第29話 ガルディ
数秒後、針のように目を細くしたガルディが口を開いた。
「お前……名前は?」
「アルミーネ。見る目のあるパーティーリーダーだよ」
「アルミーネか。お前に圧倒的な力を見せてやるよ」
ガルディは右手の人差し指を立てて、呪文を唱える。
指の先に黒い球体が具現化し、その球体がどんどん大きくなる。
球体の直径が一メートルを超えると同時に、ガルディは指を動かした。
球体が僕たちに向かって動き出す。
ま、まさか?
身構えた僕たちの前で黒い球体は軌道を変え、魔鋼蜘蛛の死体に当たった。爆発音がして、魔鋼蜘蛛の硬い体が四散する。
「これが強者の力だ!」
ガルディは唇の両端を吊り上げる。
「お前たちが倒した魔鋼蜘蛛の群れなど、俺の魔法なら、一発で消せる」
「そんなことを証明するために、魔鋼蜘蛛の死体をバラバラにしたの?」
アルミーネが呆れた顔で頭をかいた。
「基礎魔力の無駄遣いだよ」
「これぐらいたいしたことねぇよ。俺は【魔力強化】のスキルを持ってるからな。基礎魔力の量が10万マナ以上あるのさ」
「へーっ、【魔力強化】か。いいスキル持ってるね」
「他にも二つの戦闘スキルを持ってるぜ」
ガルディは右手の指を三本立てた。
「上に立つには強さこそが重要なんだよ」
ガルディがこぶしを握り締めた。
「強いからこそ相手の実力もわかる。こいつが弱いことは俺も見ただけでわかったぜ」
ガルディの人差し指が僕に向けられた。
「そんな奴が入ってるパーティーは二流……いや、三流ってことだ」
「どうやら、意見が分かれたみたいね」
アルミーネが頭をかいた。
「まっ、どっちが正しいのかは、そのうちわかるでしょ」
「……ふん。すぐに自分の間違いに気づくことになるぞ」
「あなたがね」
「ちっ! 自分が言った言葉を忘れるなよ」
そう言うと、ガルディは僕たちに背を向けて歩き出す。聖剣の団の団員たちが慌てた様子でガルディを追いかけていった。
アルミーネは頭をかきながら、ふっと息を吐く。
「これじゃあ、聖剣の団と協力するのは無理そうね」
「アルミーネ」
僕はアルミーネに声をかけた。
「ありがとう。僕をかばってくれて」
「事実を言っただけだよ」
アルミーネは肩をすくめる。
「すぐにあのAランクも気づくと思うよ。ヤクモくんの強さにね」
「うーん。強さか……」
「ん? どうしたの? 変な顔して」
「いや。僕も少しは強くなったと思うけど、まだEランクだからなぁ。模擬戦でもキナコに全然勝てないし」
「当たり前だ」
キナコが僕のおしりを肉球で叩く。
「お前は【紙使い】のスキルを封印して戦ってるじゃないか。単純な白兵戦でAランクの格闘家に勝てるわけがない。だが……」
キナコはじっと顔を見つめる。
「お前は経験不足なところがあるが、瞬時の判断が速いからな。それに相手の攻撃を読むのも上手い。スキルの力を使わなくても、ほどほど以上に戦えると思うぞ」
「ほどほど以上か……」
僕は口元に指を当てて考え込む。
頭を打ってから戦闘時の思考が速くなって、相手の動きに対応できることが増えた。思考に体がついていけるようになったのは、キナコとの訓練のおかげもあるだろうな。
でも、まだまだだ。もっと強くなってパーティーの役に立たないと。
僕は両手のこぶしを握り締めた。
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