第46話 女王蜘蛛

 僕は女王蜘蛛に向かって走る。


「キュアアアアア」


 女王蜘蛛は口を大きく開き、周囲の空気を震わせるように鳴いた。

 すると、女王蜘蛛を守るように三十体以上の魔鋼蜘蛛が集まってきた。魔鋼蜘蛛たちは白い糸を吐き出し、僕を行く手を塞いだ。


 それなら、この位置から女王蜘蛛を狙う! 


 ポケットの中に入れていた闇属性を付与した紙を二百三十枚使って……。


 僕の頭上に巨大な紙の槍が出現した。長さが五メートル以上あり、全体が青紫色に輝いている。


「いけっ! 『巨槍闇月』!」


 巨槍闇月は魔鋼蜘蛛たちを跳ね飛ばし、女王蜘蛛の楕円形の胴体に突き刺さった。


「キュア……ア……ア……」


 女王蜘蛛の鳴き声が途切れ、巨体が横倒しになる。


 よし! これで戦いが楽になるはずだ。


「やったね、ヤクモくん」


 アルミーネが僕に駆け寄ってきた。


「あんな巨大な槍を具現化するなんて、すごいよ。しかも闇属性を付与した槍だよね?」

「うん。体力を削る効果がある闇属性の紙だよ。それをストックしてたんだ」


 僕は胸元のポケットに触れる。


「二百枚以上使ったから、もうあの槍は具現化できないけど」

「だけど、女王蜘蛛を倒せたのは理想的だよ。これでなんとかなりそう」


 アルミーネは魔鋼蜘蛛と戦っているキナコたちに視線を向けた。


 女王蜘蛛を倒してから、数分後。

 群れの数が半分以上に減った魔鋼蜘蛛たちが逃げ出した。


 僕は荒い呼吸を整えながら、周囲を見回す。

 多くの魔鋼蜘蛛の死体といっしょに四人の月光の団の団員が地面に倒れていた。


 四人やられたか。


 僕は唇を強く噛む。


 もっと早く女王蜘蛛を倒せていれば……いや、そんなことを考えてる場合じゃない。


 すぐにここから逃げないと。


 その時――。


 カタ……カタ……カタカタ……。


 骨の鳴る音がして、二百体以上の骸骨兵士が姿を見せた。

 骸骨兵士たちは、七人になった僕たちを取り囲む。


 そして、広場の入り口からダグルードが現れた。ダグルードの両隣にはメタリックドールがだらりと長い手を下げて立っている。

 ダグルードは金色の瞳で僕たちを見回した。


「奴隷は別の場所にいるようだな。まずはそれを教えてもらおう」

「教えるわけがないだろう」


 キナコが一歩前に出て、ダグルードと対峙する。


「逆にお前に質問しよう。お前は六魔星ゼルディアの直属の部下らしいな」

「それがどうかしたか?」

「ならば、ゼルディアの居場所を教えろ」

「ゼルディア様の居場所?」


 ダグルードは首をかしげた。


「ゼルディア様に何の用がある?」

「たいした用じゃない。奴を殺そうと思っているだけだ」

「……お前がゼルディア様を?」


 ダグルードの口角が吊り上がった。


「面白いことを言う。猫人族ごときにゼルディア様が殺されるわけがないだろう」

「猫人族ごときか……」


 キナコは白く尖った爪で頭をかく。


「魔族はよく同じ言葉を吐く。そう言って、俺に殺された魔族は何十人もいるぞ」

「……ほう。それはたいしたものだが、弱い魔族ばかり倒しても自慢にはならんぞ」

「ならば、お前を倒しても自慢できそうにないな」


 キナコの言葉にダグルードは数秒間沈黙した。


「……ふっ、ふふっ」


 ダグルードは笑い出した。


「いいだろう。お前が本当に強いのかどうか、確かめてやろう」


 ダグルードは黄金色の剣を具現化した。


「骸骨兵士たちよ。お前たちは他の冒険者を殺せ!」


 僕たちを取り囲んでいた骸骨兵士たちが一斉に動き出した。

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