第2章 正体

第6話 推し癒し

梨奈りなちゃああああああん、聞いて」


「奈々子ちゃん、今日も来てくれてありがとう! どうしたの?」


 今日も今日とて推し活。


 握手会でございます。


 机の上に突っ伏したい気分ですけど、推しの尊顔を目に焼きつけたいので、そんなことはしません。


「最近ね、ストーカーされてるの」


「えぇ!?」


 ビックリしますよね。


 そうですよね。


 こんなモブ女がストーカーされてるなんて、1mmも興味ないですよね。


 だけど、

「大丈夫……じゃないよね。警察は?」

 天使みたいに優しい梨奈ちゃんは、心配してくれる。


 神だよ。


 天使の域を超えてるよ。


「動いてくれないんだあ」


「そんな。最悪じゃん」


 眉をハの字にして、真剣に話を聞いてくれる。


 嬉しい。


 それだけで癒されます。


「写真がポストに入れられてたり、リビングに置いてあったりするだけだ――」


「侵入されてるじゃん! やばいじゃん!」


 柔らかく握ってくれていた手に、力が込められた。


 声のトーンも上がっている。


 え、もしかして、本気で心配してくれてる?


「そんなに心配してくれるの、梨奈ちゃんだけだよ」


「当然でしょ。私の大事な奈々子ちゃんだもん」


「おっふ」


 ただ握っているだけだったのに、いつの間にか恋人繋ぎになっていた。


 はい、今心臓が致死量の血を流しています。


 この瞬間あの世に逝っても未練はありません。


 あっ、嘘。


 梨奈ちゃんがセンターになるまで死ねません。


 滅茶苦茶嘘つきました。


「兎に角、もう一回警察に相談してみたら」


「うーん」


 もうね、警察に対して信頼感ないんですよ。


 あの人たちは仕事をしてないってわけじゃないんですけど、ね。


 なにか大きな事件が起こってからじゃないと動いてくれないから。


 非常に残念なことに。


「はい、お時間です」


 あぁ……もう時間きちゃった。


「梨奈ちゃん、ありがとう。また後でね!」


「うん。後でね」


 大丈夫。


 握手会の時間は短いけれど、また並び直すので。


 次はストーカーの話はしないでおこう。


 幸せな気分を持って帰りたいから。

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