第3章 のまれる

第11話 ストーカーの正体見たり 1/3

「なんで」


「……」


 驚きと疑問と、困惑で頭がいっぱい。


 私をストーカーしていたのが梨奈ちゃんだなんて。


 そんなことがあっていいの。


 これは現実?


 嘘であってほしい。


 冗談だと誰か笑い飛ばしてほしい。


 目をこすって目の前の彼女を見つめる。


 目元が似ているだけで、もしかしたら梨奈ちゃんじゃないかもしれない。


「……やっほー」


 呑気な声でマスクを取った人物は、

「梨奈……ちゃん」

 間違いなく梨奈ちゃんだった。


「なんで」


 戸惑いから抜け出せない。


 梨奈ちゃんはアイドルで。


 どちらかと言えば、ストーカーされる側の人間で。


 間違ってもストーカーする側の人間じゃない。


「んふふっ、ビックリした?」


 首をコテンと傾けて、あざといポーズ。


 可愛いんだけど、可愛いんですが!


 いつもは心臓を撃ち抜かれるそのあざとさが、今は怖くって仕方がない。


 普通正体がバレたら、もっと気が動転するもんじゃないの。


 私だけがパニックになってるのはおかしいよ。


「ビックリしたもなにも、え、嘘だよね。隠し撮りしたのも、家に入ってきたのも、梨奈ちゃんじゃないよね」


 信じたくない。


「今日はたまたま、コンビニから出てくる私を見つけて、興味本位でついて来ちゃっただけだよね?」


 推しがストーカーだなんて。


 自分を納得させるために言葉を重ねる。


「相談に乗ってくれたもんね。だから、梨奈ちゃんは――」


「奈々子ちゃん」


 喋りまくる私を梨奈ちゃんがさえぎった。


「私だよ、全部。隠し撮りしたのも、ポストに写真を入れたのも、家に入ったのも。全部ぜーんぶ、私」


 いつもはキラキラと輝いている彼女の瞳。


 今日は何故か、ハイライトが消えていて。


 吸い込まれそうなぐらい真っ黒だった。


「今日後をつけたのも、偶然じゃない。毎日……は流石に無理だけど、頻繁に後をつけてたんだよ。漸く気づいてくれて嬉しい!」


 立派な犯罪を犯した梨奈ちゃんは、お得意のアイドルスマイルを浮かべて嬉しそうに言った。


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