第37話

「隊長!これ、美味しいですね!」


「う~む、まさか人間達がこれほどの美味なる物を開発していたとは…やはり人間達と仲良くしていくのは決定的といっても良いでしょうか」


「アツアツ、うまうま」


「あぁ…もう無くなってしまった…。もう少し…食べたいなぁ…」


「…分かりました。準備するので、少し待っていてください」


「いや~すみませんねぇ、催促してしまったみたいで!あ、次は『とんこつ味』って奴をお願いしますね!」


 俺達の調査期間は最低でも2週間はかかると想定していたため、俺はそれなりにインスタントの食品を持ち込んできていた。それが今、ものすごい勢いで消費されている。調査前は「念には念を入れて。腹が減っては戦は出来ぬ、と言うからな」そんな軽い気持ちではあったが、その時の自分を褒めてやりたい気になった。


 ちなみに俺が用意したインスタントの食品だけでなく、剣持さん達が持ち込んでいたカロリーバーもそれなりの人気を博していた。「口の中がパサパサする」と言いつつも、美味しそうに食べているので間違いは無いだろう。


 こんな食事に感動している彼女達『エルフ』は、さぞ普段から貧しい食事をしているのだろうか?と疑問にも思ったが、実のところそうでもなかった。俺が渡したインスタントの食品の代わりとしてもらったドライフルーツを食べてみたが、これがかなり美味かったからだ。


 甘さと酸味のバランスがちょうどよく、乾燥させているはずなのにジューシーさも感じるとても不思議な味わいだった。以前食したドライフルーツにあった独特の風味も感じないため、これならドライフルーツが苦手と言った人でも問題なく食べることが出来るだろうと思った。


 聞けば『エルフ』にも当然、調理という概念は存在するがその技術は地球ほど発展していないということだろう。彼女たちのいた場所はモンスターが跳梁跋扈している。民間人は頑強な塀の中で暮らさざるを得ないため、地球ほど情報やら物資の流通が活発ではないためではない。そのため文明的には地球よりも劣ってしまった…そんなところかな。


 と、そんなとりとめのないことを考えながら調理をすすめ、3分間湯がいた麺をあらかじめ容器に入れておいたスープの中に投入し、彼女らに渡した。これもまたすごい勢いで消費されていく。…まぁ俺からすればインスタントの食品などいくらでも手に入るため、この程度の事で彼女らの好感度を稼ぐことが出来れば安いものだと思うことにした。


 そうして楽しい食事会を終えた俺達は野営の準備を始めた。夜間の見張り役は互いの陣営から1人ずつ出して行うことなり、前日からの取り決め通り俺達の最初の見張り役は俺になった。


 そうして焚火を前に周囲を警戒しているとエルフ側からの見張り役が来た。彼女は確か…アウラさんとか言ったか。俺の作ったラーメンを一番よく食べていたから記憶に残っている。


「おや、ダンジョウさん。貴方が最初の見張り役ですか?」


「ええ。どうぞ、火の近くへ。眠気覚ましにココアを準備していますが…飲みますか?」


「勿論です!」


 ココアという飲み物が彼女らのいた場所にはないはずだが、一も二もなく頷いたのは、俺の持ち込んだ飲食物が美味しいものだと、すでに彼女の中で定義付けられているためであろう。実際その考えに誤りはないようで、俺の渡したココアをフーフーと息を吹きかけて、冷ましながら美味そうに飲む姿から容易に想像することが出来た。


「いや~ダンジョウさんの持つ食べ物はすべて美味しいですね~。これは、あの話を受けた方が良さそうかもしれません」


「あの話?」


「ええ、実は貴方方の情報を少しでも入手するために、何名かは貴方方の帰郷に同行した方が良いんじゃないかって隊長さんが提案してきたんですよ。もちろん、ご迷惑でなければ、の話ではありますが」


「迷惑ではないですが…少人数で来られた場合、仮にですが来た人を拘束し、人質とすることで貴方達の所属する国と有利な取引をする…とは思われないんですか?」


「なるほど、そんな考え方もありますね。ですがその話をしたということは、その意思がないってことですよね?」


「勿論俺、そして剣持さん達も同じ思いでしょうが、世の中には悪い人はたくさんいますからね。どうなることやら…」


「まぁ、極力自分たちの身は自分たちで守る様にしますから!とりあえず、貴方方のいる国と交流を持つためのきっかけになればそれに勝る喜びはありませんよ」


 軽い調査のつもりで始めたが、国同士の交流のきっかけになろうとは面倒なことになってしまったと思う一方、そのきっかけが自分が関わることになったことが少しばかり誇らしくもあった。

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