第106話 激戦2

 アスロムはゼルディアの爪の攻撃を必死に避けていた。

 服の一部が裂けていて、血で赤く染まっている。


 ゼルディアはにやりと笑った。


「どうやら、一対一では我に傷もつけられないようだな」

「それはまだわからないよ」


 アスロムは七光彩剣を両手で握り締め、荒い呼吸を整える。

 骸骨戦士に倒されていく冒険者たちの姿が視界に入り、アスロムの唇が歪んだ。


 ――こうなったら、残りの基礎魔力を使って勝負に出る!


「『時神の加護』!」


 アスロムの姿が消え、一瞬でゼルディアの背後に現れる。


「それは一度見た技だ!」


 ゼルディアは素早く振り返り、赤い爪でアスロムの胸を狙う。


「『時神の加護』!」


 また、アスロムの姿が消えて、ゼルディアの頭上に現れる。

 アスロムは体を回転させながら、七光彩剣を振った。剣の軌道が虹を描き、ゼルディアの頭部を斬った。


「ぐっ……」


 ゼルディアは青紫色の血を流しながら、アスロムから距離を取る。


 ――浅かったか。


 アスロムは唇を強く噛んで、ゼルディアに駆け寄る。


 ――もう、魔力切れで時神の加護は使えない。なんとか、ここで決めるしかない!


「はあああっ!」


 気合の声をあげて、アスロムは七光彩剣を振り下ろした。

 その攻撃をゼルディアはぎりぎりでかわし、右手をアスロムに向けた。紫色の光線がアスロムの肩を貫く。


「くっ……」


 アスロムは肩を押さえて、後ずさりする。

 ゼルディアは素早く呪文を唱えた。

 頭部の傷が塞がり、血が止まった。


「たいしたものだ。我に二度も血を流させるとはな」


 ゼルディアは金色の目を細めて、アスロムを見つめる。


「だが、その攻撃も無意味だ。この程度の傷なら、いくらでも治せるからな」

「……まだ、勝負はついてない!」


 アスロムは両手で七光彩剣を握り締める。


「僕の命に代えても、お前を倒す!」

「口だけは達者だな。お前が無力な存在だと教えてやろう」


 ゼルディアは呪文を唱える。


「……『邪神の雨』


 巨大な魔法陣が空に現れ、真っ赤な雨が降ってきた。

 雨は周囲にいた冒険者たちの服や体を焼く。

 白い煙があがり、冒険者たちの悲鳴が響いた。


「ゼルディア!」


 怒りの声をあげて、アスロムがゼルティアに突っ込む。


「焦りすぎだな」


 ゼルディアは振り下ろされた七光彩剣の刃を左手の甲の宝石で受け、右手を突き出した。

 アスロムの胸に赤い爪が突き刺さる。

 アスロムは顔を歪めて、後方に跳んだ。


「致命傷を避けたか。だが、勝負はついた」


 ゼルディアは淡々とした口調で言った。


「そのまま、動かなければ一瞬で殺してやる」

「ぐっ……」


 アスロムはぎりぎりと歯を鳴らして、ゼルティアをにらみつけた。



 エレナの回復魔法で傷を治したキルサスは戦況を確認して口を開いた。


「エレナ……撤退の準備をしておくんだ」

「撤退?」


 隣にいたエレナが聞き返した。


「逃げるつもりなの?」

「どうせ、アスロムも同じ判断をする。ゼルディアには勝てないからな」


 キルサスの体が微かに震えた。


「ゼルディアはアスロムとシルフィールが二人がかりでも倒せなかったんだ。なのにアスロムだけで倒せるわけがない!」

「それなら、あなたがサポートすれば」

「無理だ。今の時点では僕はシルフィールより弱い。仮に三人で戦っても厳しいだろう」


 キルサスはゼルディアと戦っているアスロムに視線を向ける。


「ゼルディアが三属性の高位魔法を使えるとしても、強引に白兵戦に持ち込めば倒せると思っていた。だが、奴のスピードとパワーはトップクラスだ。魔法だけじゃなく、白兵戦も超一流ならどうにもならない」

「逃げるしかないってこと?」

「ああ。犠牲者が増える前に撤退することが正しい選択だ」

「でも、骸骨戦士もいるし、逃げるのは難しいかもしれない」

「それは大丈夫だ。アスロムとシルフィールがいるからな」


 キルサスは戦っている二人を交互に見る。


「あの二人は責任感が強く、仲間を助けるために命を捨てる覚悟があるだろう」

「……あなたは仲間を守るつもりはないの?」

「あるさ。だが、逃げた時にみんなをまとめるリーダーが必要だろう。アスロムたちが死んだら、残っているSランクは僕だけになるからね」

「……それは……そうだけど」


 エレナの金色の眉が眉間に寄る。


「とにかく、少し下がるぞ。骸骨戦士に囲まれたら逃げにくくなるしな」


 キルサスは聖剣の団の団員たちに指示を出して、少しずつ下がり始めた。


◇ ◇ ◇


 情報:カクヨムコン10で新作発表予定です。新作はコミカルファンタジーになります。くすっと笑える読んで楽しい作品です。

11月29日公開予定。よろしくお願いします!

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