第4話 小動物はだいたいかわいい
希が先に行ったところで乗る電車は同じである。ほどほどに人がいる電車を三駅分揺られると、学校からの最寄り駅に到着する。駅の西側にはコンビニがあったり、飲食店が並んでいるが、学校がある東側は道があるだけで店らしい店はない。
ざわざわと学校を目指す生徒たちが進んでいく。すると端っこに立ち止まって控えめに手を振る女子がいる。俺と希も揃って手を振り返す。
彼女が
「おはよ、
「ん、おはよう」と俺。
「おはよう、未央」と希。
ほがらかに笑う未央もまた夏服姿であり、白い肌がまぶしい。
空気を含んでふんわりとしている栗色のショートヘアと、ぱっちりとしたまん丸の目は見るだけでやわらかさを感じさせる。身長は俺より頭一つ分くらい低く、きれいな希とは反対に、全体的な印象はかわいらしさを主張しているようだった。
といった俺の視線に気付いたのか、未央は顔をさっと赤らめ、背負ったリュックの肩ひもを両手で握りしめる。
「ど、どうしたの? 隼くん」
「いや、夏服だな、って」
ちょうど冬服から夏服へ移行する日なのだ。そして俺も夏服である。
いつの間にか未央の横についている希が、「気を付けろ、そいつはじろじろと見てくるからな、ひっぱたいてやれ」と言った。
「え、ええー」
未央が困ったふうに笑うので、出来心から試しに腰をかがめてみた。希がこうやるんだぞ、と言わんばかりに素振りをしている。
すると未央の右手がふらふらと動き、俺の頬をぺちんと軽く叩いた。それは全く本気でなく、叩くというよりは、撫でるの一つ上程度のものだった。痛いどころかこそばゆい。
もちろん、実は本気でひっぱたかられることをしているのだが、それを表に出すことはない。
「もう、変なことやらせないで!」と未央はぷりぷりして通学路を歩いていく。
怒ってますよというポーズであることはすぐにわかる。
「かわいい」とぽつりと呟けば、「ほぅ……」と希が何やら不穏なため息を吐いて、目をほそめてこちらを見ている。
もしここで、「お前もかわいいよ」なんてイキった言葉を出してしまったら、希の機嫌は急激に悪くなるだろう。
だから俺は肩をすくめて、「希もそう思うだろ?」と言った。ドクン、と跳ねる心臓は、これ、合ってるよな? という不安の表れである。
すると希は口の端をほんの少し緩めて、「……そうだな」と引き下がり未央の後を追う。セーフ。
事実として、未央の小動物チックなかわいさは男女問わず通用するものであり、希自身もそう思ってるからこそ、同意を求められれば納得するしかない。
決して彼女という関係性の相手に向ける言葉であることを、希にバレてはいけないのだ。
これで二勝一敗だな、と思っていると右肩に背後からの衝撃が走り、たたらを踏む。
顔を上げれば、あきらかに肩をいからせたクラスメイトの男子が、振り返ってこちらを睨みつけている。
「朝っぱら、いちゃいちゃ、いちゃいちゃと……!」
彼は憎々しげに吐き捨て、速足で去っていった。
嫌われてるわけではない、はずだ。たぶん。だって普通にしゃべったりするからさ。
ただちょっと、祝福が熱いだけだ。
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