夫なの……? だって紅葉の父親って……あれなんだよね」
「大丈夫かどうかは紅葉次第だから俺は何も分からない。けど話す相手が父親って伝えても紅葉は話すつもりみたいだったからさ」
それだけで紅葉が頑張ってることはわかるが俺からしたら無理をしてるとしか思えない。だってクラスメイトの男子ですら無理なのに急に自分をあんな目に遭わせた父親と話すんだ、無理をしてると捉えてもいいだろう。
「そろそろ連れてくるけど……蒼井は二人で大丈夫?」
「俺は何もしないさ、それに何かしたら俺がムショ行きだろ? これから話し合いがあるってのにムショには行きたくないな」
この人は通報されて1度刑務所には入れられたことがあるらしい。まぁ自分の子どもに虐待してるんだから普通に犯罪なので入れられるのは当たり前だろう。
そして吹雪は紅葉を呼びに外へ出たので吹雪の家には和葉と仁愛だけが残っているが初対面なのでお互い無言でわある。
「えっとぉ……初めまして?」
「初めまして……と言いたいところだがこの話が終わればもう君とは出会うことは無いからな。挨拶しておく必要は無いだろう」
それ以上言葉が発されることなく、吹雪が紅葉を連れて帰ってきたので仁愛は玄関に向かった。
「紅葉、リビングに居るけど心の準備は大丈夫?」
「覚悟は決めたから、お父さんはもう私が知ってる昔のお父さんとは別人、だから大丈夫」
ただの自己暗示でしかないが、紅葉がそれで自分を騙せるのなら俺は口を出さない。
そして紅葉が和葉と向かい合いで座り、仁愛と吹雪は傍で見守っている。
複雑な関係の2人が久しぶりに相対して、無言の時間がしばらく流れたが先に口を開いたのは紅葉だった。
「……私に、何か用?」
その紅葉の声と体は震えていて、やっぱり男性と対面で話すのにはまだ慣れないらしい。
それでも紅葉は声を振り絞って言葉を続ける。
「私は、お父さんが許せない……けど今はもう昔のお父さんさんとは別人だから……大丈夫」
「そうか、紅葉一人暮らしをしてるんだろう? その生活費を俺が、親として払う。今までのことを考えれば軽いかもしれないがそれが今の俺にできることだ」
俺たちは何も言わずにその会話を眺めているが、紅葉は震えっぱなしで本当に大丈夫なのか心配になるがここで俺たちが介入して話を止める訳にはいかない。
「じゃあ、それでいいよ。話はそれだけ、だよね……なら連絡先だけ交換してばいばい」
「連絡先さえあれば何とかなるからな。じゃあ俺は来月から生活費を払う、銀行番号を……と言いたかったが信用出来ないか」
「ううん、大丈夫。はいこれ」
紅葉はそう言って自分の銀行番号を見せたので俺たちは後ろを数秒間向いた。
「俺はもうやる事はないな」
そう言って俺の家を立ち去ろうとするが最後に俺へ手紙と髪飾りを渡してきた。
拒否されたら俺が代わりに渡しておくと言っていたが別に拒否されてないんだから自分で渡せばよかったのに。
「紅葉さん、大丈夫? ずっと震えっぱなしだったけど」
「大丈夫だよ。用はもう無いし私、帰るね」
完全に大丈夫じゃない時の反応なので俺は紅葉が帰るのを引き止める。
「結構無理しただろ? その落ち着いてない状態で帰るのは少し危ないから落ち着くまで俺の家にいて」
「わかった」
もう話し方は元に戻っていて、体の震えも無くなっていた。
男性嫌いを克服できたかできないかで言ったら恐らくできてないだろう。それは明日学校に行った時に克服できたかできないかはっきりわかるので今はいいだろう。
「紅葉、あの人から預かってたものがあるんだけど、手を出してくれる?」
俺は紅葉の小さい手にあの人から受けとった手紙と
「紅葉のお母さんが残してたものらしいんだけど、その手紙は帰ってから読めば? 俺たちが聞くような内容じゃないと思うから」
「まぁ他人の母親の手紙を聞いても意味ないからね。じゃあ紅葉さん、一緒に帰ろう?」
蒼井がそう言うが紅葉は返事をせず、身長差があるため蒼井を見上げていた。
「前から思ってたけど……口調は普通なのになんでさん付けなの? 吹雪はくん付けなんだからさ?」
「初対面の人にはさん付けって決めてるから。でも向こうから言われたなら気にする必要ないよね〜」
俺は正直呼び方なんてどうでもいいが、まぁ堅苦しいよりフランクな方がいいのでさん付けは目上の人にしかしない。
「じゃあ私は紅葉ちゃんと一緒に帰るから……。あ、今日は吹雪くんの家でご飯食べる?」
「料理できるようにならないとだから最近は自炊するようにしてる」
料理を教えたあの日から紅葉は俺の家にご飯を食べに来ることなく自炊をしてるのでだいぶ料理ができるようになっているだろう。
「気をつけてねー」
2人が帰って1人になったので勉強を始めるがもうすぐ体育祭なので体力をつけておいた方がいいと思い、少しランニングを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます