行き過ぎた感謝は迷惑なのです!

 エイエーンはダークエルフの里の姫、ワッフルの家に泊めてもらう事になった。

 そして今まさに初対面の瞬間である。


「初めましてエイエーン姫。私はダークエルフの里のワッフルでございます。さあ中へどうぞ」


 大樹の中央にある扉を開き、丁寧に挨拶をしたワッフル。エルフ特有の長く尖った耳と白い肌、黒く長い綺麗な髪で品格が良い。

 さらには姫らしくない格好をしている。どちらかというと使用人のようなメイド服を着ている。色は茶色でお嬢様に仕えるメイドさんのようだ。話し方もどことなくメイドのような話し方だ。

 しかしこの目の前にいる人物こそが姫なのだ。


「あら? この格好? これは私の趣味ですの」


 不思議そうに見ている私に気付きくるくると回りながらメイド服を見せてきた。か、可愛い。

 私とクウチャンの次に可愛いと思ってしまうほどだ。メイドとして雇いたい……いや、ダメだ、いかんいかん、彼女は姫だ。

 見た目がメイドなだけでワッフルは私と同じ姫だ。


「初めまして、私はエイエーンです。今日は泊めてくださりありがとうございます」


 私も見様見真似で姫らしく丁寧にお辞儀したが慣れていないことをしたので動きがぎこちなかった。そこも私の可愛いところの一つなんだけどね。


「うふふっ、可愛い、可愛すぎます。私、エイエーン姫の使用人にでもなろうかしら、うふふ」


「えぇ! ホント!? 嬉しい! ぜひデヴィル城に!!」


「うふふ、それじゃ中でゆっくり話しましょ~」


 本当に私の使用人になってくれそうだ。これは嬉しい。相思相愛。

 私とクウチャンとワッフル姫が並んで歩いた日には暗黒界全土メロメロで滅ぼしてしまうかもしれない。


「里長さん案内ありが……」



 って! えぇぇぇえええええ!!!!

 気絶しちゃってるー!!! まさか私たちの何気ないやりとりを見てて気絶したのか!

 どこぞのお兄ちゃんかよ!! ま、ここの里は安全だからこのままでいいか……



「お邪魔しまーす! 今夜はお願いします~」


「クゥウ!!」


 里長を無視してこのままワッフルの家に上がり込んだ。


「ワッフル姫はさ~」


「ワッフルでいいわよ」


「じゃ、じゃ、ワッフルはさ~、一人で暮らしてるの??」


 あまりにも広い家に家族どころか使用人や料理人などがいなくて疑問に思った。


「えぇ、一人ですわ。私の両親はここの里に保護してもらって、しばらくしてから死んでしまいましたから……」


「え?」


「エルフ達に追放された時に両親共々、呪いをかけられていたみたいですの……それでずっと私は一人で暮らしていますわ」


 気まずいことを聞いてしまった。まだ家の中にお邪魔してもらってから2、3分しか経ってないのに……やってしまった、とりあえず謝っておかないと……


「なんか、その、ごめん……」


「いいのですよ。イツマデーモン様とトーワ様が私たちを保護してくださったおかげで、みんな楽しく生活していますわ。もし保護されなかったら全滅でしたもの……悪いのはエルフ達ですのよ。だから気を病まないでくださいエイエーン姫」


 優しい。なんて優しく強いダークエルフなんだ……この子はしっかりしている。両親も亡くなり一人でこんなに大きな家で暮らしているなんて。


「私も呼び捨てでいいよ。今日から姫同士お友達ね!!」


「嬉しいですわ! ありがとうございます! 


 使用人のような喋り方は癖だろう。そこまでは強制しない。呼び捨てていいと言ったけどちゃん付けされた。まあ、それもいいだろう。


「うふふ、なんか嬉しいですわ、私はこう見えても姫ですからみんな対等にお話ししてくれないのですよ」


「わかるよ、わかる、それ姫あるあるだね」


「なんかエイエーンちゃんと話してたら姉妹ができたみたいで嬉しいです。私にはもう血の繋がった妹も弟もできないですから……」


 なんで話を重くするんだこのダークエルフは!!! 今、結構いい雰囲気だったのに!! また変な空気になっちゃったよ!!


「あはは……姉妹だったらワッフルがお姉さんかな! しっかりしてるし!」


「そうかもしれませんね! エイエーンちゃんは可愛いですから妹みたいです!」


「えへへ~、友達超えて姉妹だねっ!」


 お互い小さな手を握り笑いながら話した。そして重たくなった空気が思ったことに安堵する。


 よかった。重たい空気が一瞬で戻った。もう、ひやひやさせないでくれ~


「ところでエイエーンちゃんはおいくつなの??」


「え~と4万7せ……」


 待て待て待て!! 今、私、妹になったばかりだぞ!! 年齢なんて言ったらおばあちゃんに降格させられてしまう。降格なのか昇格なのか知らないけど私にとっては降格だ。妹のままがいい。

 こうなったらサバを読むしかないな。


「1万7714歳だよー!!」


 ふー、とっさにサバを読んでしまったから3万歳も若く言ってしまった……でもこれでおばあちゃんと言われることは無くなっただろう!


「わぁ! 年齢が近い! 嬉しい!!」


 よかった。年齢が近いのか……これなら本当に姉妹みたいだ。サバを読んだ罪悪感は残るけど、この際、忘れよう。そのうち正直に話す。


「年齢が近くて嬉しいよー本当に姉妹みたいだね!」


「いいえ!! 私のお母様と年齢が近いのですよ! もし生きていたら今頃、1万6167歳ですもの!」


 お母さんと年齢が近かったのかーい!!! しかも私がサバ読んだ年齢よりも若くないか?

 私ワッフルのお母さんよりも年上じゃんかよ。もう妹じゃなくてお母さんじゃん。

 でもおばあちゃんよりはマシか……だったらせめてお姉ちゃんがよかった……がっくし


「あら? どうしたのですの?」


 どうしたもこうしたも全部年齢のせいだ。チクショー!!!!


「ちなみに私は3241歳よ!!」


「若っ!!!!」


 おっと、若すぎて思わず口に出してしまった。それにしても若い。サバを読んで良かった……おばあちゃんどころかひいおばあちゃんになってたよ……



 そんな時だった……


 グゥ~~~~


 突然可愛い可愛いお腹から、お腹の虫がなった。そういえば、薬草採取してから何も食べていなかった。

 いつもは大食いやら余ったチョコやらでお腹を空かすことなんて滅多になかった。


「もしかしてお腹を空かしているのかしら? 今夜は私が腕によりをかけて作った料理をもてなしてあげますわ」


「それじゃお願いしますっ! ずっと何も食べてなかったからさ~」


 そのまま奥の部屋の扉を開いたワッフル。その部屋は食事を行うスペースだった。木でできたテーブルの上にはたくさんの豪華な料理が置かれている。

 デヴィル城でもこれくらいのレベルの料理はなかなかにない。


「す、すごい、これ一人で作ったの??」


「もちろんですわ……私は一応姫ですが、料理人を雇えるほど裕福ではありませんの……」


 あ、まただ、なんかごめんなさい……

 謝りすぎるのもよくないと思うので心の中だけで謝罪しておこう。


 そのまま席につきクウチャンと一緒に夕食を堪能した。どれもこれも味付けがしっかりしていて美味しい。クウチャンも大喜びで食べている。デヴィル城の使用人ではなく料理人として雇いたくなるほどの腕前だ。


 うまいうまいうまい! うますぎるー!!!!!


 クゥウウウウウウ!!!


「うふふ、そんなに美味しそうに食べてもらえるとこっちまで嬉しくなっちゃいますわ~」


「ワッフル、本当に美味しいよ!! ぜひうちの料理長にも料理を教えてあげてほしい! これはデヴィル城でも毎日食べたいくらいだ!!」


「でしたら、使用人や姉妹という立場よりも、その……私を……」


 ワッフルは今までの態度とは大きく変わり、もじもじとし照れている様子だった。照れてる姿も可愛い。これは嫁にしたい。ま、冗談だけど。


「私を……お嫁さんにしてください! エイエーンちゃん」


 へ???


「今なんて……」


「もう一度言わせるんですか? は、恥ずかしいですよ……私を、エイエーンちゃんのお嫁さんにしてください」


 いやいやいや! 聞き直しても一緒だった。お嫁?? え?? 種族は違えど性別は同じだぞ!! いや、同性同士で結婚した悪魔はいるっちゃいるけど、無理無理無理。正直、ワッフルは丁寧だし綺麗だし可愛いし料理も上手だしなんも不満はないけど、お嫁って違くないか? それに私、年齢サバ読んでるし、サバ読んだせいで離婚したって話も聞いたことあるぞ!!


「エイエーンちゃんが可愛すぎて、一目見た時にビビッときました。これって一目惚れってやつですよね??」


 いや、私の可愛さは天下一だな、って、違う違う!! 一目惚れに似てるけどそれは多分違うぞー! 私もワッフルを見たときは可愛いって思った、多分そういう感情だろう。ここはハッキリと断ろう。


「わ、ワッフル、あのね、その……」


「ダメです!! お返事は帰る時でお願いします。それまで私の良さをアピールしますから」


 片手で可愛くガッツポーズを取りウインクをするワッフル。ウインクからハートが飛んでくる錯覚が見えた。

 このまま何も起きなければいいんだけど……



 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 一方その頃、ナガイーキとニンジーン目を覚ましていた。


「何?? エイエーンがダークエルフの家に泊まっているだと!!」


「えぇ、しかもワッフル姫ですよ! ここらじゃ可愛いって噂の……」


「く、俺が気を失っている間にそんなことが……行くぞ」


 ナガイーキは突然立ち始めどこかへ向かおうとしていた。気絶していたせいか少しふらついている。


「ナガイーキ様どこへ??」


「決まっているだろう。エイエーンが泊まっているワッフル邸を少し覗く。どんな人物なのかこの目で見極めなければならない」


(絶対にダメだ。この人また気絶する)


 可愛いと噂のワッフル姫とエイエーン姫を一緒に見たら再び気絶するだろうと、そんな風にニンジーンとボクソーウは思ったが、止めても無駄だということも知っていた。だから止めずにナガイーキの好きなようにさせた。


「ここからなら俺の透視能力で見えるぞ」


「透視とかいいんでしょうか?」


「緊急事態だ。かまわん」


 ナガイーキは右手で筒を作りその筒でワッフル邸を見た。これで透視ができるらしい。ちなみに護衛の二人は透視ができないのでそばにいるだけだ。


「ほ~う、これがワッフルの家か、エイエーンはどこにいる……いた!! 楽しく食事……を……ほほえま……」


 バタンッ……


「「ナガイーキ様!!」」


「気絶するの早くないか? というかこんなに気絶して消滅とかしないよな? 大丈夫だよな?」


「このお方は、なんのために来たんだ……」


 二人の護衛は気絶したナガイーキを担いで泊まっている宿に戻ったのであった。

 やはりダークエルフのワッフルとエイエーンのセットはナガイーキにとっては刺激が強すぎてしまった。

 ただ透視能力で見たから良かった。もし透視能力ではなく直接見た場合には本当に消滅しかねない。それほどエイエーンとワッフルは可愛く美しいのだった。



 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 そんなこんなでエイエーンとワッフルはお泊まりを満喫し、就寝時間となった。


「あー面白かったー!! 薬草採取に来たのにこんなに面白いことになるなんて思わなかったよー!! ありがとうワッフル!!」


「いえいえ、エイエーンちゃんが楽しんでもらえて良かったですよ! ぜひデヴィル城でも盤上遊戯ボードゲームを流行らせてみてください」


「うん! そうするよ、ありがとう、それじゃおやみなさ~い」


 ふかふかのキノコのベットが用意されそこで寝ることとなった。キノコだからなんか粉とか吹き出たりヌメヌメしてるんじゃないかと思われがちだが、全くそんな不快な感じはない。むしろ普通のベットよりもふかふかで気持ちがいい。

 このキノコはベット用に改良を重ねた物らしい。ダークエルフの知識と技術はすごいな……


「クウチャン、デヴィル城のベットよりもふかふかで気持ちいいね」


「クゥウウ!!」


「気持ちいですよね」


「うんうん気持ちい」



 って、今誰か喋ったような? クウチャンが言葉を話すわけないし、キノコのベットだって話さない。

 それなら答えは一つだ!!


「なんでワッフルも同じベットにいるのよ!!!」


「はぁはぁ……だって、エイエーンちゃんの寝顔を間近で見たいんですもの、はぁはぁ……」


 息を荒くしながら愛おしいものを見るような瞳でとろんとした表情をし私を見つめている。顔を赤らめ、瞳にハートが浮き出ている。さらにはよだれを出して今にも理性を失い本能だけで襲ってきそうだ。


「ねぇねぇエイエーンちゃん……実はですね、もっともっと楽しい事がありますのよ……」


 私の翼を線をなぞるように優しく触ってきた。


 うぅう!!! ワッフルは一体、私に何をしようとしてるの……


 ハフハフとワッフルの荒い息が耳元に届く。なんというか、すっごい興奮してる。



 怖っ!!!!! どうしようどうしよう! なんでこうなった!! そういう変なことは断固拒否だ!!!

 ハッキリと言わないと!!


 翼を触っていたワッフルの手が私の腰を触りそのままプリティなお尻にまで近付いてきた。

 そのままワッフルは私に覆いかぶさるような体制になろうと動いている。

 お尻よりも尻尾が先に触れてしまい、ビクッとちょっと驚いた。その反動のまま上体を起こしてしまった。


「あ、あのね……ワッフ……」


 勢いに任せて上体を起こしてしまったので何かに顔面をぶつけてしまった。

 幸い柔らかいものにぶつかったので痛くも痒くもない。ただ柔らかく暖かい何かだ。


 その後、言葉を言おうとしたがすぐにワッフルが溶けるような声で一言、ハッキリと口にした。


「はぁああああん❤︎だぁ……い……たぁ……ん……❤︎ふはひふはほへ~❤︎」



 バタンッ!!



 そのままワッフルはふかふかのキノコのベットに倒れてしまった。

 私には何が起きたのかさっぱりわからなかったが、大人しくなってくれたので結果オーライ!!多分いきなり眠くなったのだろう。急遽泊まることになったからおもてなしの料理とか掃除やらで疲れていたんだきっと。

 でも唇に当たった柔らかくて暖かいものはなんだったんだろう。ま、いいや、私も寝よう。



 エイエーンはワッフルの唇に当たりキスしてしまったことを知らずそのまま就寝した。

 ワッフルはエイエーンが大胆にキスをしてきたと思い込み気絶してしまったのだった。



 姫という生き物は寝相が悪いもの。

 エイエーン姫もワッフル姫も寝相が悪い。セミダブルほどしかないキノコのベットで絡み合って眠っている。

 不思議なことにお互い1回も起きることなく熟睡していたのだった。

 クウチャンは可哀想なことに寝相の悪い二人の姫のせいで何度も夜中に起きてしまっていた。



 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 翌朝



「ふぁ~、よく寝たーって、あれ? 翼と尻尾が、ワッフルの髪に絡まって……取れない……」


「いてて、あっ、エイエーンちゃん、おはようございます。いつの間にか寝てしまってました、っていててて……髪が……」



 絡み合っていてなかなか取れない。痛がりながらも朝から興奮するワッフルだった。


「ハサミとかないの?? 無かったらクウチャンの牙で!」


「それって私の髪を切るつもりですの? ダメですダメです! ダークエルフは長い黒髪が命なんですのよ~」


 やっぱり絡まった髪の毛を丁寧に解くしかない……


「でもこのままでもいいんじゃないんですか?これってつまり結婚ですよね? ずっと一緒ってことですよね? ぺろッ」



 首舐められたんですけどぉおおお!!!! なんで舐めてきたぁあああ!! このダークエルフ怖ぇええええ!!



「クウチャン! この髪を噛みちぎって!!」


「クゥウウ!!」


「待って待ってください!! 冗談ですよ冗談!! も~う……昨夜はあんなに大胆だったのに……」


 顔を赤らめ照れた女の表情で息を荒くしている。

 私が寝てる間に何があったんだ……怖すぎる。私の魅了がワッフルをここまで変貌させてしまっている! 私の魅了の方が怖い!



 ピーンポーン、ピーンポーン!



「おっ、フエ達ですかね? エイエーンちゃんへの贈物を持ってきたようですわね」


「こんな時に~ぬぐぐぐう」


 ワッフルが言った通り扉の前には邪精霊の双子の姉妹、フエとアリーがいた。


「エイエーン姫、ご用意できました……って大丈夫ですか?」


「うわ~すんごい絡まってる~何してたの??」


 フエとアリーが驚くのも無理はない。私たちは絡まったまま扉を開けたのだから。


「邪精霊って器用って噂聞いたことあるんだけど……二人はこれ解けたりする??」


「エイエーン姫の頼みなら任せてください!!」


「お安い御用ですっ!!」


 双子の姉妹は絡まった髪を解き始めた。声もかけていないのに息ピッタリで飛び回り、あっという間に絡まっていた髪が解けた。

 邪精霊が器用だという噂は本当だった。


「フエとアリー、ありがとうね~」


「もっと絡まってていたかったです~」


 そんな可愛い可愛い悪魔とダークエルフが絡み合いながら可愛い可愛い邪精霊の双子に解いてもらっている瞬間をナガイーキは目撃してしまった。



「エイエーンが外に出たなッツグガハッツ!!!!! ウゴヴォェエエ!!!」


「「ナガイーキ様が吹っ飛んだ!!!!」」


「大変だ!! エイエーン姫とワッフル姫、さらには邪精霊の2匹を直接見てしまった!!!!! こんなに吹っ飛ぶほど気絶してしまうなんて! 恐ろしいほどの可愛さ!!」


「そんなことよりナガイーキ様を追いかけなければ!!!」


 ナガイーキはエイエーン達の美しさにやられ、ダークエルフの里の森に向かって吹っ飛び続けた。それを二人の護衛が追いかけて行った。


「ん? なんか変な音したけど気のせいか……それで黒い薬草コクサイはどこにあるの?」


「今、の邪精霊とドワーフ達が持ってきてますのでしばらくお待ちを!」


「え? なんでなの?」


 嫌な予感がした。ただの薬草なのに里中の邪精霊とドワーフが必要なのか?

 邪精霊もドワーフも比較的小さな種族だ。もしかしたら黒い薬草コクサイは大きいのかもしれない。それか重いのかも。そうだと信じたい。


「持ってきたよぉおお!!」


「おっ、噂をすればってやつですね! こっちで~す!!!」


 里中の邪精霊達が白い大きな袋を引っ張っている。とてつもなく大きい。怪物クラーケンなみだ。

 その後ろをドワーフ達が一生懸命に押している。


「約束の黒い薬草コクサイでございます!!」


 ドーーーンっとそびえ立つ大きな白い袋。この中に黒龍が好物とされる黒い薬草コクサイが入っているらしい。


「クゥウウウ!!!」


 黒龍のクウチャンも尻尾を振って大喜びしている。香りだけでわかるみたいだ。

 それにしても大きい。大きすぎる。もしかしたら数か? 数が多いのか?


「あの~もしかして黒い薬草コクサイを4万7714本あったりしない??」


「その通りでございまするぞ!! エイエーン姫様の年齢の4万7714本の黒い薬草コクサイでございまするぞ! いつもデヴィル家の皆様にはお世話になっております。些細な贈物ですが感謝の気持ちとしてお受け取ってくださいませ!」


 1人のドワーフが元気よく答えた。私は、やっぱりかだから1日も準備にかかったのか……と、ため息をつきながら肩を落としたが、私の後ろでもう人物は震えた声で口を開いた。


「4万7714歳……何かの聞き間違いでしょうか??」


 しまったー!!! 年齢サバ読んでたんだった!!! 誤魔化しきれないぞこれ!! バチがあったった!!! 最悪だー!!!


「ごめん、ワッフル、年齢を言うの恥ずかしくて……その、ちょっとだけサバ読んじゃった……」


「素敵❤︎」


「え?」


 聞き間違いだろうか?泣いて怒っても仕方がないと思っていたが反応が全くの予想外だった。


「素敵だわエイエーンちゃん❤︎こんなに歳を取っていてもそれを感じさせないほどの美しさ。あ~ん今すぐ結婚したい~❤︎もう一度絡み合いましょう~、ね?ね?いいでっしょ~❤︎」



「いや、いや、もう勘弁して~!!!!!!」




 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 こうしてダークエルフの里での2日間は終わった。


 ダークエルフの姫のワッフルとはなんかと理由をつけてダークエルフの里に残ってもらうように説得した。

 渋々承諾してくれたが寂しそうな顔を思い出すと罪悪感が残る。

 でもまた遊びに行く約束をしたのでこれでいいのだ。友達の関係のままが一番いいのだ。


 いただいた4万7714本の黒い薬草コクサイは護衛達に持って帰るように伝えた。すぐに持って帰ってくると思ったがかなり時間がかかっていた。何かトラブルがあったんだろう。無事に帰ってきてくれてよかった。


 黒い薬草コクサイのレシピもいただいていたのでライオン頭の料理長に色々と作ってもらった。4万7714本の黒い薬草コクサイを使い切るために、これから毎日、黒い薬草コクサイ料理が続くって考えると胃もたれがする。

 でもクウチャンは喜んで食べてくれてよかった。


 ただやっぱり年齢分の贈り物はやめてほしい!!!

 行き過ぎた感謝は迷惑だぁあああ!!!

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