第2話 夢目前での死~空韻雷夢ー②

見事、優勝者の座を射止めた俺は、友達ダチ2人と祝杯を挙げ、一杯機嫌になって帰路についていた。


「やったな雷夢らいむ、まさか俺ら陰キャからお前みたいなラップスターが誕生するとはな。」

「マジおめでとう!これでメジャーデビューか。」


興奮冷めやらぬテンションで、俺たち3人は裏路地へと入っていった。

ほろ酔い気分ながら、妙な違和感に気づいた。


「…?」


背後から黒尽くろづくめの男が2人、跡をつけてきていることに気づいた。

目深まぶかにパーカーをかぶり、黒マスクもしている。


これはマズい、と本能が訴えている。


俺は友達ダチに合図を送り、足早にその場を去ろうとした。

すると、前方からも黒尽くめの男が2人。

挟み撃ちだ。


そして、背後からさらに1人。

これで合計5人。


明らかに「アイツら」、WAR-Rockウォーロックと手下のラップクルーどもだ。


「ぎゃっ。」

「ひぇっ。」


俺の友達ダチ2人が黒尽くめ集団にスタンガンを当てられ気絶、その場に倒れた。


俺は怒鳴った。

「正体バレてるぞ、ゴキブリ野郎!!!テメェだろWAR-Rock!!!」


最後に来た1人が黒マスクを脱ぎ捨てた。

案の定、WAR-Rockだ。

「バレちゃしかたねえなぁ、でもよ、テメェだけは勝っちゃいけなかったんだよ!このひょろひょろオタクラッパーが!!」


そして、奴はおもむろに拳銃を取り出し、銃口を向けてきた。どうせモデルガンだろう。

WAR-Rockは言った。

「まあいいや。出せ。」


俺は呆れかえって答えた。

「ん?賞金か?あれは後日振り込みだ。残念だがいま手元にはねーよ。」


WAR-Rockは愕然としている。


俺は続けた。

「おめぇらこんなことしてどうするんだ?これがヘッズ達にバレたら相当ハズいだろうな?しかもダチまで傷つけやがって!」


WAR-Rockは引き金を引いた。

「そうかよそうかよ。」


下っ端の1人が慌てて止めた。

「ウォーさん、拳銃チャカはマズいっすよ!」


WAR-Rockは激昂げきこうした。

「うるせえ!!!

もうゲームオーバーだ!


どの道、俺は大会をシクッたからもう後がねえ。

こいつさえいなければ!全部筋書き通りいったんだ!!


俺のサクセスストーリーはトーゼンだったんだよ!!!


…闇金も、そのバックのヤクザも、俺をぶっ殺しにくる。

バラされて、俺にかけられた生命保険もぎ取られるのがオチだ。


だったらせめてこいつのタマぁ、俺の冥土の土産にしてやるよ…。


見ろ、これが…これがリアルだァァァァァ!!!!!」


パン!


パン!パン!


裏路地に銃声が響き渡った。


本物の拳銃だったのかよ…。


「“拳銃ハジキ使って”やったぜ!!!この腐れ陰キャが!!!ざまあみろ!!ざまあみろ!!!ダハハハハハハ!!!」


「ウォーさん、やべっすよ!逃げましょう!」


黒尽くめの集団は逃げ出した。


少し離れた場所で女性の叫び声が聞こえ、また銃声がした。

巻き添えを食ったのだろうか。………外道め………。


俺は壁に背中を押しつけ、なんとか立っていようと試みたが、全身に全く力が入らず、膝から崩れ落ち、冷たいアスファルトの上に顔が叩きつけられた。


撃たれたのは腹のあたりだろう。

痛いというより、熱い。

バーナーで直に炙られているのかってほど熱い。


「嘘だろ………世界一のラッパーになるんだろうがよ………こんなところで…死んでたま…るか……………………」



—————俺はこうして息絶えた。

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