第4話
記者会見が無事終了した後、いつも通りの日常を送った俺は、いつもより早くに風呂や学校の宿題を終わらせて、両親にお休みのあいさつを済ませた。
そうすれば、両親が俺の部屋にやってくることはもうないだろうから。
「やっとスライムさんとの話を進められる……待たせすぎちゃったし怒ってなきゃいいけど。……よし!お風呂で名前も考えたし、いざプライベートルームの空間へ!」
スキルの発動を念じ、海のような青い渦を発生させ、すぐさま通る。渦を通る際、分厚い魔力の膜を通った感覚がした。この魔力の感覚は、初めてゴブリンを倒した時の感覚に似ていたので、きっと俺由来の魔力ということなのだろう。
「うわぁ~」
そこは何もない絶海の孤島、と表現するのが一番適しているかもしれない。
植物の一本も生えていないそこに、ポツンと青くて丸いスライムさんが鎮座していた。
「お待たせスライムさん!長いことまたしちゃってごめんね?」
『プルプル』
謝罪の言葉に対して横に体を振ってくれているので、きっと許してくれているのだろう。
「ありがとう、それでさっそく名前を考えてきたんだけど、君をテイムしていい?」
うなずくように体を揺らすスライムさん。とってもほのぼのしてしまう。
「名前が気に入らなかったら言ってね?……スライムさん、君の名前はミナモ! 気に入ってくれたなら、俺の手の魔力に触れて?」
かざした手に魔力を集中させて、決めていたスライムさんの名前を呼ぶ。
すると、すごい勢いでミナモが俺の手に飛び込んできた。
「これからよろしくね!ミナモ!」
『プルプル‼(よろしく~)』
……えっ!? ミナモから、中性的な幼い声が聞こえてきた。
「ミナモ喋れたの!?」
『プル!(主の魔力とつながったから、念話が出来るようになったんだよ~)』
テイムで魔力がつながると、心の中で会話ができるようになるようだ。
これなら人が周りにいても、ミナモと普通におしゃべりができるようになるな。
「それにしてもこのプライベートルーム、何にもないなぁ」
自分で好きにできる土地が手に入ったはいいものの、俺に土木知識や農耕の知識は全然ない、かといって周りを囲む海に何か生き物がいるような気配も全くない。
俺がどのようにこの空間を活用しようか悩んでいると、飛び跳ねていたミナモが念話であるアドバイスをしてくれた。
『プルン!プルルン!(主!いっぱいテイムしてみんなをここに住ませればいいんだよ~。そしたら畑仕事が出来るヒトや家を建てられるヒトが仲間になってくれた時に頼めるし、敵のいないこの空間ならみんな安心して過ごせるしね~)』
ミナモと一緒に過ごしたいがために、職業をテイマーに設定したけど、これからダンジョンに潜ればいっぱい仲間が増えるかもしれないんだし、その時にこの空間の活用法を考えればいっか。
今すぐ何かしなきゃいけないわけじゃないんだし。
「ありがとね、ミナモ!」
『プルン!(いいえ~!)』
今晩このプライベートルームでやるべきことはこなしたので、明日の学校に向けて今日は早く寝ようかな。
「俺は今日もう寝るけど、ミナモはどうする?向こうで一緒に寝る?それともこっちに残る?」
『プル!(一緒に寝る!)』
快く抱き枕になることを受け入れてくれたミナモを抱きかかえ、俺たちはプライベートルームを後にした。
夜が明けて翌朝、今日は月曜日なので学校への登校の用意を始める。
俺が通っている高校へは、家から電車を使って30分ほどかかるのだ。そして父さんの出勤よりも早いから、毎日父さんと一緒に寝ている母さんを起こさないよう、朝食や弁当作りをいつも自分でやっている。なので朝早くから準備をしなければいけない。
『プルン!(おいしそうだね!主!)』
そして今、両親が起きてないことをいいことに、俺はミナモと朝のスキンシップをとっていた。
どうやらミナモのベストポジションは俺の頭の上らしく、ミナモを頭にのっけたまま朝の準備をしていたのだ。
今は絶賛弁当作りの途中。お米を研いで炊飯器にセットしたので、あとはオカズを作るだけなのだが、基本作り置きで冷凍していたオカズを解凍するだけや生の野菜を入れるだけなので、あまり手間はかからない。しいて言えば、卵焼きを作るぐらいだろうか。
そして朝食は、昼がお米なのでパンにする。ミナモも食べる用に、食パン二枚をトースターにセット。焼きあがるまでにお湯を沸かし、インスタントのコーヒーを淹れれば完成である。
「そろそろ母さんが起きてきちゃうから、ミナモにはあっちに戻ってもらうね?」
『プル!(わかった!ごちそうさま、主!)』
バターをたっぷり塗ったトースターを一飲みしたミナモを頭にのっけたまま朝食をとっていたのだが、いつも母さんが起きてくる時間になったので、ミナモだけをプライベートルームに送る。
昨日の晩少し実験したのだが、あの渦は大きさを自由に変えられるらしい。だからたとえどんなに大きな魔物だって、あの渦を通ってプライベートルームを行き来できる。
なので、ミナモサイズの小さい渦を作り、素早く行き来ををさせる。
ますます便利なスキルである。
「雄ちゃんおはよ~」
「おはよう母さん」
あくびをかみしめながら、眠そうな声音で母さんから朝の挨拶をされる。いつもはシャキッと目覚めてくる母さんなので、眠そうなのは珍しい。
「母さん眠そうだね?昨日はあんまりよく眠れなかったの?」
素直に疑問に思ったことを聞くと、
「昨日の会見でちょっと寝ざめが悪くてね~……そしたらパパが///」
……聞くんじゃなかった。両親の中が睦まじいのはいいことだが、朝から聞くような話じゃなかった。
「仲がいいようで何よりだよ。……もう時間だから、俺学校行くね」
「いってらっしゃ~い」
いたたまれなくなった俺は、もう少し登校までに時間があったが、弁当を包んで、すぐさま家を出たのだった。
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