ここはダンジョン都市開発計画区域!
オオキケンタ
第1話(プロローグ)
今から20年ほど前、震度にして7は下らないほどの大地震が世界中を襲った。ノストラダムスの大予言の再来と言う者もいれば、地球が悲鳴を上げているのだと何の根拠もない声をあげる環境活動家もいた。
理由は不明であったが人がその営みを止めるわけにもいかない。人々は復興を始め、少しずつではあるが震災の起こる前の日常を取り戻すための活動を始めた。
いち早く復興を終わらせ国。それは普段から地震大国とされ震災に対する多くのノウハウを持ち、あらゆる災害にも迅速に対応することのできた日本国であることは言うまでもないだろう。
国内の大まかな復興作業をいち早く終わらせ、緊急の案件を片付けた政府は他国に対し支援部隊を派遣することを検討する。しかしその派遣部隊が外国に赴く前にとある警察署に一本の電話が入る。そしてその電話がきっかけとなりで海外への支援部隊の派遣は取りやめとなってしまった。
「近所の公園に見慣れない大きな穴が開いている。中に見たこともないような化物がいたらしい」
この連絡を受けた当時の警察署では当初イタズラの類であるとも思われてしまったが、通報した人の切羽詰まった言いようからそれは無いのではないかと断じ、近くを巡回していたパトカーに現場に急行するように指示を出した。
駆けつけた警察官らが見たものは、ありふれたブランコに少し寂れた滑り台。そして平凡な公園にはにつかわしくないほどの大きな穴であった。周りには野次馬がすでに何人も来ており連絡者と思しき人物との会話で、興味本位で入った人が「中に化物がいた!」と騒ぎ、一目散に逃げだしたという事なのだそうだ。
穴を確認した警官らは署にそのことを報告し、中を確認するためにその穴の中へと入っていった。その穴の中は不思議なもので、光源らしいものが見当たらないにもかかわらずうっすらとではあるが明るくなっていたのだ。
一抹の不安を抱きつつも穴の奥へと侵入していくと、連絡にあったような化物…日本式に言えば餓鬼、RPG的に言えばゴブリンと呼ばれる生物に酷似した生き物が生息していたのだ。
その情報は即座に各方面に伝えられ、海外へ派遣予定であった支援部隊をバックアップに据えその穴に関する情報収集を開始した。この辺りの迅速な対応は、震災にもかかわらず平時のようにのらりくらりとした対応しかしてこなかった当時の政権が、マスコミやネットで大きく叩かれたことが原因だと後の世で語られている。
そして数多くの犠牲と物資を失いながら判明したことは大きく分けて3つ。1つ目はその化物…『モンスター』相手に重火器などの攻撃はあまり効果がないが、弓矢やスリングショット、銃剣などによる攻撃は効果があるという特殊な物理法則が働いているということ。
2つ目はその『モンスター』を倒すと死体は煙のように消え、『モンスター』の体の一部と謎の黒い石…『魔石』がドロップされる。そして『魔石』には未知のエネルギーが蓄えられており、世界のエネルギー事情を一変させるほどの大きな可能性が秘められている。また、『ダンジョン』の奥地にごくまれに発見される『宝箱』の中には、現代の日本にはない謎技術によって作られたと思われる特殊な道具、通称『魔道具』が収納されていること。
そして3つ目は『モンスター』を倒すと身体能力が飛躍的に向上し、人体の構造上、不可能といえることも可能とすることのできる未知なるチカラ…『スキル』を獲得できるということだ。
これらの調査結果に震災によって沈んでいた世論は大いに沸いた。
もちろんその謎の穴…『ダンジョン』への不安や恐怖の声はあったが、それ以上に『ダンジョン』がもたらしてくれるであろう恩恵に対する期待の声のほうが遥かに大きかったのだ。
しかし、そんな『ダンジョン』に対する研究は遅々として進まなかった。なぜならダンジョンのことをもっと知りたいという需要の声に対しての、現場の調査員の不足という供給が全く追い付いていなかったからだ。
新たなる商機の可能性に大きな希望を抱く、震災によって業績を大きく落とした企業からの突き上げを受けた政府は、それまでは国により厳重に管理されてきた『ダンジョン』を民間に開放することを決意させた。
そうして、『ダンジョン』に挑み、その中からアイテムや情報を持ち帰る民間人からなる職業…『探索者』が日本中で次々と生まれていった。
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