婚約も大変なのです!
今日もデヴィル城は騒がしい。
いつも騒がしいが、今日は特別にいつも以上に騒がしいのだ。
「ふぅあぁああ」
と、寝起きで大きなあくびをした。
この可愛い可愛い悪魔ちゃんは誰かって?
そうこの私。
暗黒界悪魔国家デヴィル家の長女にして姫!
デヴィル・エイエーンである。
私の目の前を忙しそうに走る白い雌兎の使用人が通った。
メイド服のスカートの端を摘みながら優雅に走る姿はまさに理想のメイドだろう。
「何をしてるんだろう??」
気になって思い追いかけてみることにした。
使用人は城のあちらこちらに花を飾って装飾をしている。
その花は全て黒い花だ。見惚れてしまうほど綺麗な黒い花だ。
今日は祭りごとでもあるのだろうか?
「ねぇ~ねぇ~何してるの~?」
どうしても気になってしまい作業中に後ろから声をかけた。
「わぁあ!!! 驚きました。エイエーン姫ですか」
「あはは~驚かしちゃってごめんね~、で、何してるの? 今日って何かお祭りとかあったっけ??」
「何をおっしゃられるのですか! 今日は大切な日ですよ!! さぁエイエーン姫も起きたのでしたらトーワ様のところへ行って準備して来てください」
「大切な日?? 私も準備??」
何が何だかさっぱりわからない。
今日が大切な日で私も何か準備をしなくてはいけないみたいだ。
可愛い顔を斜めに傾けてきょとーんとした顔をする。その顔を使用人が見て、あまりの可愛らしさに胸を抑え倒れそうになる。いや、壁に寄りかかったおかげで倒れずにすんだ。
悪魔族に寿命はないがちゃんと心臓という臓器はある。普通の地球人と同じで緊張したり興奮したりすると心臓が早く動いたりするのだ。だから使用人は胸を抑えているのだった。
心臓の動きで相手の心情を読み取ったりもする悪魔族もいるらしい。
「くぅうう~! 朝からいい笑顔を見れた~! 今日は最高の日になりそうだ」
私には聞こえない声でガッツポーズをしながら何か呟いている。
その使用人の顔はとても喜びに満ち溢れていたので何を呟いているのかは聞かなかった。
というか絶対私のことだ。私をずっと見ているんだもん。
とりあえずママのところに行って今日の事を聞いてみよう。
小走りでデヴィル城の中を駆ける。
あまりにも城が広すぎるのでママのいる部屋まで行くのに小走りがちょうどいい。
ママの部屋の扉の前までついた。そのまま扉を思いっきり開く。
バーーーーンッ!!!!!!!
「ママ!!!!!!」
開口一番にママを呼ぶ。
「あらぁエイエーンちゃ~ん!!! 今日も寝癖が素敵だわぁ!!! こちらにおいで! 早速準備をしましょう!!!」
ママは、すでに化粧をしていて張り切っているみたいだ。
それも特別に厚化粧をして張り切りすぎている。
何に張り切っているのか?そして今日は何の日なのか?
私はその理由を聞きに来たのだ。だから聞こう。
「ママ!!! 今日は何があるの??? 城もいつもより飾り物が多くて……それにママもお
「何を言ってるのエイエーンちゃん。今日は大事なお客様が来る日よ!!!」
「お客様??」
初耳だ。パパやママの友人とかだろうか?
それとも別の国のお偉いさんでも来るのだろうか?
どちらにせよ姫である私も準びをしなければならないのは確かだった。
「そうよ! エイエーンちゃんに会いに来るのよ!!! さぁエイエーンちゃんもお
パパとママの友人でも別の国のお偉いさんでもなく私に会いに来る誰かがいるらしい。
「ママ、もしかしてそれって……」
「そう! エイエーンちゃんの婚約者候補よ!!!」
「えぇええええ!!! 聞いてないよぉぉおおおおおお!!!」
デヴィル城中に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。
毎年何人か私を妻にしたいと婚約を持ちかけてくる他族の王子達がやってくることがある。
その日が今日らしい。私は聞かされていなかった。
いや、言っていたような気がするけど忘れた。
記憶にないから言っていないだろう。
とにかく相手が気になる。
「ママ、相手は、その~誰だったっけ???」
「オークよ!!」
「あぁオークか……オークね~」
オォオオオオクゥウウウウだとぉおおおお!!!!
オークはピンク色の太った豚の悪魔だ。
同じ悪魔族に属するが私たちは暗黒界悪魔国家に属する種族でオークは暗黒界猪人国家に属する種族だ。
私みたいに可愛い可愛い悪魔ちゃんには絶対に合わない種族だ。
だって醜い豚なんだもん。
「ママ、オークなんて嫌だよぉ、絶対に嫌だぁ……」
「エイエーンちゃんの気持ちもわかるわ。でも恋はいつ起きるかわからないものよ。一度だけ顔合わせて話を聞いてみましょう。それでも嫌だったらパパとお爺様がすぐに追い出してくれるわ!」
「そ、それならいいけど、オークだもんな……あはは……」
オークという種族名だけ聞いただけでもこんなにも嫌な気持ちになる。
絶対に婚約が成立するわけがない。
私はパパやおじいちゃんみたいにカッコ良くて強い悪魔がタイプだ。おじいちゃんより強い悪魔は私の知る限り一人もいない。
もしおじいちゃんより強い悪魔がいるのなら私は一目惚れしているだろう。私からアプローチだってするかもしれない。いや、絶対にする。
オークは暗黒界の中でも強さは下の方だ。いわゆる雑魚ってやつだよな。だからオークはありえないのだ。
でも、ママも楽しそうにしてるし城だって装飾が施されてるし、ちょっとだけ付き合ってあげるかな。
「エイエーン姫、こちらです」
キリンの頭をした使用人が化粧台の前まで案内してくれている。
ここでお化粧をするのだ。この使用人は主に化粧やドレスアップなどを得意とする優れた使用人だ。
これ以上可愛くなると悪魔族の手下達が見惚れてしまうな。もうすでに私にメロメロだけどね。
「前よりも可愛くしてね!!!」
少し楽しくなってきた。
私の小さな翼もパタパタと動いている。
ハートの先っぽの尻尾もクネクネと動いている。
「かしこまりました、前よりも可愛くなったら、ぐへっ、みんなメロメロで、ぐへへ、倒れちゃいますね、ぐふふ」
使用人が丁寧にお辞儀したが化粧の出来上がりを想像してニヤけてしまっている。
そのニヤケ顔のまま化粧の準備が始まった。
★☆★☆★☆★☆
一方その頃。
大広間から邪悪で殺意が混じったオーラがうねうね渦を巻きながら溢れていた。真っ黒な闇で、近付く生き物全ての命を奪いかねない勢いだ。実際にハエがデヴィル城に入り込んでしまい跡形もなく消滅してしまった。
そんなオーラを出している人物が3人もいる。
「お父様! お爺様! 俺は許せない!!! 相手がオークだ!!!! オークごときが可愛い可愛い妹に婚約を持ちかけたと聞いて驚愕した。話し合いにもならない! 妹には会わせるわけにはいかない!!!!」
エイエーンの兄であるデヴィル・ナガイーキが血相を変えて怒っている。
エイエーンのことが好きすぎるシスコンの兄は当然の反応だ。
「その通りだ。我が息子ナガイーキよ!!! 俺の可愛い可愛い娘をオークなんぞにはやらん! 絶対の絶対だ!!!! 今すぐにでも猪人国家を滅ぼしてもいいんだが、同じ暗黒界という事で見逃してやろうと思う。だが娘に変な事を少しでもしたらすぐに滅ぼす」
エイエーンの父デヴィル・イツマデーモンもナガイーキ以上に怒りをあらわにしていた。
以前、同じ婚約のことでアンデット国家を滅ぼしたこともある。今回もオークが下手な真似をしたら本当に滅ぼしてしまうだろう。そうならないことを祈る。
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
無言の圧でこの中で一番邪悪で殺気だった黒いオーラが溢れている。
この悪魔はエイエーンの祖父のデヴィル・モウスーグだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
オーラだけで大広間の空間がよじれ、時空を超えそうだ。黒い雷が目で目視することができるほどオーラは凄まじい。さすが神殺しの異名を持つほどである。
そんな中、デヴィル城へ向かっているオーク達にもこの邪悪なオーラは届いていた。
「ハムカーツ王子!!!! デヴィル城から我々を拒む邪悪なオーラが!!!!」
「わかっている。それほどエイエーン姫が大事なのだろう。なんて素敵なご家族なのだろうか。さぞエイエーン姫も素敵な悪魔なのだろう」
この人物こそエイエーンに婚約を持ちかけたオークの王子ハムカーツだ。
ハムカーツもエイエーンもお互いの顔を知らない。暗黒界では王子と王女の婚約でお互いの顔を知らないということは普通のことだ。
「ご家族からの洗礼。ここで引き返してしまえばオーク城で待つ父上に顔向けできない。揚げられても焼かれても必ずエイエーン姫を嫁にもらおう!!! このまま進むぞ!!!」
ブフォオオオオ!!!!!!
ハムカーツと同行しているオークの従者や護衛達総勢100名の士気が高まった。
士気が高まったのを感じ取ったのか祖父のモウスーグはニヤリと笑った。
「ほぉ逃げずに向かってくるのか。いいであろう。だが可愛い可愛い孫は絶対に渡さんぞ」
そう小さく呟いたのであった。
★☆★☆★☆★☆
そして場面はエイエーン姫に戻る。
エイエーンは可憐なドレスに身を纏い美しい姿へと変貌を遂げていた。
元が良すぎるのでこの美しい姿はエイエーンを愛する者たちにとっては毒だ。その姿を見ただけで胸を痛め気絶してしまうだろう。
「さぁ可愛い可愛いエイエーンちゃん!! パパたちが大広間で待っているわよ! もしかしたらお相手も既に来ているかもしれないわね! 急いで向かいましょ~~!!! きっとパパもお父様もナガイーキもエイエーンちゃんの姿を見て驚くわよぉ~」
ママは張り切って私の腕を強引に引っ張る。
この可愛い可愛い姿を早くみんなに見てもらいたいのだろう。
「そんなに急がなくても~~~!!!!」
あぁ、嫌だ。オークなんて嫌だ。
ドレスや化粧してもらって、可愛くそして綺麗になるのはすごく嬉しいし楽しい! 心も尻尾も翼もぶるんぶるん動いちゃうほどに!
でも婚約者候補があの醜いオークだ……会う必要もないだろう。
何でこんなにママは張り切っているんだろう。
あぁ、嫌だなぁ……
どんな権力者でも金持ちでも強くても私は見た目も大事だと思ってるよ。
悪魔は見た目じゃないってよく言われたりするけど見た目も大事だろっていつも思うね。
そのまま強引に引っ張られ大広間へ向かって行った。ずっと手を離さなかったのは私が逃げないためだろう。
そしてパパ、おじいちゃん、お兄ちゃんが待つ大広間に到着した。
大広間にはデヴィル城の悪魔たちが勢揃いしていた。いや、正確に言うと今、私とママと使用人が到着して全員だ。
ぬぬぬぬぬぬ
ゴゴゴゴゴゴ
すごいオーラと殺気だ。戦争でもするのだろうか?ただの婚約の挨拶なのに……
これはデヴィル城の全員が私のことを好きすぎる、愛ゆえの行動だろう。
とりあえず殺気だけはやめてもらおう。
「パパ!!! どうかな???」
大声でパパを呼ぶ。誰も私に気付いていなかったので全員が一気に振り向いた。
「エイエーン姫!!!」
「エイエーン姫だ!」
「美しい!!」
「可愛い!!!」
「お綺麗!!!」
私の可愛い可愛いドレス姿をお披露目した。
うぉおおおおお
「「「可愛すぎる! 可愛い! 美しい! 綺麗だ!」」」
歓声!
ウォオォォオォォォォ!!
「「「超絶美人! 美しすぎる!」」」
大歓声!
聞こえてくる言葉はどれも嬉しいものばかりだ。
中には私の美しさに心を奪われ倒れてしまっているものたちもいる。
珍しくお兄ちゃんは倒れていなかった。
でもよーく思い出したらお兄ちゃんは立ったまま気絶することが多い。
まさかとは思ったが今回もやっぱり立ったまま気絶しているみたいだ。
こんなに離れているのに……ちゃんと私の姿が見えているのだろうか?
それなのに気絶するなんて相当なシスコンだ。もっと近くで見たら多分消滅してしまうだろう。
お兄ちゃんには消滅してほしくないのでこれ以上は近付かないようにしよう。
そんなことをしている間に奥からお客様が到着した。例の婚約者候補の『オーク』だ。
確か名前は……
「我の名はハムカーツ!!! 暗黒界猪人国家13代目王子!! この度はこのような式典をご用意していただき誠に感謝申し上げます」
深々と丁寧に膝を地につけてお辞儀をした。
後ろにいる100人くらいのオークたちも同じように丁寧に頭を垂れている。
ハムカーツ王子だけ仮面を被っているので素顔がわからない。ただ、後ろの100人ほどの手下たちは見ての通り豚ヅラで醜い。
どうせ、その仮面も醜い顔を隠すための仮面なんだろうと、私は思った。いや、そうだとしか思えない。
「何しに来た」
それがパパが最初に放った鋭い言葉だった。
「エイエーン姫を我が妻にしたいと思いやって来ました」
頭を垂れたまま答えるハムカーツ。
「まずはこちらを」
ハムカーツはそのまま手下たちが持っていたものをこちらに渡して来た。
「これは???」
「こちらは猪人国家全土より集めて来ました。赤い薔薇でございます。エイエーン姫の
私の年齢分4万7714本も赤い薔薇を用意して来たみたいだ。オークにしてはやるではないか。
たださっきも言ったけど権力や財力よりも顔だ。醜いオークとなんか絶対に結婚なんてしない。
「なるほど。だから大勢で来たのか?」
「さすがです。元国王モウスーグ様。モウスーグ様が仰っられた通りでございます。このように大勢で来てしまい申し訳ございません。これでは戦いと勘違いしてしまわれても仕方ありません」
「よかろう。お前らバラを回収するのじゃ。我が孫の部屋の前に綺麗に並べるのじゃぞ」
「かしこまりました」
デヴィル家の手下たちが赤い薔薇をオークから受け取り回収している。
「綺麗な薔薇ね。エイエーンちゃん!!」
「綺麗なんだけど流石に多すぎるよね。4万7714本って……プロポーズで相手の年齢分の薔薇を贈りたい気持ちはわかるけど、流石に多すぎる」
4万7714本の赤い薔薇は流石に多すぎる。
「では頭をあげよ」
ずっと頭を垂れていたハムカーツにパパが鬼の形相、いや悪魔の形相で言った。
「美しい」
ハムカーツが頭を上げて最初に言った言葉だった。
仮面を被っているので何を見て美しいと言ったかわからないが、多分私のことを見ていたに違いない。
その後すぐに、
「失礼しました。エイエーン姫のあまりの美しさについ声に出てしまいました」
と、言ったのだった。
「ハムカーツと言ったな、なぜそのような仮面をつけている。この場に相応しくないとは思わんのかね??」
悪魔の形相を変えずにパパが言った。確かに仮面を被っているのは相手に失礼だ。
「外せないというならこのまま立ち去ってもらう」
パパは扉の方を指差した。
「私の顔は他のオークたちとは違いとても酷く醜いです。なのでお見苦しいと思い仮面をさせていただきました」
「御託は良い。ささっと外すんだ!!!!」
「待ってよ! パパ!! 他のオークよりも酷くて醜いって!! もう顔なんて見る必要ないよ!!! 私かっこいい顔じゃないと無理!!!!!」
そんなに醜い顔なら見たくない。夢にまで出て来てしまいそうだ。
だから見ない方が絶対に良いに違いない。
「だそうだ。もう立ち去れ!!!!!」
全体が凍りつくような強い殺気が大広間全体を包み込んだ。
「ま、待ってください!!!! せめてお話だけでも!!!!!」
引き下がらないハムカーツだった。
「黙れ!!!!!!!!!」
ドゴゴゴゴヴォゴォオオオオン
パパの邪悪なオーラがオークたちを吹っ飛ばした。
「ゲホッ……ゲホ……ハムカーツ王子!!!」
「大丈夫でしょうか? ゲホ……ゲゲッホ……」
「あぁ心配ない、エイエーン姫に捧げる赤い薔薇を全て置いて引き返そう。あぁ……父上になんて話せば……」
酷な話だが無理なものは無理なのだ。このまま帰ってもらおう。
パパが放った邪悪なオーラは凄まじく土煙を上げて前が見えない。
ただ、オークたちは反撃する様子もなく大人しく立ち去ろうとしているのはわかる。
「我々はこのまま失礼したします。全ての赤い薔薇を置いて直ちに帰らせていただきます。ご無礼お許しくださいませ」
土煙の中、大声で謝罪するハムカーツの声が聞こえた。
王子で礼儀正しい。あとは顔さえどうにかなれば良かったのに……、
私はそう思っていた。
土煙が消えていきオークたちが見えるようになっていた。
そこには仮面が粉々に砕き割れてそれを一つ一つ丁寧に拾うハムカーツの姿があった。
後ろ姿なので顔は見えない。
見たくないと言ったけど、どれほど醜いのか興味が湧いてきた。
気になって仕方がない。
私はそのままハムカーツのところまで飛び出した。
顔を見るために仮面の破片を拾うハムカーツの前に立つ。
「エイエーンどうしたのじゃ!?」
「エイエーンちゃん???」
ハムカーツの顔が見えるように座り込んで顔をじっくりと覗き込んだ。
「エイエーン姫にこの顔を見られてしまいお恥ずかしいです。どうかお忘れください」
「ぇ…………」
「エ、エイエーン姫??」
私は返事することはなかった。
なぜならハムカーツの顔を見て気絶してしまったからだ。
「貴様!!!!!! エイエーンに何をした!!!!!」
「オークめ!!!!!! 許さんぞぉおお!!」
気絶した私を見てパパとおじいちゃんが暴れ出してしまった。
戦争が起きてしまったのだ。
言わなくてもわかることだが、その場にいたオークは全て倒された。戦争にもならなかったのだ。
同じ暗黒界に住むものでも最強と最弱ではここまで差が激しいのだ。
ただ一人だけ、ハムカーツ王子だけは最後まで立っていた。
運よくハムカーツ王子だけ生き延びたらしい。
逃げたハムカーツがいるであろう猪人国家を滅ぼしに行くということでパパとおじいちゃんそして目を覚まし状況説明を受けたお兄ちゃんが準備をしていた。
パパたちが出発する前に私も目が覚めた。
そして、そばにいたママと使用人から全て話を聞いた。
そのまま慌てて飛び出した。
「まだ間に合う!!! まだ間に合う!!!」
目の前にはパパとおじいちゃんが立っている。
かなり武装している。本当に猪人国家を滅ぼしに行くのだと、その姿からわかる。
「待って!!!!!」
「エイエーンか!!! 無事で良かった」
「今からあのオークどもの国を滅ぼしに行くぞ!!!」
パパもおじいちゃんも気合い十分だ! 間に合って良かったと心から思った。
「違うの!!! 国を滅ぼしちゃダメ!!!!」
「どういうことだエイエーン!!! あの豚野郎に気絶させられたんだぞ!!!」
お兄ちゃんが叫んだ。
いや、あの時お兄ちゃんも気絶してただろうが!!!! と、思ったがその気持ちは心の奥にしまっておこう。
だって私が気絶した理由はお兄ちゃんと同じなんだから。
「私!!! ハムカーツ王子の顔を見て気絶したの!!!」
「知っておる」
「なんでかわかる??? カッコよかったからだよ!!!! 今まで見てきたどんな悪魔よりも!!!! パパやおじいちゃんよりも!!!! イケメンだった!! 信じられないほどイケメンだった!」
心の底から叫んだ。私はハムカーツ王子に一目惚れしてしまったんだ。
本当にイケメンすぎるその姿を夢に現れてほしいと思うくらいだ。
「そうか」
ママの言った通り本当に恋はいつ起きるかわからない。たった今それが起きたのだから。
気絶してしまったのは私のせいだ。
いや、遺伝子のせいだろう。だってお兄ちゃんもすぐ気絶してしまう。
パパたちが暴れたせいでハムカーツ王子から貰った
4万7714本の赤いバラのほとんどが焼けてしまった。
こんな争いをしてしまったからもうハムカーツ王子と会うことはできないだろう。いや、会おうと思えば会えるのだが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だから私は会うのをやめた。これからはちゃんと話を聞いて婚約相手を選ぼうと思う。
焦げてしまった赤い薔薇を見ながら私は思ったのだった。
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