第50話 ヤクモとキナコとシルフィール

 今だ!


 僕はポケットに収納していた操紙鳥を十羽出した。


 十羽の操紙鳥は、ばらばらの軌道でダグルードに迫る。

 ダグルードの鎧に埋め込まれた眼球が操紙鳥に気づいた。


「もう、その手は食わん」


 ダグルードは巨大な柱に背を寄せて、両手の指から光線を発射する。次々と操紙鳥が爆発した。


 柱を利用されたか。あれじゃあ、後ろから狙いにくい。


 数秒も経たないうちに十羽全部の操紙鳥が爆発した。

 それと同時にキナコとシルフィールが左右からダグルードに突っ込む。


「弱者どもがっ!」


 ダグルードが唇を動かすと、落ちていた黄金色の剣が消え、ダグルードの前に具現化する。それを掴んで、双頭光王の刃を受け止めた。さらに体を捻って、キナコの脇腹を蹴る。


 キナコの体が十メートル以上飛ばされた。

 僕は飛ばされたキナコに駆け寄る。


「キナコ、大丈夫?」

「あ……ああ」


 キナコは牙を鳴らして、立ち上がった。


「この程度の蹴りで動けなくなるような俺じゃない。すぐに奴を倒してやる」

「キナコ、僕に考えがあるんだ」


 僕はシルフィールと戦っているダグルードを見ながら、キナコに自分の作戦を話した。


「……ん? しかし、その作戦……本当に上手くいくのか?」

「絶対じゃないけど、勝算はあるよ」

「……わかった。お前の作戦に乗ってやる!」


 そう言うとキナコは走り出した。


 僕はキナコとは逆方向に走りながら、ポケットに残っていた全ての操紙鳥を出す。七羽の操紙鳥が頭上を旋回する。


 これでいい。あとは……。


 僕は意識を集中させて、特別な紙を具現化した。


 ◇ ◇ ◇


 キナコはシルフィールと戦っていたダグルードに突っ込んだ。白い爪を長く伸ばし、ダグルードの足を狙う。


「ちっ! しつこい奴め!」


 ダグルードは舌打ちをして、キナコの連続攻撃を避ける。


「いい加減に死ねっ!」

「お前がなっ!」


 キナコの爪がダグルードの太股に傷をつけた。

 一瞬、ダグルードの顔が歪む。


「シルフィール! ここで決めるぞ!」

「言われなくても、わかってるわっ!」


 シルフィールが双頭光王を振り回して、ダグルードを攻撃する。

 キナコとシルフィールの連続攻撃にダグルードの唇が歪んだ。


「調子に乗るなっ!」


 ダグルードの蹴りがキナコの腹部に当たった。キナコは腹部を押さえながら、よろよろと下がる。ダグルードの目がぎらりと輝いた。


「お前から終わらせてやるっ!」


 ダグルードは黄金色の剣を連続で突いた。キナコはダグルードに背を向けて走り出す。


「もう逃がさん!」


 ダグルードはシルフィールを黄金色の剣で牽制しながらキナコを追った。数十歩走ると、キナコを守るように七羽の操紙鳥がダグルードの行く手を塞ぐ。


「また、それか」


 ダグルードは近くにあった柱に背を寄せて、右手の指から青白い光線を発射する。五羽の操紙鳥が光線に貫かれて爆発した。


「お前たちが何をやっても……」


 その時、ダグルードが背にしていた柱が一瞬で消え、ヤクモが姿を現した。ヤクモは魔喰いの短剣を振り下ろす。ダグルードの左腕が斬れ、青紫色の血が噴き出した。

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