第86話 唸る風


今日は風の強い日で

向かって行くのもキツい

仕方なく歩いてはいるけど

息すら苦しいほど


冷えた指先で耳を

塞いでも塞いでも

風の音しか聞こえない

ごうごうと唸って

救いなんてないよと

現実を叩きつけて


煩くて逃げるように

反対のほうに走る

背中から追いかけてくる

容赦のない温度が

執拗に絡みついて

獲物を狙う速度で


うるさいうるさい

うるさいなぁ

もう放っておいてくれ


だんだん走れなくなって

力尽きて膝をつく私を

嘲笑うように風は吹き抜け

塞がれた耳の奥で今も

ごうごうと唸って


ああ、うるさいなあ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る