もっとはやく生まれたかった

昼川 伊澄

第1話

【coverしてみました!/ルカ(歌手志望)】


15秒単位の短い動画投稿サイトにはとてつもない数の原石が散らばっている。俺は今日も、旬の曲のフレーズを切り取って風呂場で歌った音源を投稿した。ネットに歌声を載せる活動を始めて3年経つが、あたためてきた歌手の夢は未だ芽が出る気配は無い。初めは若さをアピールしようと思って年齢や学年を大きくテロップに書いたが、もう、若さが稚拙さに繋がりかけていると分かってからはしていない。高校3年から活動を始めた自分は、実はネットでは高齢な方なのだ。

なるべくシンプルで、数年後に聴いても後悔しないようにやろうとそればかり考えて、毎晩動画を切り取る自分が居る。


【今日はルカ、3才の誕生日でした!お祝いリプありがとうございます!!】


コメント欄の数人が、クラッカーの絵文字と共にネット活動を始めた俺の活動名義である【ルカ】の誕生日を祝ってくれる。毎年1人増えれば良い方のこの固定ファンが居てくれることが、俺とルカの繋がりを固く固く縛ってくれる。

リプライにハートをつけ終わって、そのままトレンドを見る。流れにはある程度乗りたいからチェックするのが習慣だ。すると、今日はある名前が上がっていた。


【茶色かまきり 活動13周年】


それは、インターネットが普及して初期に歌を投稿していて、現在はネット上では国内でトップの人気を誇る音楽活動者の名前だった。最近は年に数回しか動画投稿をしないのに、根強いファンが着いているため記念日には度々話題に上がる。言わば伝説的な存在だ。

普段はネット上の発言は控えめなこの 茶色かまきりだが、今日はラジオで何やら話をするらしい。俺は聞こうか迷ったが、そっと画面を閉じた。大学の課題が残っているし、なにせルカの誕生日と被っているのが腹立たしい。まあ俺が後出しとはいえ。



次の日の朝、俺は携帯の通知と共に目覚めた。



1桁だったフォロワーが、3桁まで膨れ上がっていた音だった。

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