第68話

 秋になるころには『ダンジョン』の中は更なる変化があった。


 いくつかの企業が『ダンジョン』の中に進出し、そしてそれなりの成功を収めていた。その成功を羨んだのだろうか、それに続けとばかりに、更にいくつもの企業が土地を借りたいという話が舞い込んできたのだ。


『協会』の手を借り、信用できる相手を見定め出店の許可を出す。多くは飲食料品店や雑貨店であったが、エルフ達が多く住む共同住宅も電気が使用可能となっているため、小さいが家電量販店まで出店を希望してきたときは流石に俺も驚かされた。これは難しいのではなかろうかと疑念を抱き、気になって頻繁に様子を窺っていたが、意外にもエルフ達にも人気があり思わぬ盛況っぷりを見せていた。


 と言うのも、アルベルトさんの尽力もあって共同住宅にはネット設備も充実しており、パソコンやタブレットなどを購入して無料の動画配信サイトを楽しむ猛者までいるのだとか。


 電子機器は依然としてエルフ言語に対応しきれていないためすべてのエルフが使いこなせるようになるにはまだまだ時間がかかりそうであったが、すでにそういったソフト面での開発にも着手しているらしく、そう遠くない未来、エルフがスマホを片手にSNSなどを活用する未来が訪れるのかもしれないと思った。


 そして大きな繫盛を見たエルフの商人であるアルベルトさんが、それの商機を見逃すということは無く次なる勝負に打って出た。


 今まではエルフ産の食料品などを中心に販売していたが、俺から更なる土地を借りエルフの伝統工芸品などを売る物産展や、眉目秀麗なエルフが給仕をする飲食店などを開業し始めたのだ。


 1度アルベルトさんに誘われ、その店で食事をしたことがある。


 内装が北欧風のお洒落ながらも落ち着いた空間に彩られており、置かれているテーブルやイスもキラリとセンスの光る装いであった。そんなキラキラとした空間に、男性のエルフはピシッとした執事服で、女性のエルフはヒラヒラとしたフリルの可愛いメイド服で応対してくれる。


 そこで提供される食材はすべてエルフ産のものであるが、どこから連れて来たのか分からないが有名なレストランのシェフを雇い入れ、日本にあるレシピによって作られる、素材の良さと奥深い味わいが両立された素晴らしい料理を楽しむことが出来た。


 お値段のほどは少しばかり……いや、かなり強気な設定であったが、俺が見た限りでは客足が途切れているという状況を一度も見たことが無く、店の外にまで客が並んでいるのを何度も見かけたことがあるぐらいだった。すでに第2、第3の出店の要望も来ているとかで、アルベルトさんが嬉しそうに俺に語ってくれた。


 文化面での交流も着実に進められていると同時に、技術交流なんかも積極的に進められている。


『ダンジョン協会』の研究所にトゥクルス共和国の技術者が多く派遣され、そこで日夜魔道具の研究開発が行われている。


『魔石』に関連する技術は『エルフ』との間にかなりの技術格差があり、それを協会側の研究者が学ばせてもらっているのだとか。すでにいくつかの成果が出ているらしく、『魔石』から抽出できるエネルギー効率を飛躍的に高めることに成功したのだ。


 エルフの技術者と言う大きなアドバンテージを手に入れた『協会』の威勢はさらに高まるが、それを面白く思わない者達もいる。『ダンジョン』関連の商品を開発する企業だ。企業もエルフの技術者さえいれば『協会』と同等の成果を出せるに違いないと奮起し、俺の『ダンジョン』の中に研究所を新しく建設したい、と言う話も来るようになっていた。


 その候補地の選定もすでに終わらせている。開発予定地の広さは俺が協会に提供した敷地面積に匹敵するだけの広さがある。流石に一企業にこれだけの広さを用意するのは難しいため、複数の企業が共同で出資しこれを開発することとなったのだ。


『協会』はライバルが増えることに対し不快と思うのかな?とも思ったが、意外にも積極的にトゥクルス共和国と交渉し、エルフの技術者の確保に協力しているのだとか。まぁ、協会側からすれば、ダンジョン関連の企業が成功し『ダンジョン』という場所の発展に繋がれば自然と『協会』もその恩恵にあずかることも出来る。どちらにしても損はないということか。


 トゥクルス共和国と言えば、最近隣国との交流が活発化していると聞いた。きっかけは勿論、日本から輸入した食料品や雑貨などが上げられる。


 トゥクルス共和国を経由して日本産の様々なものが外国に輸出されているらしい。そして隣国に住むエルフの商人もまた日本の事を知り、直接取引をするために国境を越えダンジョンに入り、日本にやって来る者達も増え始めている。


 商人の数が増えれば当然取引も増え、経済活動はより活性化されることになる。そしてそれを商機と判断し、更に多くの企業が俺の『ダンジョン』に進出してくる。俺にとってもかなり喜ばしい流れが出来つつあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る