第73話 情報

 次の日の朝、僕が起きると、炎龍の団の団員たちが興奮した様子で何かを話していた。


「どうかしたの?」


 僕は側にいたアルミーネに声をかける。


「神殿が見つかったって」

「えっ? そうなの?」

「うん。今日の朝、戻ってきたパーティーが神殿がある洞窟を見つけたみたい」

「それはいい情報だね」


 僕は立ち上がって、数十メートル先にいるメルトに視線を向ける。

 メルトは周囲にいる炎龍の団の団員たちに指示を出している。


「僕たちも準備したほうがよさそうだね」

「うん。ピルンとキナコを起こしてくるよ」


 アルミーネは近くで眠っている二人を起こしにいった。


「ピルン、起きて」


 僕はピンク色の寝袋から顔だけを出しているピルンの頬を人差し指で突いた。


「……大丈夫……なのだ。まだ……ソーセージなら食べられるのだ」


 ピルンが寝言を言いながら、僕の指を噛もうとする。


「僕の指はソーセージじゃないから」


 僕は慌てて自分の指を引く。

 ピルンの尖った歯がカチカチと音を立てた。

 その音に反応して、キナコが上半身を起こした。


「あ、起きたんだね。おはよう」

「……ああ。とりあえず、朝酒にするか」


 キナコはまぶたを肉球でこすりながら、大きくあくびをする。


「いや、朝からお酒は止めようよ。健康によくないし」


 僕は頭をかく。


 ピルンもキナコも強い冒険者だけど、突っ込みを入れたくなる言動や行動が多いんだよな。

 寝袋を片付けていると、聖剣の団のダズルが近づいてきた。


「やっと起きたのか。ヤクモ」


 ダズルはにやにやと笑いながら、薄い唇を舐めた。


「うらやましいね。こっちは徹夜だったのに」

「徹夜?」

「そうさ。ドールズ教の神殿を見つけてね。さっき、炎龍の団に報告してきたのさ。ひひっ」


 ダズルが自慢げに胸を張る。


「君たちが神殿を見つけたんだ?」

「正確には僕だね。森の中で信者を見つけてさ。後をつけたんだよ。そしたら、岩が積み重なった場所に入り口があったのさ」

「そこが神殿って、どうしてわかったの?」


 僕はダズルに質問した。


「信者たちが話してたんだよ。『この洞窟の中に神殿があることを絶対に知られてはいけない』ってね」

「そんなことを話してたんだ」

「ああ。僕は【隠密】の戦闘スキルを持ってるからね。信者たちは近くに隠れていた僕に気づかなかったってわけさ」


 ダズルはだらりと舌を出す。


「その後はアルベルたちと合流して、やっとここに戻ってきたんだ」

「それは大変だったね」

「まあね。君たちも信者を捕まえたみたいだけど、僕の手柄に比べたら、いまいちかな」

「うん。神殿を見つけたのはすごいことだと思うよ」


 僕がそう言うと、ダズルの口角が吊り上がった。


「感謝するんだね。僕のおかげで神殿探しをしなくてよくなったんだから」


「おいっ、ダズル!」


 遠くからアルベルがダズルに声をかけた。


「メルトさんが神殿のある場所まで案内してくれってさ。俺たちが先頭になるらしい」

「わかった。すぐに行くよ」


 ダズルは僕の肩を軽く叩く。


「ヤクモ。お前たちのパーティは後ろからついてくるといいよ。どうせ、戦闘でもAランクのキナコ以外は役に立ちそうにないし。ひひっ」


 ダズルは甲高い笑い声をあげて去っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 書籍化しています。現在2巻まで発売中です。

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