第32話
自室のベッドが大きい理由があんまりにもだったので少し放心していたのだが、机や壁一枚占領するほどのタンスなど、その他の家具も十分に充実していたし豪奢だったので、細かく部屋の内検を始めることに。
部屋の中心を占領しているベッドの頭の方にはアトランティスを一望できるテラスへ通じるガラス張りの扉2つがあり、左の壁には大きな鏡が備え付けられた机と椅子がワンセットと大きなソファーが1つ、革張りの本が一杯に収められている本棚が、右の壁には壁面全てを覆う大きな白い木製のタンスがある。
そして総じた印象は高級感溢れる白で、汚さないか心配になってしまうほどきれいだった。
『プルゥ!(主おかえり~)』
部屋の奥の扉に近づくと、テラスでくつろいでいたらしいミナモが俺に気づいて飛び跳ねている。
「ただいまミナモ……景色すごく綺麗だね……」
『プル!(ね~)』
大きなテラスから一望するアトランティスの景観は圧倒的であった。頭に飛び乗ってきたミナモもプルプルと頷いている。
高いところから見て分かったことなのだが、空に浮かんでいる島々は自然であふれていた。
緑に溢れている島があったり、角度的に大きさは正確に分からないが湖が広がる島があったり……。
「でもあの島にどうやって行けばいいんだろ?空を飛べないと無理だよな?」
どうにかしてあの島に行けないかと試行錯誤していると首筋に誰かが息を吹きかけてきた。
「坊よ、空を飛びたいなら我を頼るが良い。我は天空の神故、坊一人空を飛ばせることなど造作もない」
「……今はいいや、明日の遠征の準備もそんなに必要ないみたいだし、アレンとウルスラのレベル上げにダンジョンいこっかな……」
冒険者ギルドからの連絡に了承を返した際、色々と準備はあちらが行ってくれると言っていたので、午後一杯暇なのだ。
「それでしたら午前中御友人達と一緒に行ったあのダンジョンに挑戦してみてはいかがで御座いますか?旦那様が良く読んでいらっしゃった小説にあるダンジョンの
確かにあのダンジョンは、階段を下りて下っていくタイプの階層型の洞窟ダンジョンで、テンプレっぽかったけど……。
「ツナミ……いつの間に俺の持ってた本読んでたの?」
「旦那様がダンジョンに潜られていたり、学校で授業を受けているときにで御座います。……旦那様の好みなどを勉強しようと思ってのことで御座いますから……ね?」
色を孕んだ瞳でツナミが俺の顔を上から覗き込んでくる。……あぁ、これ色々隠してたのもばれてそうだなぁ。
「……楽しみにしてるよツナミ。それじゃあ俺はダンジョンに行ってくるから!」
これ以上此処に留まっていると、昼間から爛れた時間を過ごしそうになったので急いでダンジョンに向かうことにする。
「あら、旦那さまったら……」
「さすがに時間も時間だ。節度は守れよ?海の……雄大はまだ幼いんだ、たとえレベルが上がってたくさんできるからといって無理をさせてはいけない」
「分かっています……しかし旦那様には地球の主たる神々の加護が揃ったので御座います。そのうち旦那様の方から積極的に求めてくださいますから……」
「それもそうだな……」
本日二度目の『勇気の洞窟』前冒険者ギルドに着いたのは、あれから三十分程経った頃だった。
そしてこのギルドは人でにぎわっているので、受付での報告をしなくていいらしい。
なので見てくれ装備に着替えたら、さっそくダンジョンへ突入し、アレンとウルスラついでに一緒にレベル上げをしたいと言っていたミナモを呼び出し、ダンジョンを攻略していく。
「アレンとウルスラ、普通に強くて俺の出番なさそうなんだけど……」
成長する式だと聞いていたので、最初はそんなに強くないんだと思っていたのだ。
しかし、ウルスラは素早い動きでモンスターを翻弄し確実に倒すスピード型で、アレンは大きな盾でモンスターの動きを止め大きな一撃を与えるパワー型で安定して強かったのだ。
俺がほめているのが分かったのかテレテレとしている二人は全身甲冑とは思えないほど可愛らしかった。
『雄くんの屋敷の門番として創り出したんだから、最初からある程度強くするのは当たり前よ』
アレンとウルスラを労ってドロップした魔石を回収していると、念話でアースお母さんが話しかけてきた。
「ありがとうアースお母さん!」
『どういたしまして、雄くん♪』
神界で暇な時間が多いというアースお母さんと念話で会話をしながら、あっという間に十階層の中ボス部屋にたどり着いた。
「この階層が竜司がユニークボスを倒した階層らしいけど、さすがに出ないか……」
【名前】未設定
【種族】サンドリザード
【Lv】15
【職業】――
【スキル】土魔法Lv3 爪強化Lv4 鱗強化Lv3
【情報】魔法で砂嵐を巻き起こし隠れて獲物を狩るトカゲ型モンスター 強靭な鱗と爪は鋼鉄を切り裂く
これが鑑定した結果だった。
薄い黄土色の鱗は、確かに砂嵐に隠れられると見つけづらくなるかもしれない。
身体は筋肉質で、人によってはドラゴンと間違えそうな風体をしている。
しかし動きは鈍重なようで、ウルスラの動きについていけずアレンにひっくり返されている。
とどめを刺していいか俺に伺いを立てるような視線を二人から感じるので、頷くと二人は剣に魔力を迸らせサンドリザードを靄に変えた。
「二人ともお疲れ様……お見事だったよ」
二人を褒めると、彼女たちは二人とも俺の前で膝をついて頭を下げる騎士のポーズをとったのだ。
『どうやら二人にはもうすでに、雄くんの騎士としての自覚が出来上がっているようね』
生まれて間もない二人にはまだ自我が薄く、子供のような式だったのだが、俺の魔力を吸収し急速に成長したので、確固とした自我が生まれたとアースお母さんから説明を受けた。
姿形自体は二人とも立派な女騎士だったのだが、中身はどうやらまだ子供だったらしい。それがこんな短時間で成長するなんて式ってすごいな。
『我が君……ウルスラは生涯の忠誠をここに誓います』
『王子!オレも生涯の忠誠を誓うぜ!』
跪いていた二人から、それぞれ念話で忠誠の誓いを受けた。
ウルスラは高貴で静かな、反対にアレンは蓮っ葉で姉御肌なイメージを思い浮かべた。
『今はまだ鎧だけの姿だけど、もっと成長すれば人の姿になれるだろうから二人とも頑張ってね』
アースお母さんは少し仕事が入ったのか、二人にそれだけ告げて念話から消えた。
……アースお母さんの助言を聞いてやる気が溢れたのか、下の階に繋がる階段へ前のめりに向かう二人の後姿を見詰めて、俺は苦笑いを浮かべるのだった。
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